12th PROJECT

 それはマシューがレイノルドによって屋敷へ招かれた日まで遡る。

 

「マシュー様、これが今のエヴァン様の現状です」

「ニューヨークにデーモンが」

「それも予測では最上位のバアルがでてくるそうなのです」

「バアルか、ソロモン一柱という事ぐらいしか知らないが、そうかほんとにいたのか」

「はい、つきましては。大変厚かましいお願いである事を重々承知の上でお頼みします……どうかエヴァン様のお力になっていただけないでしょうか?」

 

 レイノルドが直角に近い角度で頭を下げる。紳士的な姿勢を崩さないところに執事としての熱意を感じた。

 マシューはレイノルドに対して「頭を上げてください」と声を掛けて、逆に自分が床に膝をついてレイノルドを見上げる体勢となる。

 

「僕は最初からそのつもりです」

「ありがとうございます!」

「それから、彼等も同じ気持ちだと思います」

 

 ポケットから小型の通信端末が取り出される。形としては数十年前に使われていたガラケーに近い。

 この通信端末は屋敷に入る時に起動し、今の今まで会話を全て届けられていた。その対象は、現在サークルルームにいるであろう仲間達。

 エレナとリックだ。

 

「今の会話は全て彼等も聞いてます」

『ずっとモヤモヤしてたんだ』

 

 端末の向こうからリックの声がする。

 

『あの時俺が逃げなかったら、もしかしたらもっと円満に終われたんじゃ……て考えるんだ』

『あたしも、やめるにしてももう少し良いやり方があったと思う』

「誰も悪くありません、あんな事があったら逃げたくなるのも当然と思われます。エヴァン様も気にしておられません」

「だからこそ、僕達はもう一度エヴァンと話がしたいんだ」

『それに俺達の力が必要なんだろ?』

『命懸けなのはわかってるわ、でもここを逃したらきっと後悔するの』

 

 みな、同じである。誰もがエヴァンを気にかけ、心配している。数年前なら想像もできない事だ。この数年でエヴァンはかけがえのない友人を手に入れ、そして目標とする誠実な人間になろうとしている。

 言動は悪いが、今の彼は生まれ変わったと言っても過言ではない。

 

「ありがとうございます。それでは早速準備をお願いします」

 

 こうして、ゴールドチームは再び動き出した。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

「まずはあのミノを何とかするぞ!」

「わかってる、まずはトレーラーに移動しよう」

 

 外に出て直ぐにトレーラーがあった。ただその姿は前と違っているどころか、トレーラーですらなかった。

 

「装甲車じゃねぇか」

 

 軍で使われている武装装甲車、戦車のような車と言えばわかりやすいだろう。機関銃座が取り付けられて単体でも戦闘が行える。

 中に入ると意外と広い。ちょっとしたキャンピングカーだ。運転席に行くとそこにはレイノルドがいた。

 

「お前も来てたのか」

「運転手が必要かと思いまして」

「エヴァン、僕達は後ろだ」

「おう」

 

 後部に移動する。そこには狭い車内に押し込まれるように椅子が配置されていた。壁に沿って長椅子が二つ、その間に大きめの椅子が一つ。

 三人はそれぞれ長椅子に座り、エヴァンは余った大きめの椅子に座った。

 

「俺だけこの椅子なの、あれか? 俺がリーダーだからか?」

「そんなわけないだろ、ひとまず自動操縦のゴールドシリーズの操作を手動に切り替える」

 

 携帯端末のモニターをみれば、エヴァンが自動操縦に設定したキューブとタンクとローターは未だ敵と交戦していた。

 持ちこたえているだけで上々だ。

 

「僕はタンク、エレナはローター、リックはキューブで例の依頼を遂行して」

「おいおい待て待て、俺はどうすんだよ?」


 ゴールドシリーズは三つしかない、これではエヴァン一人が溢れてしまう。

 

「君にはとっておきを用意してある」

「なんだよそれ」


 マシューは答えず、ただ端末を操作してエヴァンにマニュアルを送信した。

 

「これって」

 

 そのマニュアルのタイトルは「4th GOLD MAN」とあった。

   

「まさか、できたのか! 最後のゴールドシリーズが!」

「起動準備はできてる、近くにきてる。 操縦方法は」

「何度もマニュアル読んだからわかる!」

「よし、起動するんだ!」

「よっしゃあ! ゴールドシリーズ四番目、その名もゴールドマン起動!」

 

 エヴァンがゴーグルをつけ、コントローラーをONにする。現在操作してる機体を表示しているコントローラーの真ん中では人型が映されていた。

 遅れて付近の廃ビルを突き破って金色の巨人が姿を表した。

 

 全長十五メートル、全身が金色の鎧で覆われた人形。腕には幅広のトンファーを装備している。端的に言えば金色の人型ロボットだ。

 足先はバランスをとるため大きめに作られ、腕も太く、胸も厚い。全体的に太めのシルエットだ。

 

「大きさはミノより少し大きいからパワー負けすることは無いはずだ」

「OK、ちょっとイケそうな気がしてきたぜ」

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