Op.56 狙撃

 ミコトの声明が終了した直後から、全世界規模で国際会議への参加を促す世論が巻き起こった。そして世論に押される形で、アルテシア王国に最後通牒を突きつけていた各国の政府も、一時的にその取り下げを余儀なくされた。

 カムラは国内外の有識者を招き、世界安全保障機構憲章の草案策定に取りかかった。ミコトも参加を要請され、連日の会議において意見を求められた。

「苦労をかけるな」

 休憩時間に、シタンがミコトを労った。

「いえ、あまり役に立てていない気がします……もっと学校の勉強を頑張っておくべきでした」

「ははは……まあ、テラスでコーヒーでもどうだ? 今日は私が淹れよう」

「……大丈夫ですか?」

「どういう意味だ」

 他愛ない会話を交わしながら、ミコトとシタンは並んでテラスへと向かった。

 その移動中だった。

 ミコトは何者かによって、狙撃された。

「ミコト……? そんな……ダメだ……」

 床に倒れ伏し、身体から多量の血を流すミコトを抱え上げ、シタンは慟哭する。

「あ……ああ……ミコト……ミコトおおおおおっ!」


          ◆


「配慮が足りなかった……十分に予測できる事態だった」

 カムラは悔しげに唇を噛んだ。

 目の前のベッドに寝かされているミコトは、一命を取り留めたものの、狙撃を受けた日から意識不明の状態が続いていた。

「………」

 シタンはベッドの傍らに座り、ほとんど睡眠を取らないままミコトを看病していた。

「そろそろ会議の時間だ。すまないが、私は行くよ」

 カムラは告げ、病室を後にした。

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