8th PROJECT


 アーチボルト家邸宅の書斎にて、マークスは古い資料を整理していた。レイノルドに目当ての資料を持ってこさせ、デスクでそれを検分する作業。本来なら一人でやるところで年老いたレイノルドに任せたいものではなかったが、何分マークスの脚は未だ不自由なままゆえ頼るほかなかった。

 

「レイノルド、エヴァンの様子はどうだ?」


 百年前にデーモンと交戦した記録を綴った本を閉じて、マークスはレイノルドへと視線を向かわせる。

 レイノルドは手にしている本をデスクに置きながら答える。

 

「今のところは問題ありません。こないだもキューブを使いこなしていましたので、このままいけばデーモンハンターになれるでしょう」

「父親として喜んでいいのかわからんな……しかしあいつも変わったもんだ」

「そうでございますね。まあ欲望に正直な所はあまり変わっておりませんが……自分からデーモンハンターになると言って、そのために行動を起こした点について言えば、これは喜ぶべき事柄かと」

「これで動機が肉欲でなければな」

「アーチボルト家は元々デーモンハンターの家系です。デーモンハンターになるのは宿命と思っていた方がダメージは少ないかと」

 

 お互いに深い溜息を吐く。エヴァンの成長と心変わりは親として喜ばしい反面、動機が不純すぎるゆえに恥ずかしい面があるのだ。

 しかし、今までエヴァンの教育をおざなりにして仕事にかまけていた自分にも責があるため、強く否定する事が出来ない。

 

「教育はしっかりしなければいけないと私は身をもって思い知っているよ。もし次に子育てする機会があればちゃんと教育すると誓おう」

「おそれながら、今更です」

 

 それもそうだ。

 

「ところで問題のエヴァンはどこにいる?」

「今日はデーモン相手に実戦してくると言っていました」

「問題はないのか?」

「下級のものですし、それに私兵も連れていきましたので大丈夫かと」

「そうか……それと前頼んだデーモンハンターのアトバイザーはどうした?」

「はっ、それがニューヨークで発生したデーモン事件に駆り出されたようで、現着が遅れると報告がありました」

「ニューヨークで……あそこにはゴールドシリーズの開発局があったな」

「ベルカ研ですね、今のところ大丈夫なようです。それにミスター・ウィークがいますので」

「なんだそれは?」

「ご存知ありませんか? ベルカ研が産んだニューヨークを守るヒーローですよ」

「…………そのウィークとやらの詳細な資料を用意してくれ」

「かしこまりました」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 時刻は二十一時、暗闇が世界を支配する時間帯。

 アイオワ州とウィスコンシン州の境となっているウィネシーク湖、ウィネシーク湖とミシシッピ川の間にある中洲にて、暗がりの中もぞもぞと動く物があった。

 直後、空を自在に飛び回る複数のドローンからスポットライトが照射されてその姿を現した。

 

「ねぇエヴァン、確かデーモンには等級があるんだよね」


 湖の辺に設置されたテントにて、ドローンからの映像をモニターで見ていたマシューはボソッと、なんて事ない質問を隣に立つ太ましいエヴァンへ行った。

 エヴァンは得意気な表情を浮かべて答える。

 

「おう、大きく分けて上級と下級にわけられるな。実際はその下級上級も細分化されてるんだが、まあデーモンハンターでないと倒せない程強いのが上級で、普通の人でも倒せるのが下級と思ってればいいな」

「そうだよね、確かそうだよね……でさ、今回僕達が戦うのって下級だよね?」

「その通りだ」

「そっかそっか……あれで下級?」

 

 モニターに映るのはまさに今から戦うデーモンであるのだが、全高が百メートル以上もあり、全長に至っては五百メートルはある。最早山と言っても差し支えない。

 甲羅を脱ぎ捨てたヤドカリのような姿をしており、何千年も生きた大木のような脚が十本生えている。ヤドカリのハサミにあたる部分は猿の脚になっており、その指は猿の腕となっていた。


「まさか中洲と思ってたのがデーモンだったとはなあ、エヴァン様もその発想はできなかったぜ」

「いやもうアレはデーモンというより怪獣モンスターだよ! GO○ZILLAじゃなきゃ倒せないよ!」

「こんな時こそイェ○ガーが欲しくなるな」

「で、どうする? 戦う? 逃げる?」

「戦うに決まってんだろ、すぐ近くにハーパーズ・フェリーあるからここで倒しておかないと大惨事になるぞ」

「でも避難はできてるんだろ?」

「避難できても帰る家が無いとだめだろ」

「君意外と正義感強いよね」

「そらお前、生まれ変わったエヴァン様はクリスさんへの愛を貫く正義の戦士だからな。当然だろ」

 

 流し目かつ無駄に綺麗な歯を見せて微笑む姿を見せる。特にカッコよくはない。

 

「わかった、それじゃあ始めようか」

 

 そして二人はテントを出て、隣に駐車しているキャンピングカーへと入っていった。

 キャンピングカーは居住部分を魔改造しており、壁面にはモニターやタッチパネルが設置され、リクライニングチェアが二つ設置されている。

 そのうち一つにはエレナが既に座っていた。残りの一つにエヴァンが座る。運転席にはいつでも出せるようリックが待機しており、居住スペースと運転席の間に置かれているソファにマシューが座った。

 マシューはテーブルにレーザーキーボードを出現させた。

 

「準備はOKだよ」

「よーしやるかー」

「はぁなんか緊張してきた」

「俺は運転席で暇だなあ」

 

 と四人は今回の戦闘における意気込みを告げる。一人やる気がないが。

 それからエヴァンとエレナはVRゴーグルを装着し、コントローラーを手にした。コントローラーの真ん中が淡く光ってマークが浮かび上がる。

 エヴァンはゴールドローターを表す三角マーク、エレナはゴールドタンクを表す戦車のマークが淡く光る。

 

「じゃあまずは俺が様子をみるかな」

 

 エヴァンがコントローラーを操作すると、それに合わせて駐機場に停めているゴールドローターが空へ飛びたってデーモンへと向かう。

 ローターに取り付けたカメラの映す映像が、直接ゴーグルの内側に移された。今エヴァンの視界はローターと完全に同期している。 

 

「よーしいいぞ、よく見える」

 

 暗がりの中、スポットライトの灯りを頼りにローターを真っ直ぐ進ませる。近づくにつれてデーモンの全体像がくっきり見えるようになる。

 

「ひとまずぐるっと回ってスキャンしてみるぞ」

「OK」

 

 ローターがデーモンの胴体を舐め回すようにカメラに収め、デーモンを刺激しないよう気をつけながら尻尾、足、頭と順にまわっていく、カメラの映像はマシューのデスクに届き、デーモンの全体像を簡易モデリングした物がモニターに映された。

 また同時にレントゲン撮影や体温スキャンも実行したため、それらの情報も表示される。

 

「スキャンデータ確認、私兵隊の隊長に送るね」

「おう」

 

 デーモンの情報はそのまま私兵隊長へと送られた。今回の作戦はアーチボルト家の私兵隊との共同作戦なので、エヴァン達は私兵隊長の指示で動くことにしていた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「スキャンデータきました!」

「解析急げ!」

 

 エヴァン達がいるのとは別のベースキャンプでは、私兵隊の指揮所が設けられている。

 隊長が監視モニターをチラリと一瞥してまたすぐに視線を解析モニターに移した。監視モニターには一個大隊規模の砲門が岸沿いに並べられており、その中に一つだけ場違いな程金ピカに光る豆タンクがあった。

 

「ゴールドタンク……でしたっけ、大丈夫なんですか?」

 

 オペレーターの一人がボヤく、不安も当然だろう。天才のマシューがいるとはいえ、まだ二十歳にもなっていない学生ばかりだ。それに一人はボンクラで有名なアーチボルト家長男のエヴァンなのだ、不安になるなという方が無理である。

 兵達の中には今回の戦闘を子守りだと思っている者が多数だ。

 

「今回はアレの実戦テストも兼ねてるらしいからわからん。だがまああのデーモンと戦おうという気概は買ってやろうじゃないか、それにデータ収集も問題なく行ったし、今のところは大丈夫だろう」

「わかりました……解析終わりました」

「奴の弱点はわかるか?」

「いえ、これといったものは見つかりませんでした」

「そうか」

 

 あのヤドカリのようなデーモンには弱点がない。セオリーどおり塩水を掛けてから銃撃戦に移行するべきだと思うのだが、どれだけの塩水をかければ皮膚を柔らかくする事ができるのかわからない。

 

「ゴールドチームに伝えろ、ローターで攻撃しつつデーモンの動向を探るようにと」

「はっ」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 ゴールドチームのキャンピングカー。

 マシューの元にオペレーターから私兵隊長の指示が送られてきた。

 

「隊長からの命令だ。ローターで適当に攻撃しつつ出方を伺えとの事」

「よっしゃ待ってたぜ!」

 

 ついに攻撃ができて嬉しいのか、エヴァンは意気揚々とコントローラーのボタンを押して機関砲を発射する。弾は先端に塩水を込めた特殊弾頭だ。

 毎分六千発以上の弾丸を放つ速度でデーモンの身体に撃ち込んでいく。

 例え象であっても一瞬のうちに死に至らしめる威力であるが、残念なことに一向に効いている様子がない。


「Yrryyyy」


 デーモンは静かに不気味な唸りをあげるだけである、おおよそ人間には発音出来なさそうな声で叫ぶため不穏な思いを無意識に抱いてしまう。

 

「塩水が足りないのか……」

 

 エヴァンはなおも攻撃を加え続ける。胴体は無理でも顔は効くはずだ、そう思って正面に回って機関砲を撃つが、デーモンは猿の脚を伸ばして指でローターを掴もうとしたので一時回避せざるを得なくなる。

 デーモンの脚はローターを空ぶったが、その後ろにあったスポットライトドローンを鷲掴みにしてグシャッと握り潰した。

 

「Ryyyy!!」

「うぉあっぶね……おいマシューあいつすげぇ頑丈だぞ」

「わかってる、今音響スキャンの解析してるから待って」

「よし待とう」 

 

 だがデーモンは待たなかった。デーモンは巨木のような足を上げて前に出し、また沈める。そして一歩進む事に小さな津波が発生して周囲の物を湖に沈めていった。


「YrRyyyyyyyyyyy!!」 

「あのザリガニもどき移動しやがったぞ!」

「まずい、あの大きさじゃ歩くだけで大惨事だ」

 

 さながら海の巨獣ベヒーモスのよう。デーモンは自然災害の如く規模の被害を撒き散らしながらミシシッピ川を南下していく。

 その先には住民が避難してゴーストタウンと化したハーパーズ・フェリーの街がある。

 

「……はい、わかりました……エレナ! 隊長からの命令だ!」

「なんて?」

「一斉攻撃を行うからタイミングを合わせてミサイルを撃てって」

「わかったわ」


 

 

 

 

 

 

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