第2話:キスカアイランド作戦第一段階 改稿の改稿その1
_西部方面地方軍基地司令部
ドライ市が包囲攻撃されている頃、西部方面地方軍基地司令部では、急遽救出作戦に関する幹部を集めたブリーフィングが行われていた。
「これより、ドライ市に取り残された市民を救出、および国籍不明軍に対する攻撃作戦……通称『キスカアイランド作戦』のブリーフィングを行います」
『キスカアイランド作戦』の由来は、かつて存在した大日本帝国海軍により行われた『ケ号作戦』……通称、『キスカ島撤退作戦』から由来する。この作戦は撤退する側に一切被害がなかったとされることから『奇跡の作戦』とも称されることがあり、まさに今回の作戦はそれにふさわしいだろうということで司令部が勝手に名付けたのである。
この作戦の総指揮を務める司令官ロドリゲスは、椅子に座った幹部らの前に立つと多数の地図が貼り付けられたホワイトボードを背に説明を開始する。
「今作戦においては何よりも『一切被害を出すことなく、現状ドライ市に取り残された全ての市民・警備隊を救助・我が基地に収容する事』ができるかにかかっている。原因不明の通信障害のため一時はどうなることかと思ったが、あちら側からやってきたドライ市警備隊所属のヘリによると、状況は絶望的。長く見積もっても今の調子でいけば3日以内には弾薬が尽き全滅することは確実だろう、とのことだ」
ブリーフィングを聞く立場の幹部らも怒りの形相でそれを淡々と聞いていた。
ここにいる軍人のほとんどがドライ市出身。しかも、中には家族がそこに住んでいるという。おそらく彼らの脳内は、復讐心で満たされていることだろう。
部屋が暗くなり、ホワイトボードに様々な写真が映し出される。
「まず、作戦を大きく分けて二段階に分ける。まず第一段階。第一段階では敵の多数を掃討・撃滅し、敵の継戦能力を削ぐ」
ホワイトボードに映し出された写真の一つ、大量の時代遅れな甲冑を着込んだ兵士たちがドライ市を包囲する様子を撮影したものが拡大される。これは先述の警備隊所属のヘリがドライ市上空を飛行した際に撮影したものだ。
「貴様らの目で見てもわかるように……奴らは大群だ。そして、多少ばらけはあるが、おおよそ分ければ北部、東部、南部に密集している。この意味がわかるな?」
数名が『ま、まさか』と言った声を漏らし、ロドリゲスはそれに賛同するように頷き、続ける。
「大統領府直々に、『すべての爆弾の兄』……まぁ、『MOAB』だな。それの使用許可をいただいた。…………使用許可をもらわなくても使うつもりだったが……」
幹部らの顔が青ざめる中、それに気づいていないように話を続ける。
「先ほどの話を聞いてもわかるように、まずは援護のため『すべての爆弾の兄』を使用し敵の密集地点に落とす。……だが、爆薬量そのままでぶち込むと確実に警備隊も、救助対象の市民もお陀仏だ。そのため今回使用するのは爆薬量を半分にした特別製、それを計3発、CP-55戦術輸送機に搭載しそれぞれ北部密集群、東部密集群、南部密集群に対し投下する」
その言葉を聞いた瞬間、場に居合わせた将校たちの顔が曇る。
いくら爆薬量を削減したとはいえ、少し前までは『最強の通常兵器』とまで言われた代物、『MOAB』。そりゃもちろん、『MOAB』よりも凶悪な『すべての爆弾の母』や『すべての爆弾の父』を使うよりも断然マシだが……どうにも不安が拭えない。
「なおこの作戦を行うにあたり、ドライ市警備隊への事前通達を行う。原因不明の電波障害により警備隊との交信が困難になっていたが……その問題はつい30分ほど前、基地内にある通信施設の1つを基地−ドライ市との間に設置することにより中継局を通した通信が可能になり、解決した」
ロドリゲスは幹部らが話の内容を理解したことを確認すると、『そして第二段階』と続ける。
「第二段階の実施予定は準備を要するため一日後、4月2日の夜20:00、夜間に救出部隊を派遣、残存警備隊及び市民を輸送トラックを用い
スクリーンの映像が変わり、ドライ市を中心として撮影された衛星写真が表示される。
「本基地からは市街地戦を想定した機甲部隊1大隊、機械化歩兵部隊2大隊、近接航空支援機10機その他航空部隊を派遣。この包囲陣外周及びその付近に展開、包囲網を形成する。またそれと同時進行で敵軍かく乱、および事情聴取のため敵軍司令官確保を目的とした別働隊、精鋭部隊の第三空中挺進団20名を投入、この湖に夜間降下を行う」
ドライ市一帯、そして『LAKE EARL』と書かれた北東の大きな湖が赤円で囲まれる。
「全部隊展開完了と市民・警備隊救出完了を確認次第、近接航空支援機A-10G-4による地上攻撃が開始される。各部隊はそれを確認次第行動を開始、し、ここで敵を……一手に叩く」
ロドリゲスはそう告げた後、ある言葉を強調した。
『妥協はするな。全力でやれ』
「本作戦実施において付近の発電所は稼働を停止、同地域一帯は闇に包まれる。各員はナイトビジョンを装着、同士討ちには十分注意してくれ」
「これでミーティングは終了だ。……質問は?」
しばらく時間を置き、質問者が現れないか観察する。
「いないな。よし、各員作戦行動を開始してくれ」
_数十分後 ドライ市より東10キロ地点
高度10000メートル。生身の人間ならば凍死する寒さの高度を、無塗装のP-51戦術輸送機2機がターボファンエンジン2基の轟音を空いっぱいに響かせながら飛行していた。
彼らはキスカアイランド作戦の先鋒を務める部隊で、コックピットの真後ろにあるキャビンには、少し前まで『世界最強の通常兵器』と謳われた巨大な爆弾……『MOAB』が各機1発、計3発が積載されている。
作戦指揮所からの命令があればすぐにでも眼下進行形でドライ市を包囲、そして、無差別な殺戮を行った国籍不明の軍へ合計3発の『MOAB』を投下できるよう、空中待機を行なっていた。
『ウルフ1-1、こちら作戦指揮所。ドライ市警備隊より連絡が入った。『避難完了。いつでも攻撃可能』、以上』
「ウルフ1-1了解」
「ウルフ1-2及びウルフ1-3に連絡、『パッケージ』の投下用意だ。各機定位置まで飛行。目標地点上空に到達次第後部ハッチ解放、投下完了次第すぐに付近空域より離脱するぞ」
「了解」
P-51戦術輸送機の乗組員たちは淡々と、だがしかし敵軍に対する心に静かなる怒りを秘めて作業をこなす。
__そして、その時は来た。
「こちらウルフ1-1。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意」
『こちらウルフ1-2。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意』
『こちらウルフ1-2。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意』
「……ウルフ1-1、『パッケージ』、投下」
『ウルフ1-2、『パッケージ』投下』
『ウルフ1-3、『パッケージ』投下』
彼らの怒りを受けたかのように、3発の巨大な『MOAB』は巨大な音を立てながらズルズルとキャビンより落下、一直線に直下へと落下してゆく。それはとてもゆっくりに見える。だが、着実に高度を落とし、そして……。
_直下、ドライ市
「うッ!?」
その瞬間、突如としてドライ市の北部、東部、南部にそれぞれ、1つの光が走る。地上でドライ市を攻略中だった兵士たちは進軍の歩みを止め、そしてそれと同時に、とてつもなく大きな爆風が、彼らを襲う。
地上に乱立した家々は吹き飛ばされ、重たい甲冑を着た多くの兵士たちも、手にしていた武器もそれに乗せて赤子のように空を舞う。地面で発生した3つの巨大な爆煙__否。空いっぱいに広がる3つのキノコ雲の直下で発生した爆発は兵士たちを焼き殺し、また急激な気圧変化で彼ら兵士の肺は破裂、窒息死する。
それでも何とか無事で、地上へと舞い戻った兵士達。彼らを次に襲った物……それは、自らが手にしていた武器だった。空より降り注ぐ無数の剣や槍、盾などは彼らを次々に殺傷してゆく。
そして、地上に残ったもの。それは、運良く爆発を免れた兵士3万と、如何にかこうにか生き残った兵士2万、そして、大量の兵士と家々の残骸……その様は、一言で表すなら『地獄』だった。
______
CP-55戦術輸送機の元:X-55
エルディアン連邦で正式採用される戦術輸送機。本来であれば量産はされないと考えられていたが、次期戦術輸送機の最新の複合材を使用した胴体の制作に暗雲が立ち込めた事、またそれを開発していた大元のアルフレッド社が財政難により倒産してしまった事でその計画はお釈迦となったことにより急遽こちらが使用されることとなる。
なお今回登場したのは、機体後部にローディングランプを搭載し完全な輸送機仕様として製造された機体である。そのほかにも空中給油機仕様や早期警戒機仕様も存在する。
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