第58話 坊主とパーマの鬼への秘策。

 南雲はゲージメーター数がゼロになっている。小さい避雷針を八本だけ、両手の指で挟んで持っていた。


「道具か。まあ、戦いのやり方には誰も文句は言わねぇけど、やけに小さい物だな?」


「小さいが実力は本物だ。」


 南雲は避雷針の一本をダーツみたく投げる。が、狙いは顔へと分かっていたので、鬼塚は傾けるだけで避けられた。


「『雷線ライン』!」


 鬼塚に避けられるのは百も承知だった。が、不適な笑みを浮かべ、南雲は指先から電流を投げた避雷針へぶつけた。

 するとゲージメーターはマックスへと振り切り、四方八方へ雷が飛び散った。

 突如として雷が迫り、素早く反応できなかった鬼塚は両腕で防御した。雷は鬼塚に当たりはしたが、スーツの裾だけを焦がすだけという結果になった。


(微弱な電気じゃ焦がすだけか。焦がすならまだしも、ダメージを与えてられないのは欠点だな。改良の余地ありだ。)


 南雲は初めて使った避雷針の威力を観察し、弱点と利点について、どんな状況で使うべきか考えていた。


「…結構、このスーツ気に入ってて高かったんだよな。やっぱ、汚すぐらいなら何も着ずに戦ったほうがいいな。」


 鬼塚はスーツに手で触れ、引っ張るだけで一瞬にして脱げた。上半身裸だけの状態で首をポキポキと鳴らし、準備運動していた。


「…その背中は?」


 南雲は鬼塚の肩から一瞬で見えた絵みたいな物を見つけ尋ねた。


「あぁ、これか? これは俺の存在と正体の意味だ。」


「存在? 正体の意味なら分かるが、その刺青はただの刺青だろ?」


「お前等、二人にはそうかもしれんな。けれども、ちゃんとした意味はあるぜ。俺は『魔界連合本部長』で会長の邪魔になる者、『魔界連合』の敵となる者、全て処理する。それが鬼の役目だ。」


 鬼塚は背中に刻まれた暴れ狂う鬼神の刺青を二人へ見せた。別に脅しでも自慢でもない、ただ見せただけだった。


「…っていうかヤーさんかよ。まあ、別に不利になった訳でもねぇからな…。」


 だが、南雲は鬼塚の言葉が引っ掛かっていた。鬼という単語にだった。


(確かに神崎忍より強いのは確かだ。輝さんの紹介もあるから実力はあるが、なんだ? この引っ掛かる感じは? 本当に鬼と錯覚させられる感じは?)


 目前にいる鬼塚の顔が鬼へと変形する。南雲は謎の幻覚が襲い、疑心暗鬼に陥った。


(ヤバいな。アイツの悪い癖が出始めた。)


 休憩してから十分が経ち、吹雪は二人の戦いで何か掴めそうな時、自分への考えを信じられなくなった南雲を見て焦った。

 南雲は予想外な事や信じられない存在の物を考えると、全て疑心暗鬼となってしまう。悪い癖があったのだ。


(アイツが任せろって言い出して、まだ十分だ。もう少し休みてぇが…。)


 吹雪も何時から二人の戦いに乱入しようかと、こちらも考え込んでしまった。

 そんな二人の様子を見て、鬼塚は仕方ないなという軽いタメ息を吐いた。

 そして両手を軽く叩き、考え込んでいる二人を我に戻したのだ。


「…はい、お前等。深呼吸しろ、深呼吸して頭の中を真っ白にしろ。」


 二人はいきなりの事で呆然としていた。それもそうだ、敵でもある鬼塚が自分達にアドバイスし、状況を整理させたのだからだ。


「ほらっ! 早く深呼吸!」


 鬼塚は早く深呼吸しろと急かし、二人は呆然としたまま素直に深呼吸した。

 二人の頭はスッキリし、憑き物が落ちた穏やかな表情だった。


「テメェ等の疑問に思う事は答えてやる。このまま、湿気た面で戦われても、こっちがやりにくいからだ。」


 鬼塚の都合だけで、二人は戦闘を中断させられて理由で再び呆然とする。


「良いか? テメェ等が思っている通りに俺は普通の人間じゃあねぇ、悪魔だ。それも最低最悪の鬼属だ。神崎輝は完璧に説明してなさそうだから教えてやる。これから先、テメェ等が相手にする奴等は悪魔だ。それも“死ぬ”か“生きる”かのギリギリの戦いでもあり、世界の危機だ。これで分かったか?」


「…逆に分かんねぇよ! 説明が多すぎて!」


 流石の鬼塚から長く説明された内容に理解できず、二人は絶句した様子で突っ込んだ。


「え? 分かんなかった?」


 鬼塚は分かりやすく言ったつもりで、キョトンとした呆然の表情で聞き返した。


「なんで、その説明で分かると思ったんだよ。テメェは品川修二か!?」


「あのクソリーゼントみたいな説明しやがって! 暫くいねぇから忘れてたのによ!」


 二人は説明ついて息ピッタリで怒っていたのだ。それも修二から普段、雑な説明でやられる事も多かったからと言う理由だった。


「お前等、人の文句だけは息ピッタリだな。それを生かせれば良いのによ…!」


 鬼塚も吹雪と同じく何か閃き、悪い顔を浮かべた。


「そう言えば神崎忍は品川修二の方が強いっていう理由で期待してたんだよな~」


 鬼塚はあからさまな挑発で二人を釣ろうとしていた。

 案の定、二人は忍と修二という単語に過剰な反応を示して鬼塚へ睨み付けていた。


「あ! あそこにいるのは入学初日に頭突き一発で負けた吹雪くんと半殺しされた南雲くんじゃないかな? それじゃあ最強と最高に負けるのは当然だな。」


 鬼塚は何故か知っている二人の負けた理由を挑発するため並べた。すると雷撃と氷柱が鬼塚へ目掛けて一緒に飛んで来た。

 鬼塚は雷撃には防御し、氷柱は拳で破壊して防いだ。


「絶対に殺す。」


「南雲、休憩は終わりだ。ここからは、あのヤクザをぶっ飛ばす事に専念するぜ。」


「おう。俺も同じ事を思ってたところだ。」


 二人は鬼塚へ殺気剥き出しで意見が合致していたのだ。


(どうやらヤル気は出たようだ。だが、チョロいなコイツ等…。)


 ヤル気は出た物は良いのだが、こんな簡単な挑発に乗って足元を掬われないか、心配していた。


「まあ、良いか。」


 鬼塚は色々と心配したが、この先を考えても仕方ないので考えのを止めた。


「おい、オッサン! 今、俺が放った氷に触ったよな?」


 ニヤリと吹雪は鬼塚へ怪しく笑っていた。


「?」


 鬼塚は気になり両腕を確認する。と、粉々にした氷の粒が両腕へ付着し、徐々に凍結し始めた。


「マズイ!」


 流石に焦り、鬼塚は地面へ向かって氷を破壊するため殴った。一度は粉々に砕かれるが、再び凍結し、腕まで浸食していた。


「とどめの一撃はコレだぜ。」


 拘束され身動きが取れなくなった鬼塚へ、南雲は避雷針を投げた。

 避雷針は鬼塚の胸へと突き刺さり、蓄電されていた避雷針が放電した。

 鬼塚は体全体が感電し、目と口から紫煙を吐き、拘束していた氷は電気熱で蒸発し、水蒸気が発生した。


「やったぜ!」


 二人は人を殺傷できそうな攻撃したのに笑顔でハイタッチしていた。他人からすれば神経を疑われる残虐な行為だった。


「いや~マジで焦った。俺が鬼じゃなかったら本当に死んでたぜ。」


 二人は鬼塚が無事な様子で呟く声を聞いて、顔は引き吊り、身体が石のように硬直した。

 水蒸気が振り払われると、そこには額から三本の角が生え、筋肉が盛り上がり、両腕は拘束する千切れた鎖の枷を装備した。

 鬼塚が無傷のまま姿を現したのだ。 


「『鬼神覚醒』。今日は特別だぞ? 俺が、こんなにも血が滾って興奮してんだからよ。」


 そう鬼塚は本気を出し、致命傷を避けたのだ。忍との際は町に被害が出るという理由で『鬼神覚醒』まではしなかったが、二人の完璧なコンビネーションで危機に陥った為、『覚醒』したのだった。


「さて、こっちの身体も温まったぐらいだし。そろそろ本気で修行を始めようか? それも真面目にな…。」


 流石にこれ以上、おふざけし過ぎると輝に何か言われ兼ねないので、マトモな修行を始めようとしていた。

 二人は顔を青ざめ終わったという悟った表情で、二ヶ月間は鬼塚と真面目に修行をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る