第24話 開発合戦

 その宙域に、日本、アメリカ、イギリス、ドイツの艦が集結していた。日本からはあすかが派遣されている。新しいワープゲートを設置した付近に偶々かルナリアンの艦隊が集結しており、大掛かりな作戦となったのである。

 ルナリアンにしても、ゲートを解析できれば、戦況は大きく変わる。本拠地を持たずに宇宙船で動くだけ、地球側よりも自由に動けて、有利かも知れない。

 各艦の戦闘機パイロットは戦闘機で待機しており、作戦の開始を待っている。

 そして各艦は、ルナリアンを包囲せんと所定の位置に就く。

「時間だな」

 時計を見て気を引き締めた時、峰岸さんの声が届く。

『飛行隊各機、出撃して下さい』

『手筈通りにな。いつも通り、無理はするな』

 隊長が言い、全員「はい」と返事をして、順に発艦して行く。

 そして、担当宙域へ展開する。ルナリアン側も戦闘機を展開させるのがレーダーでわかった。

「レーダーコンタクト。マスターアーム・オン。エンゲージ」

 ルナリアンの新型機と、交戦状態に入った。

 ルナリアン側は、新型機が大量に実戦投入されており、旧式と半々と言ったところだろうか。俺達は優先的に、新型を相手取る事にする。

 とはいえ、流石は先輩達だ。性能差をものともせずに上手い連携で仕留めて行っているし、接近戦に持ち込んで機動力を削ぎ、こちらの土俵に相手を引きずり込んでいる。

 これはシミュレーター訓練でも、苦戦を強いられた手だ。

 明彦も、元気に突っ込んではギュンッと腕を伸ばして相手を掴み、態勢を崩させてとどめを刺したりと、なかなか個性的な戦い方をする。その上、生半可な攻撃を無視しての突っ込みは、何となく怖い。

 真理は正確に狙撃をしていたが、接近されると、散弾をばら撒いて相手を怯ませ、とどめを刺す。そしてフイッとレーダーから姿を消しては、位置を変える。

 俺は手足を動かして機体の向きを変えるという、最小限の動きで敵の攻撃を回避し、フェアリーの持つライフルとビットで複数の敵機を落としていく。

 日本の担当宙域は掃討が済んだ。

 ここで、一旦補給に戻る。

 ターンアラウンドと言うが、映画では、着艦したらササーッと補給してアッという間に再出撃、という場面がよく出て来るが、あれは嘘だ。大体、平均で2~3時間かかる。

 ところがフェアリー、ウィッチ、ノームはこれが短い。

 着艦後、スポットへ戻ると、即座に機体システムをシャットダウンさせ、機体の誤作動を防ぐセーフティーピンを各部に差し込む。整備員の1人がコクピット、エンジンの確認をし、パイロットからの不具合を聴き、機体の自己診断装置を操作したり、機体外周の損傷個所を確認。

 整備員2人は、外部兵装の装着。これが一番時間がかかる。

 整備員1人は機関砲弾の再装填で、これが終わると、外部兵装の装着のサポートに入る。

 整備員1人は燃料と機体各部にある整備用パネルのチェックをし、終われば、外部兵装の装着のサポートに入る。

 それらが全て終わると、セーフティーピンを抜き、パイロットが搭乗、機体を起動させて滑走路へ向かう。

 この間、フル兵装でも10分だ。

 峰岸さんから通信が入る。

『アスカより各機。アメリカ担当宙域に回って下さい。無人機の不具合が発生したようです』

『キャット1了解。

 聞こえたな。キャット、バード、編隊を組み直して行く』

 ヒデの命令に各々が了解と答え、3機で発艦後、隣のアメリカ担当宙域に急行する。

 ジャミングを受けている。勿論、それに対抗するべくECCMは作動しているだろうが、アメリカの無人機は、停止したり友軍機を攻撃したりしている。

「なんじゃこりゃあ」

『無人機も落としていいよね』

「友軍機を攻撃するやつはいいだろ。危なすぎる」

『わかったー』

 言うや、真理は片っ端から狙撃して行く。うん。これですっきりした。

 俺と明彦は、到着したキャットと挟み込むように、ルナリアン機に攻撃を仕掛けて行った。


 乱戦というか混戦というか、お互いの損耗はあったもののゲートは守り通し、ルナリアンは撤退した。

 日本自衛軍に限って言えば、大した被弾もせず、被害は無いに等しい。

「ヒデ達の連携って、やっぱり凄いな」

「ボク達もやってるとは言え、あれに比べたらねえ」

「職人技ってやつだよな!」

 自衛軍は連携を重んじ、他国は個人プレーをする。これは自衛隊の頃からも顕著だった。ある種、お家芸と言えなくも無い。

「そのヒデ達にも、新型試作機だよ」

 氷川さんと雨宮さんと姉御が、背後に現れた。

 一旦あすかは実験団本部に戻り、新型機の受領と改修を受けているところだ。

 新しい機体はハニービー改。見かけはハニービーカスタムに近いが、機動性がルナリアンの旧型機とは同等だ。

 それを可能にしたのが、マリオネットシステムだ。ゲームでは、フルダイブしてアバターと同化し、現実とほとんど同じように動く事が行われている。これを利用したものだ。

 まずパイロットはコクピットに入るが、体は特殊なゲルで固定され、ピクリとも動かない。そして頭にかぶったヘルメットのコネクターを介して、コンソールに向かう人形に同化し、操縦するのだ。

 最初は直接機体を制御する方針だったが、それには向き不向きがあり、ダイレクトリンカーの素養のない者は、誤作動や遅れの元になる事が懸念された。そこで、誰でもゲームならできる事から、このマリオネットシステムになったという経緯がある。

 ダイレクトリンクによる操縦よりは機動性能が劣るものの、十分画期的な機動性が期待できる。

 そして俺達も、このゲル式を採用するらしい。

 ただし俺達はダイレクトリンクによる機体の直接制御で、その結果、ルナリアンの新型以上の機動性能が予想されている。

 いや、強要か?

「ゲルに埋まるんだろ?気持ち悪くないかな」

 明彦は、想像しようとして唸っている。

「ベタベタするとかぁ?」

「いや、エンジンオフでサラッとするし、くっつかないし」

 雨宮さんが説明してくれる。

「何か物凄く無防備で放り出されるような感じがするよな。この後のテストが、楽しみなような怖いような」

 俺は肩を竦めて、そう言った。

「まあ、大丈夫。心配ないって」

 雨宮さんは自信タップリで笑っている。

「搬入と改修は今日中に終わって、明日はテストだ。しっかり頼むぞ」

 氷川さんも機嫌がいい。

「ハニービー改がいい結果を出せたら、汎用機として自衛軍の主力になるよ。

 ああ、あんた達。そろそろ授業じゃないか?」

 姉御が時計を見て言う。

「あ、本当だ」

「ああ・・・」

「じゃあ、行こうかあ」

 俺達は操艦室へ向かった。

 操艦室のいつもの席へ行くと、ヒデと隊長が搬入の様子を見ていた。

「来たか」

「あっちが気になるから、今日は自習にしようぜ!」

「アキ、自習は自分で勉強する事であって、さぼる事じゃないぞ」

 ヒデに言われ、明彦は本気で驚愕したような顔をしている。

 まあ中学では、自習と言われれば、プリントをサッと片付けたら後は自由時間、だったからな。

「明日のテストの結果が良ければ、あれが正式配備されて、主力になるだろう。フェアリー、ウィッチ、ノームには及ばずとも、お前らの負担は減る筈だ」

「ヒデ・・・」

「だから、しっかり勉強して、高校もちゃんと卒業するんだぞ」

「う、はい・・・」

 一瞬感激に目を潤ませた明彦は、別の涙で目を潤ませた。

「あ・・・」

 ニュースを映していたサブカメラに、気付く。

 アメリカ軍が、広域戦術兵器の開発に成功し、実験で、廃棄衛星が一瞬で蒸発したのを観測したとの臨時速報が流れていた。

「これって、核みたいなものかなあ」

「ああ。核は使用禁止の条約があるからな。でも、使用方法とか効果は、まさに核だろ」

 新兵器の開発合戦は、どこまで加熱していくんだろう。人間の遺伝子レベルで、戦争というものは刻み込まれているんだろうか。

 ノリブは、そんなヒトを殲滅するためのものだったりしてな。

 俺はそんなばかばかしい思いつきに、苦笑を浮かべた。




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