第25話 パーマ対キモロンゲ、炸裂せよ『I.B.F』

「『I.B.F 』っていうのは『IceBreakForm』っていう頭文字を取って付けた名前だ。」


 吹雪は得意気な表情で形態の説明をするのだが、アホは気づいていなかった。が、南雲は英語の意味に引っ掛かっていた。


(IceBreakって自分、『氷の覇気使い』なのに自虐の技になるぞ…。)


 南雲は口には出さなかったが、折角なので実力の差を思い知らせ早く神崎忍との戦いに移り、実力を知らしめせようと形だけ身構える。

 そして冷気を覆い終えたのか、吹雪は胸から手を離す。

 すると吹雪の両手が氷の拳となり、更に髪の毛も凍りパサパサになる。息を吐くだけで白くなり、白い息は真っ暗な夜空に消え、いかにも寒そうだ。


「行くぜ、お前を凍結させねぇように加減しねぇと本当に…死ぬからな。」


 その言葉と同時に吹雪は霧のように姿を消し、南雲の背後で体を捻った右ストレートをぶちかまそうとした。が、南雲は気づいており体を伏せて吹雪を地面に転がすため足払いをした。

 だが、もうそこに吹雪の姿はなく冷たい氷の粒だけが舞い上がっていた。


「…ダイヤモンドダスト現象を利用し、氷と景色を一緒に溶け込む、カメレオンみたいに姿を隠し奇襲する。プロの暗殺屋が教えないと必ずできない技だな。」


 南雲はプロじゃなくても少し考えて工夫すれば出来る事を自信満々に答えていたが、吹雪の不思議な移動方法は見破っていた。


「まだ序の口だぜ。こっからだ『I.B.F』の本領は…。」


 背景に溶け込んでいる吹雪は南雲を撹乱する為、発声し何処で何時、奇襲しようか考えていた。


「…はあ~これだから三流の考える事は呆れさせられる。No.1である俺にできない事なんてーーー無いんだよ!」


 南雲は体全体に稲妻を覆わせ、体を小さく丸め、電力を放出するように体を大きくし、周りに電気を流す。

 コロシアムの端側まで隠れていた吹雪は素早く移動しようと行動に移す。が、南雲が放出した電流の攻撃がモロに当たり、体が痺れ苦悶の表情を浮かべて四つん這いの状態になる。


「端側に隠れていたか、確かに近づけば奇襲にかけられる…だが、攻撃を当たって見つかる様じゃ意味ないよな?」


 南雲は笑いながらコツコツと靴の音を鳴らし、徐々に電気で痺れている無抵抗な吹雪に近づく。


「……。」


「恐怖で声もでないか? 三流にはお似合いの結末だな。」


 吹雪は南雲の言葉が可笑しかったのか不適に笑っていた。


「…南雲よ。俺の演技が得意っていうのは最初から知ってる癖に忘れたのか?」


 南雲は謎の発言をした吹雪を無視し、稲妻を纏った右手で戦いに終止符を打とうとする。

 南雲は四つん這いの吹雪に触れる。が、その吹雪は霧のように姿を消した。


「『アイスミラージュ』っていう奴でよ、残像のように写してくれて時間稼ぎには持ってこい技だ。」


 攻撃が未遂に終わり呆然としていた南雲の背後から吹雪が幽霊のように現れ、右手で左肩をガッチリと掴む。


「それで俺を追い詰めたと勘違いしたのか?」


「勘違い? 勘違いじゃねぇよ、勝ったのは俺だ。今から凍り漬けにしてしまえば戦闘不能だろ?」


「いや、そのまま凍り漬けにしても、そいつは脱出する事くらい思い付いて行動してるぜ吹雪雅人。」


 廃車の上から声が聞こえ振り向き、吹雪は驚きを隠せない表情と背筋が凍るような恐怖に同時から襲われた。

 それは余裕綽々な様子で酒が入ったワイングラスを右手に持ち、月に溶け込むように見物をしていた忍がいたからだ。


「神崎…忍…。」


「神崎忍…待っていたぞ、この時を!」


「そう騒ぐな。今日は月が綺麗だ、こんな時は決着が着くまでワインを飲みながら待ちたい物だ。」


 吹雪は言葉の意味を理解できなかったが、南雲は何かを理解し微笑み、忍に振り向く。


「…コイツに勝てば戦ってくれるのか?」


「まあな。吹雪雅人に勝てれば頼みを一つ聞いてやってもいい…だが、負ければ罰ゲームを受けてもらう、内容は考えておく。」


 忍が言い終わると南雲は不適に笑い、吹雪は微笑んだ姿をチラッと見え怪しんだので右手を離し、距離を取る。


「離したな?」


 吹雪は南雲の言葉に、しまったという後悔の表情を現し、簡単な氷の盾を形成し攻撃に備えてガードしていた。


「神崎忍、三流、お前等! 良く見ておけ、これが能力を極めた姿だ! 『雷神』!」


 南雲が叫ぶと突然と雨雲が現れ、雨が降り注ぎ、ゴロゴロと雷の音が聞こえた。

 そして雷は閃光の如く南雲に目掛けて直撃した。


「…南雲。」


 吹雪は警戒しながら南雲の名前を呼ぶ。

 だが、そこに現れたのは静電気で髪の毛が逆立ち、バチバチと静電気が身体中に流れる音が鳴り響いた。


「これが『雷の覇気』を最大限に形で表した物だ。パワー、スピード、全てを兼ね備えたのが『雷神』だ。だから…」


 吹雪は動きだした南雲が一直線で前方から攻撃してくると思い氷の盾で身構える。が、その予想は裏切れ南雲は吹雪の背後にいた。


「あんまり勝てない戦いを全力でやるもんじゃないぞ?」


 警告な言葉が吹雪の耳に入り、恐れながら振り向くと南雲が大量の電気を纏った右手で攻撃する。

 そして爆発が起き、煙から学ランの右半分が完全に焼け落ち、額から視界が見えなくなる程のおびただしい量の血液が流れた吹雪が苦悶の表情で現れた。


(ヤバかった。一瞬でガードしてなきゃ焼け死んでたぜ。)


 吹雪は南雲の手が触れる寸前に、体全体を厚い氷で覆い爆発のダメージを防いでいた。


「…この威力で学ランを半分焼失させたか、まだまだ改良が必要だな。」


「テメェ、少しは手加減しろよ! 死んだらどうすんだ!」


「お前もどういう神経してんだ! お前を倒すためにやってんだろうが!」


 吹雪のマトモな発言に南雲は逆ギレで対抗する。


「…アホと自惚れだ。」


 廃車の上で傍観していた半目の修二が鋭いツッコミで忍と竹島以外はウンウンと頷いて納得していた。


「誰が自惚れだクソリーゼント!」


 どうやら陰口が聞こえていたらしく修二だけ八つ当たりされた。


「テメェ! またクソリーゼントって言いやがったな! このキモロンゲ! 良いぜ、こんな傷はハンデだ! 勝負してやるよ!」


 修二も頭に血が上り、重傷な傷をハンデと称して南雲に喧嘩を売っていたが、流石に危ないので相川と仲村が必死に動きを止めていた。


「…ここには馬鹿が一人。」


 忍は呆れた表情で小さく悪態をつきながらワインを飲んでいた。


「神崎テメェ! 馬鹿って言いやがったな!」


 何故か、小声で言ったつもりが修二には聞こえていたらしく忍は更に頭を抱える。


「おい、南雲。俺が相手してんだろ? 品川、少し待ってろよ…今からぶちのめす。」


 南雲の『雷神』に追い込まれている筈なのに吹雪は修二に向けてピースサインをしながら余裕そうに笑っていた。


「今この状況が分かっているのか? 危機的状況なお前と余裕な俺、どっちが優勢だと思う? 馬鹿でも分かるぞ。」


「知らねぇよ。こっちはな、もうテメェの態度には限界なんだよ。キレたんだよハッキリ言えばな! もうテメェの思い通りにはさせねぇよ!」


 吹雪は煽るような表情で南雲に中指を立て、更にはケツを向けて放屁する。完全に子供の喧嘩になっていた。


「下品な奴だ! 焦げてなくなれ!」


 再び閃光の如く素早い移動で油断している吹雪に容赦のない一撃を加えた。

 だが、来ると分かっていたので吹雪は素早く避け地面を凍らせ、スケートのように滑り出した。


(何故だ!? 『雷神』の速さは目には見えない筈なのに…何か仕掛けたのかコイツが…いや、そんな素振りは見せてない!)


 南雲は吹雪が避けられた事を深く考えながらも雷の波動を当てまくる。

 華麗に避けていたが、途中で吹雪は壁の奥まで追い込まれ、壁を背に逃げる場所がなかった。


「終わりだ。これでな!」


 南雲は最大出力の電流を体に纏い、右ストレートで吹雪を殴る。

 吹雪はマトモに右ストレートを喰らい、体が痙攣するように痺れ、グッタリと倒れ込む。


「…これで俺の勝ちだ。」


 勝ちを確信し慢心した南雲は『雷神』を解き、神崎忍に会うため歩き出す。が、足に何かがまとわり付いていた。

 それは膝まで侵食してい冷たい氷だった。


「これで思う存分、殴れるな。」


 吹雪は気だるげに立ち上がり、両拳に冷気を集めて何かを形成した。

 南雲は何とかして抜け出そうとしていたが、前を見ると恐怖の表情を浮かべていた。気づく行動がもう遅すぎた。

 それは目の前にゆっくりと近づき、ニッコリと微笑みながら氷で形成したメリケンサックで指を鳴らしていたからだ。


「さて、五月ぐらいに肩やってくれたな? 俺はよ、やられたら倍以上に返す性格なんだよ。」


「ふん! お前には出来ないな、天才である俺を殴る事は…ぐふっ!」


 吹雪は話している最中でも、お構い無しに南雲の腹に一撃を加え、それからは高速ジャブで顔を容赦なく腫れるまで殴った。

 そして南雲が気絶したら吹雪は『I.B.F』を解除し、へたりこむように座り、息を荒くし、疲れていた。


「…助かったぜ柏木さん。」


 吹雪は口から円形の物を吐き出し感謝した。




 それは吹雪が決闘する一時間前に柏木に渡された物だった。


「吹雪くん、もしかしたら電流を浴びて死なないように南雲くんと戦う前に口の中で含んでいてください。」


 笑顔の柏木から不思議な物を渡され、吹雪は怪訝そうに見つめていた。


「これは?」


「もし人間の許容範囲を越える電流を浴びせれたら発動します。それは町の電力まで蓄える事ができるボタン型電池の充電器です。」


「人体に害はない?」


「…大丈夫です。」


 何故か柏木は間を開けて自信なさげに言ったが、吹雪は気にせずポケットの中に入れた。




「さてと品川に報告するか…。」


 思い出が終了し、それと同時に戦いも終わり南雲の氷を溶かし担ぎ上げる。


「…な、何故…負けた…俺なんかに…。」


 気がついた南雲は力を振り絞り会話する。


「…理由なんてねぇよ。中学からの友達を助けんのに理由なんかいんのか? …なあ? 南雲、一緒に品川の所に行かねぇか? アイツと一緒にいると楽しいぜ?」


「…また…今度…だ…。」


 南雲は力尽きて眠るように目を閉じた。そこからは一滴だけ涙が流れていた。


「…品川より軽いな、やっぱ。」


 戦闘が終わって拍子抜けしたのか、呑気な事を言っていた。



 なんとか修二と忍以外の人間が吹雪と南雲を担ぎ上げ、廃車の上に乗せた。


「お前が勝ったか吹雪雅人。」


「あぁ、これは三銃士とは関係ねぇけどケジメだけは付けたかった。アンタに迷惑かけたな神崎忍。悪かったなコイツの後始末。」


 なんと吹雪は今まで恨んでいた忍に感謝の気持ちと礼を言ったのだ。

 竹島とシェリア以外の全員は口をあんぐり開き驚いていた。


「柏木から聞いたのか、あのお喋りめ…。」


「あぁ、コイツが『覇気』の力に飲み込まれて一般人を巻き込む前にアンタが恨みを買ったんだよな。」


「…だが、襲った事実には変わりはない。あの時は俺もムシャクシャしていた、八つ当たりもある。言い訳はしない約束は守ろう…。」


「…まあ、俺の問題は終わった。次は品川の番だ。」


「なあ? 三銃士全員倒して、次いでに面倒事も無くなったよな? それじゃあアンタとの勝負を決めようぜ。」


 二人の間に修二が割って入り、忍と向き合い決闘を決める。


「先ずはその傷を癒せ、一ヶ月はやる。完全なお前と勝負するのが条件だ。」


「…あぁ、完全な俺とだな。」


 二人は納得し、修二が右手を出す。


「これは?」


 忍は修二の行動に怪訝に思い聞いた。


「握手だよ。喧嘩する時の約束事みたいな物だ。」


 修二の理屈で言っているだけなので、忍は渋々と右手を出し握手する。

 そして数秒後にはお互いに手を離す。


「…初めてだな、契約以外で握手を交わしたのは。」


「そうかよ…それより罰ゲームとか言ってなかったか?」


「そうだな。おい、起きろ南雲悠人。」


 忍は意識を失って倒れている南雲の胸ぐらを掴み無理矢理起こす。


「…負けた奴は罰ゲームだったな? 内容はなんだ?」


 南雲は忍を挑発するように差し向ける。


「決まった。お前の大事な物を奪うって事で。」


 忍は黒い渦に手を入れ、何かを取り出した。

 流石の南雲も表情は驚愕に染まり、冷や汗をかいていた。


「…た、頼む…そ、それだけは…か、勘弁…してくれないか?」


「おい、押さえろ。」


 珍しく余裕が消えた南雲はたじろぎ、忍は全員に取り出した物を見せると納得し、四人は体の自由を奪い動けなくした。


「や、止めろー! それだけはー!」


「罰ゲームだ。大人しくしろ。」


 罰ゲームが執行され、海道廃車処理場から南雲の絶叫が響き渡った。


「お! 吹雪の奴、南雲に勝ったな。」


 ボロボロになった三人の不良を座布団にしながら携帯電話を弄っていた呑気な内藤だった。


「完成だ。」


「神崎…テメェ!」


 満足気にしている忍と、それと対象的に涙を流しながら吹雪が氷で作った鏡を自分の身に起こった状況を確認する南雲がいた。

 全員は笑いを堪えるのに必死だった。その理由は…


「俺が伸ばしてた髪の毛を…全部剃りやがって!」


 そう南雲は忍の罰ゲームで大量にあった長い髪の毛をバリカンで全て剃られてスキンヘッドになっていたからだ。

 そして皆は変わりように堪えきれずに腹を抱えて笑っていたのだ。


「これで理髪代もいらなくなるぞ良かったな?」


 冷静に忍はボケて南雲を煽りたてる。


「ふざけんな! 今からでも電気ショックを与えてやるよ!」


「…まあ悪ふざけはこれまでにして…そろそろ俺は帰る。また会おう品川修二、今度は海道の丘で。」


 忍は気を取り直し、疲れたのか修二に最後の挨拶だけを残し、黒い渦の中で去った。


「…神崎忍。絶対に勝ってやるよ! 『覇気使い最強の座』は俺が貰う!」


 だが、修二達は知らなかった。これが絶望の始まりと見えない希望という道を辿る事に。

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