第48話 組長の返答と最強の思い。
「…お久し振りです。鮫島大河組長、十年振りになります。」
忍は正座で体を前へと曲げ、普段より綺麗な言葉使いで鮫島組長に挨拶していた。
「おう、神崎忍。本当に十年振りだな…。」
和室の奥に鋭い刀を右手で持っている男が
ネズミ色の着物、剃刀の様に鋭い目付き、鬼でも逃げ出しそうな強面、ボウズ頭、服の上からでも分かる強靭な肉体、修二とは違う荒々しいオーラが体から漂っていた。
「突然の訪問で申し訳ございません。折り入ってお願いがあり、失礼を承知で聞いて頂けたらと思います。」
顔を上げて、普段ならば誰に対しても上から態度の忍が鮫島だけには丁寧な口調で話していた。
「ウロボロスにはケジメをつけさせる。死んだ人間には悪いが、運が良くなかったという事で生き返らせるのは諦めてほしい。」
「そっちの件ではございません…ウロボロスにケジメをつけさせるのは三ヶ月待ってほしく――――『地獄門』の鍵を譲って貰おうと来ました。」
忍の発言で空気は一気に氷点下まで低下し、緊迫した修羅場が出来上がった。
「…おい、忍。テメェはいつ俺より偉くなったつもりだ?」
「偉くなったつもりはありません。鮫島組長の顔に泥を塗ったウロボロス達にはケジメは必要です。ですが、『魔王契約書』で俺の命を賭けました。俺なりの筋を通しに今日は…。」
真剣に忍が最後まで述べようとする。と、鮫島は立ち上がり刀をダーツの様に真っ直ぐ飛ばし、忍の右頬をスレスレで飛び、襖へと深く突き刺さった。
『闇の覇気』を覆っていない為、忍の右頬から赤い血液が滴り、負傷していた。
「…死にてぇなら今ここで殺ってやるぞ?」
鮫島から本気の殺意が伝わる。と、忍は冷や汗を流し、両拳を強く握りしめ、怒りを抑えて交渉を続けようとしていた。
「今、組長と戦ってどちらにも得はありません。どうか一つ、俺の顔を立てると思って『地獄門』の鍵を譲ってください。お願いします。」
忍は土下座の形で深く頭を下げ、自分の自尊心を押し殺し、
「今の答えが分からなかったのか? 俺からテメェに何かを与える物なんてねぇ!」
「…ア《・》イ《・》ツ《・》が『地獄』にいるんですね?」
まるで図星を突かれた様に、鮫島はピタリと動きを止め、忍の発言に警戒し注目していた。
「…アイツの邪魔だけは絶対にしません。どうかお願いします。『地獄門』の鍵、『炎龍』と『氷龍』の刀を譲ってください。」
「…駄目だ。どんな理由があろうと会長がいる間は『地獄』への立ち入りを禁止している。例え、“最強”のお前でもだ。」
「…確かに俺はアイツには遠く及びませんし、逆立ちしたって勝てません。ですが俺にも俺なりの約束っていう物があります。品川修二を必ず、この三ヶ月で『地獄』を終わらせ、アイツに迷惑が掛からないのを約束します。どうかお願いします。」
一生懸命に忍は鮫島へ深く頭を下げ、理由を述べ、しぶとく懇願していた。
鮫島は顎に手を当てながら土下座して懇願する忍を眺め考えていた。
「…お前が言っている品川修二はどんな奴なんだ?」
鮫島の質問に忍は頭を上げ、真剣な眼差しで返答する。
「…“馬鹿”で“最高”の“チンピラ弁護士”です。」
率直に特徴を捉えた返答だった。
「…分かった。鬼塚と戦って勝てば『鍵』は絶対に渡そう。」
「本当ですか?」
「俺も組長だ。約束した物を無下にする事はできない。それに品川修二に興味が湧いた。」
鮫島が言い終わる同時に襖が大きく開かれ、鬼塚が入室してきた。
「話は聞きました。親父の命令なら…今すぐ殺りましょう。」
鬼塚は忍が戦闘へと身構える寸前、不意討ちに素早い移動で顎へと目掛けて蹴ったのだ。
忍は素早く防御したつもりだったが、大きく吹き飛ばされ、襖を破壊しながら庭の池に着水した。
「おい、出来るだけ屋敷は壊すなよ? アイツが帰って来る場所が残骸になってたら怒られるぞ?」
いきなり戦いを始めた鬼塚に対し、鮫島は呆れた表情を浮かべ注意を促していた。
「へい。なるべく手加減します…。」
鬼塚はジャケットを右手でガッチリと掴み、勢いだけで引っ張る。ジャケットは直ぐ様簡単に脱げ、ガッチリと鍛え上げられた上半身を顕にした。
背中には荒々しく暴れる赤い鬼神の刺青が入っており、更に存在を圧倒していた。
「…いきなりかよ。」
池から這い上がり、濡れたワイシャツを苦悶の表情を浮かべながら、忍は鬼塚と同じく勢いだけで引っ張り、直ぐ様脱いだ。
「この失踪した五年で、腕が落ちてないか確かめるぜ? 神崎忍。」
歓喜な表情で鬼塚は右腕を豪快に回しながら、忍が落ちた池まで近づき、五年間鈍っていないか試していた。
「『鍵』が手に入るなら誰だろうと倒すだけだ。俺の命が関わっているからな!」
忍が鬼塚の言葉を返し戦闘準備が整っていた。
「俺を倒せなきゃ、幻魔やらウロボロスに挑むのも自殺行為だ。そこまでして『鍵』を手に入れて強くなりたいか? 俺達が処分してやるって言ってるのに…それにアンタが契約した『魔王契約書』の内容も破棄にもできるのに、こんな美味しい話があって何故そこまでする?」
「あの『魔導使い』が俺達に喧嘩売って来たからだ。人の獲物に手を出したら、どんな報いを受けるのか教えておこうと思ってな!」
「…変わったな。昔なら人の事なんて何も思わなかったのによ。今のお前も最高だな!」
鬼塚は地を蹴っただけで忍の目前まで一瞬で移動し、両手を突き出していた。
察知した忍は鬼塚の両手を素早く掴み、手押し相撲の様に拮抗状態で、互いは膂力を込めていた。
「…若干、『魔力』を帯びているな? 五年前には『覇気』しか感じなかったのに、今は俺達と違う『魔力』を感じる。」
鬼塚はしかめっ面で忍の体から僅かな『魔力』を感じ、強く尋ねていた。
「五年前、一度だけ魔法に掛けられてからだ。」
「…まあ深い理由なんてどうでもいいですが。今はアンタと戦うのを楽しむだけだッ!」
気を取り直し鬼塚は狂気な笑顔で、腕に膂力を込め忍を圧倒していた。が、突然と顎に激痛が伝わり、視界もグラグラと揺らぎ忍から離れた。
「俺が『闇の覇気使い』だと忘れてたのか?」
そう鬼塚が戦いへ夢中になってる最中、『闇の覇気』で右足をワープさせ蹴り上げていたのだ。
鬼塚はフラフラと苦悶の表情を浮かべ後退させていた。
「…やるじゃないですか。ちょっと本気になっちまいそうです…親父! ちょっとだけでも本気になって良いですか!?」
「…ほどほどにな。」
鬼塚は大声で鮫島に力の解放を望んでいた。
鮫島は胡座で『魔界酒』と表記された瓶を持ち、観戦する様に近づき許可を出していた。
「じゃあちょっとだけ。」
鬼塚は僅かな『魔力』を解放し、忍との戦いを続行しようとしていた。
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