第33話:破壊の予兆 v0.0
_午前8時
午前8時を迎えた頃、作戦指揮センターはそれまでとの暇な様子からは打って変わって慌ただしい様子へと変化した。
「管制塔より報告!アヌビス部隊全機離陸完了!全機及び護衛機と合流後敵工業地帯及び海軍基地の爆撃へと向かうとのことです!」
その中に併設された今回の作戦コントロールセンターも例外ではなく、次から次へと舞い降りる情報の処理に猫の手を借りたいほどの様子だ。
「さて・・・作戦開始か。オペレーションコントロール、離陸状況はどうなっている?」
ドミンゲルは作戦コントロールセンタに置かれた巨大な液晶版を見ながらコーヒー片手にオペレーションコントロールに尋ねる。
「現在離陸を終え、爆撃目標へと向かっているのはアヌビス部隊です!現在アペプ部隊が離陸を開始。アペプ部隊離陸終了後に最後尾、スカラベ部隊が離陸します!」
オペレーションコントロールはヘッドフォンを右手で抑えてハキハキと答える。
「爆撃部隊の離陸は順調か・・・護衛機はどうなっている?」
「護衛機は現在40機が離陸を終え、上空にて滞空中です。残りは・・・40機が現在離陸待ちです」
「よし、わかった。指揮に戻ってくれ」
「了解しました」
オペレーションコントロールはすぐに執務へと戻る。
「さて・・・中世の軍、とはいえ敵には航空戦力がある。護衛機が仕事をしなければ損害機だらけになってしまうな・・・」
軍部から渡された情報を見た限りでは海軍のフライングパンケーキに滅多打ちにされたそうだが、それはただ敵が油断していただけなのかもしれない。注意して作戦を行わなければならないだろう。
「・・・ま、心配事ばかりしていたら物事は進まないか」
ドミンゲルはコーヒーを全て飲み込みゴミ箱へと捨てると、気分を一新し本格的な作戦指揮を開始するのだった。
_スカラベ0-1視点
今日は俺たち爆撃機乗りにとって今戦争初の実戦だ。以前例外で敵軍に爆撃をした輩が居たようだがことごとく失敗したらしい。そのため、俺たちに失敗は許されない。俺たちの任務は戦略爆撃・・・らしいが、俺たちスカラベ部隊はどうやら敵帝都防衛部隊の基地を爆撃するらしい。
「管制塔、こちらスカラベ0-1。機器チェック完了、いつでもいける」
機長は無線機を取ると、管制塔へ準備完了を報告する。
『こちら管制塔。現在アペプ部隊が離陸中。それまで待たれたし』
管制塔からはすぐに無機質な声が返ってくる。
「・・・了解」
機長は無線機を元ある位置へと置くと深いため息をつく。
「機長、ため息なんてついたらダメですよ」
隣の操縦席に座る副操縦士は言う。
「だってなぁ・・・俺たち、この世界に来てまだ一回も爆撃してないんだぜ?誰だって爆撃したい衝動を抑えられないさ」
「機長は・・・いつもそう言いますね。何か思い出でもあるんですか?」
まだ機長と出会って日が浅い副機長は遠慮せず聞いてくる。
「・・・まぁ、いろいろあったのさ。いろいろ」
機長はそれだけ言うと、コップの中に淹れたてのコーヒーをそそぎいれ、一気に飲み込む。
「さぁ、そろそろじゃないか?」
機長はそう言うと、コックピットからあたりの空域を見渡しすでに離陸したであろうアペプ部隊を探す。
「・・・お、居たぞ」
機長はそう言うと、コックピット越しに人差し指でアペプ部隊の見えた方角を指差す。
「いつ見ても・・・でかいですね」
副操縦士は一言、その大きさに圧倒されて呟く。おそらくアペプ部隊との距離は2キロ以上はあるだろう。それでも感じる、圧倒的な大きさ。これは今ここにいる人間と、これから爆撃される側しか感じることはできないだろう。
『スカラベ0-1、こちら管制塔。応答されたし』
無線越しに無機質な管制塔要員の声が届く。それに気づいた機長は慌てて無線機を取り、すぐさま返答する。
「こちらスカラベ0-1、どうぞ」
機長は一言言うと、すぐに管制塔から指示が届く。
『こちら管制塔。先ほどアペプ部隊の離陸が完了した。離陸を許可する』
「こちらスカラベ0-1、了解。各機順次離陸を開始する」
機長はそれだけ告げると、無線機を定位置に戻す。
「よし、副操縦士!エンジン始動!滑走路に移動したらスロットル全開にして飛び立て!」
「了解!」
コックピット内が慌ただしくなる。
「エンジン始動、確認!」
機内にエンジン始動後の『ブォォォォン』と言うような音が響く。
「滑走路まで動かすぞ!スロットス少し上げろ!」
副操縦士は機長の言葉に従い、スロットルを少し上げ、それによりこの巨大な機体は少しずつ動き出す。それに呼応するかのように、他の機体もエンジンが始動、移動を開始する。
「滑走路に移動中か・・・」
誘導員の誘導の元、総勢10機にも及ぶUBV-20は滑走路へと向かう。
_数分後
「ラダーよし!フラップ良し!補助翼よし!」
機長たちは機体の最終点検を行う。
「管制塔、こちらスカラベ0-1。離陸する」
機長は無線機を手に取ると、一言そう告げた。
『こちら管制塔。・・・幸運を』
管制塔要員はそれだけ告げると、即座に無線を切る。
「副操縦士!スロットル全開!離陸だ!」
「了・・・解ッ!」
副操縦士はスロットルを全開に上げ、それと同時にエンジンの放つ轟音も一層大きくなる。
「加速・・・してるな!」
速度計を機長は覗き込み、一言つぶやいた。
「よし!フラップ展開!」
機長は主翼に取り付けられたフラップを展開する。
「速度、100・・・200・・・300!」
急加速によるGが体にだんだんかかってくる中副操縦士は100キロ刻みに告げる。
「機体上げろ!」
コックピット内に『ぬぅぅぅぅぅぅっ!』と言うなんとも汚そうな声がエンジンの放つ轟音に負けじと響く。それと同時に機体がふわっ、と浮き上がる。
「や、やっぱりこの機体舵おもぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
機長は唸り声をあげながらも必死に操縦舵を引き続ける。
「・・・よしっ!ランディングギア格納ッ!」
機長の合図とともに、機体内部にランディングギアが格納され、空気抵抗が少なくなる。
「・・・ふぅ。やっぱり4000メートル級の滑走路って、いいな」
続々と僚機が飛行場から上る中、機長は敵帝都防衛施設のある方向へと機首を向けて呟くのだった。
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