第47話:未確認高速移動物体『MOGURA』、現る v0.0

_皇城、第二階層



 「おい、いったいどうしたんだよ・・・」


 突如としてカーテンもどきの向こうから大慌てで逃げて来た様子の隊員を、他の隊員達が宥めていた。顔は青ざめており、震えが止まらなくなっている。それほどえげつないことがあったのだろうか。


 「あ・・・あ・・・」


 「あ・・・?いったいどう言うことだ・・・?」


 震えが止まらない指で必死にカーテンもどきのかかった通路を指差し、意味のわからないことばかり言っている隊員に他の隊員達はますますわけがわからなくなっている。


 「まぁさ・・・一回落ち着けよ?な?」


 隊員はそう言うと、ガムをポケットから取り出す。


 「あ・・・ありがと・・・」


 「・・・全員後退!あのフラグを見事におっ立てたやつがいない以上、何かがいるはずだ!」


 『了解!』


 体調がそう指示すると、ガムを噛んでいる途中の隊員を他の隊員が担ぎ元来た階段近くまで戻る。


 「ま・・・ここでいいか」


 ガムを噛んでいる途中の隊員を壁にもたれさせると、各自がPDWや背に背負っていた『言うこと機関銃』を構えた。


 「なぁ・・・」


 バイポッドを立てて『言うこと機関銃』を伏せた状態で構える隊員に、中腰でPDWを構える隊員が声をかける。


 「なんだ?」


 「一体何が出てくるんだろうな?」


 「モグラじゃないか?知らないけど」


 「そ、そうか・・・」


 隊員は期待はずれの答えに苦笑いで前を向いた。


 キィィィィィッ...


 「ん・・・?」


 どこからともなく、石を爪を立てて削るような不快音が大きな部屋全体に響く。


 「なんだなんだ?」


 延々と続く不快音。聞いてみれば、だんだんと不快音の発生源が近づいているようにも思える。


 「いつでも撃てるようにしろ!来るぞ!」


 『了解!』


 兵士たちは気分を一新し、来るべき先頭に備える。


 「・・・」


 突如として、あの不快音が止む。


 「来ないのか・・・?」


 隊員の一人がそう言った瞬間だった。


 バサァァァァッ!


 『ッ!?』


 突如としてカーテンのようなものが勢いよくなびく。


 「な、なんだ!?」


 動揺が部隊の間に広がり、間違って銃を下ろしてしまった。


 ヒュンッ!___ゴッ!


 風をきる音と共に一本の投げナイフが石造りの壁に深々と突き刺さった。その衝撃波で近くにいた隊員数名はバラバラの方向へと吹き飛ばされてしまう。


 「て、敵はどこなんだッ!?」


 隊員達は目を凝らして周囲を見渡す。


 「て、敵発見ッ!」


 視力が抜群にいい隊員が敵を発見する。隊員が指をさす方向を隊員達が見ると、そこにはとんでもない光景が写っていた。


 「・・・なぁ」


 「・・・なんです?」


 「あれさ・・・どう見ても・・・モグラだよな?」


 隊員が目を見開いた状態でもう一人に聞く。


 「・・・そうですね」


 彼らの目には、高速で移動し、鉄製の薄いアーマープレートを着用。腰のベルトには大量のナイフを付けた茶色い毛むくじゃらの生命体が写っていた。その『何か』は二足歩行で移動し、筋肉が以上なまでに付いた脚部で地面を蹴るように軽やかに移動している。


 「一体なんだよあれ!意味わかんね!」


 隊員の一人が大声で言う。


 「まさか住人モグラ説が現実になるとは・・・異世界って・・・面白い!」


 隊員達は戦闘が始まらんとするタイミングで喋り出す。


 「ま・・・まぁいい!奴をこれより未確認高速移動物体『MOGURA』と呼称!射撃開始だ!1匹だけならまだどうにかなる!」


 『りょ、了解!』


 隊員達はPDWや『言うこと機関銃』のトリガーを引き、未確認高速移動物体『MOGURA』に向けて射撃を開始する。


 「あ、当たらないッ!」


 が、そのほとんどは未確認高速移動物体『MOGURA』によるバレリーナよろしくの華麗なステップにより瞬く間に回避。逆に、投げナイフを的確に外して戦意喪失を狙って来る。


 「おい!バスケス!『アレ』を持ってこい!」


 あまりにも当たらないことにイラついたのか、隊長は『アレ』をバスケス隊員に持って来させる。


 「い、いいんですかい!?」


 バスケス隊員は聞き間違いかと思い、もう一度隊長に確認する。


 「あぁ!いいんだ!第一、ここで任務を失敗するわけにもいかない!」


 「わっかりましたぁ!」


 バスケス隊員は容器に鼻歌を口ずさみ、壁に立てかけてあった黒くて大きく、細長い袋のチャックを開く。


 「さぁ___ショータイムだ!」


 黒くて大きく、細長い袋から取り出された物___12ゲージ弾32発の詰め込まれたドラムマガジンを取り付けたフルオート射撃が可能な軍用ショットガン、『TB&PP-5』を構える。


 「いぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 バスケス隊員は他の隊員が射撃をしているのにもかかわらず、無謀にもバレリーナよろしく華麗に銃弾を避けまくる未確認高速移動物体『MOGURA』の方向へ突撃していく。


 「やぁ、こんにちは!」


 バスケス隊員は尋常ではない速度で未確認高速移動物体『MOGURA』の近くまで到着すると、挨拶をした後トリガーに手を置く。


 「さようならぁ!」


 バスケス隊員のその声と共に毎分370発もの連射速度を実現したTB&PP-5から12ゲージ弾が次々と発射されていく。


_!!


 未確認高速移動物体『MOGURA』は先ほどとは違う攻撃だと本能で察知したのか、瞬時に回避する___が、運悪く脚部にペレットが数発着弾。姿勢を崩してしまう。


 「あらぁ・・・かわいそうにぃ・・・」


 バスケス隊員は姿勢を崩し運悪く地に落ちた小鳥を見るような、見下した目で未確認高速移動物体『MOGURA』を見下す。


 「今ぁ・・・楽にしてあげるからぁ・・・」


 バスケス隊員はあくまでもナイフの間合いに入らない程度の距離まで近づき、スラッグ弾100%のドラムマガジンに切り替える。


 「念には念を・・・ね?」


 バスケス隊員はそれだけ言うと、TB&PP-5のトリガーを引き、フルオートでスラッグ弾全てを未確認高速移動物体『MOGURA』の肉体に叩き込む。



_数秒後



 「死んじゃったぁ・・・」


 バスケス隊員がスラッグ弾全てを打ち込んだ頃には、未確認高速移動物体『MOGURA』の肉体はもはや元の原型を留めず、そこら中に血痕と茶色い毛、肉塊のみが転がっていた。バスケス隊員はそれを銃口で触り、まるでおもちゃがなくなってしまったような顔でいた。


 「なんと言うか・・・えげつないですね」


 その光景を遠巻きに見ることしかできなかった隊員達はただ、呆気にとられていた。


 「スラッグ弾を生物に向けて撃ち込むって・・・大型生物じゃあるまいし・・・」


 「・・・怖いですね」


 「うんうん」


 隊員達は口々に頷く。


 「・・・何か噂してなぁい?」


 バスケス隊員は未確認高速移動物体『MOGURA』の鮮血で顔中が汚れた顔で振り向く。


 『いやいやなんでもないです』


 「あ・・・そう」


 バスケス隊員はそう言うと、装備を片付けるためにこちらへと歩いて来る。


 「・・・さ、ある程度休息をとったらすぐに進軍を再開するぞ!」


 『了解』


 隊員達は重機の整備や食事をとるため、つかの間の休息を取るのだった。

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