第50話:警備隊指令所制圧 v0.0

_皇城、第三階層 秘密通路



 「急げ急げ!すぐに追いつかれるぞ!」


 隊員達は常に後ろに気を配りながら、大急ぎでドアから離れるべく石造りの廊下を移動していた。


 「その松明に沿って進め!行け行け行け!」


 隊員達は壁に立てかけられた松明をたどり、ただただどこにいくかもわからない道を突き進んでいく。



_隊員達の向かう先では



 「て、敵がこちらに向かってきていますよ!」


 火の灯った松明を片手に持った警備兵がじんわりと伝わる熱に汗をかいて言う。


 「今はとにかく奴らを欺くんだ!わかったな!?」


 もう一人の警備兵は慌てた様子で言う。


 「た、松明は消したほうがいいですかね!?」


 「あぁそうだ!消してやれ!」


 「わ、わかりました!」


 警備兵は壁に立てかけられた松明を次々と消していく。


 「その調子だ___よし!そこで曲がれ!」


 もう一人の警備兵の指示で、二人は曲がり角を右に曲がる。


 「に、にしても・・・まさかあいつらを倒すなんて!」


 「お前もそう思うか!?あ、あれじゃ神話の・・・!」


 警備兵達は秘密裏に作られた警備隊指令所の頑丈な木製のドアの前に立つと、勢いよくドアを開く。


 ガッ__チャァァァンッ!


 「で、伝令!敵部隊は現在この秘密通路を使用しこちらへ向かってきています!」


 『な、何ッ!?』


 中央に置かれた机。その周りに立っていた幹部達は驚愕の顔を隠せないでいる。


 「ドアの欺瞞工作は!?まさかしていなかったのか!?」


 「あ、あんな化け物相手に正常にいられるって言うんですか!?」


 警備兵は幹部の問いに怒りの意を込めて言い返す。


 「そ・・・それもそうだな・・・」


 「とにかく!敵がここに来る可能性あり!今すぐにここから退避すべきです!」


 「よし!お前ら聴いたな!?書類の処分はどうでもいい!すぐにここから退避する」


 ガチャンッ!


 警備隊長がそう言いかけた時、秘密通路に通じるドアが勢い良く開けられ、そこから続々と不思議な灰色がちりばめられた服をまとった兵士のようなものが入って来る。


 『__ッ!?』


 そこにいた警備兵達は、あまりにも早すぎる敵の到着に一瞬茫然とする。


 「お前ら!手をあげるんだ!早くしろ!」


 いきなり部屋の中に乱入してきた敵のようなものは手をあげるように指示する。その隙をついた警備兵の一人が壁に立てかけられた槍を手に取ろうとした__直後だった。


 バァァァンッ!


 部屋の中にあまりにも大きい謎の音が響く。それと同時に槍を手に取ろうとした警備兵の頭に小さな穴が開き、そこから脳漿と血液がドロドロと出だす。


 「ひ、ひぃっ!」


 そのすぐ近くにいた幹部はいきなり死んだ警備兵を目にし、一瞬で失神する。


 「よくわかったな!?お前らもこうなりたくなければ早く手を上げろ!抵抗は許さんぞ!」


 その場にいた兵士達は抵抗することを諦め、手に槍を持っていたものはそのまま地面に落とし、手を上にあげる。


 「よし・・・それでいい。いくら戦争中とはいえ、ある程度無駄なしは避けておきたいからな・・・」


 隊長格の男がそう言うと、ホッとため息をつく。


 「それで?ここの最上級司令官は誰だ?」


 隊長格の男は鉄の棒のようなものを右手に持って警備兵達に問いかける。


 「お、俺だ・・・」


 幹部の一人が警備隊長をかばうように手をあげる。


 「嘘は・・・良くないぞ?」


 真偽を確かめる目で、隊長格の男は静かに言う。


 「お、俺だ・・・俺がここの司令官だ!」


 警備隊長は少し悩み、手をゆっくりとあげる。


 「ほう・・・。では教えてもらおう。簡潔に聞く。『皇帝』はどこだ?」


 警備兵達は『やはり皇帝が目的か』と脳内で思う。


 「そ・・・それは・・・」


 警備隊長は言葉に詰まり、たらりと額から汗を垂らす。


 「あらぁ・・・教えてくれないのかい?」


 隊長格の男は残念そうな声で言うと、部下に鉄の棒のようなものを幹部に向けて構えさせる。


 「こいつ・・・死んじゃうよぉ?」


 隊長格の男はニタァ、とした顔で淡々と言う。


 「・・・ま、待て!せめて・・・部下だけは助けてくれ!それだけでも・・・それだけでも叶えさせてくれ!」


 警備隊長は必死にすがるような声で言う。


 「ほー・・・」


 隊長格の男は一瞬考えるような素振りを見せると、再度口を開く。


 「__わかった。それで手を打とう」


 「か・・・感謝する!」


 警備隊長はただただ、真実を話す。


 「そ・・・そこのドアを開けた先にある階段を登れば・・・すぐに皇帝の間だ・・・」


 「__ありがとうな」


 バァァァァンッ!


 隊長格の男が放ったその言葉が、警備隊長の知る限り、最後の記憶となった。


 「き、貴様ァッ!」


 幹部の一人が目を赤らめて叫ぶ。


 「__厄介ごとはごめんだからな」


 隊長格の男はそう言うと、部下に秘密通路に通じるドアを壊させる。


 「別に逃げるのは貴様らの勝手だが・・・。早くしたほうがいいぞ?」


 「な・・・なぜだ・・・?」


 幹部は緊張した声で隊長格の男に問いかける。


 「そろそろ・・・あいつらも餌を探し待ってこの通路を這い回っている頃合い・・・か。おい!お前ら!行くぞ!」


 隊長格の男はすぐ後ろに立っていた部下であろうもの達にそう言うと、迅速に彼らの前面にある皇帝の間へと通じるドアへと入って行く。


 「・・・まぁ、なんと言うか・・・頑張れよ」


 最後尾の者がそう言うと、ドアは勢い良く閉められる。


 「__ッ!おい!待て!」


 先ほどまで茫然としていた幹部や警備兵達は次々と我に戻る。


 「こ、このドア・・・動かないぞッ!」


 必死に敵の兵士たちが通っていったドアを開けようとする警備兵が、最悪の事態を告げる。


 「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」


 次々と幹部や警備兵達が混乱する中、警備隊指令所の秘密通路側から発生した一つの悲鳴が部屋全体に響く。それを耳にした幹部や警備兵らはその方向を見る。


 『___!』


 秘密通路側のドアから続々と入ってくる、茶色のソレ。侵入者を滅すために放ったそれが、今度は味方に牙を向いていた。実際、一人の警備兵が首から血を流し、それを貪り食うかのように大量の茶色い生物が群がっている。


 「全員!武器を持て!なんでもいい!持つんだ!奴らを殺せ!」


 幹部の一人が大声で言う。もう、逃げ場はない。奴らと戦うしか、生き残るすべはない。


 『了解・・・』


 「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」



 後日、この警備隊指令所から無残なまでの姿と化した彼らが見つかったのは、言うまでもない。

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