第3話 橋の横のベンチ

シュン「昨日言ってたのこれでいいのか?」

タクロー「おっ、サンキュー!」

タクロー「鳴らしていい?」


「ピーピーピー」


タクロー「これで起きるの?普通だな。」

シュン「このままだったらな。これボイスアラームついてて、しかも録音するやつ。好きな事自分で言えばいい。」

タクロー「ちょっと面倒くさいけど、なんか面白いかもな。自分うぜーっ、みたいな感じで起きるのかー。」

シュン「俺がなんか言ってやろうか?」

タクロー「それも朝からうざいな。」

シュン「男友達のボイスアラームはマジないな。」

シュン「あれ、今日バイトないんだよな。この後なんか食いにでも行くか?」

タクロー「あっ、わり〜。この後約束あってさー。」

シュン「珍しいなー」

タクロー「今さー、親戚うちに泊まり中で色々案内するんだ。」

シュン「へー、それまた珍しい。じゃあまただな。」

タクロー「わり〜。」

タクロー「あっ、千五百。」

シュン「それなっ、実はアラーム止めるスイッチ接触悪くて返品になったやつ。だからやるよ。」

タクロー「じゃあ、ほれっ」

シュン「おいっ、投げてよこすな。」

タクロー「手間賃。五百で。」

シュン「いいよ。不良品だぜ」

タクロー「鳴らないとかだったら微妙だけど、止まらないってのは起きれるからいいんじゃない。なんか気に入ったし。」

シュン「それなら、遠慮なく手間賃もらっとくか〜」

タクロー「サンキューな。それと、今日わり〜な。」

シュン「じゃっ、また明日なっ。」

タクロー「また明日。」


時計塔まで約5分。今が14時だから待ち合わせまでは1時間くらいなので、一度帰ることに。


ガチャ


タクロー「んっ?」


ウィーン、カタカタ。


タクロー「いるのか〜?」

タクロー「マナミー」

マナミ「あっ、タクローおかえりー」

タクロー「あっ、修理ってやつか。」

マナミ「うん。待ち合わせまで時間あるしと思ってて。こんなに早いなら用意しときゃよかった〜」

マナミ「ちょっと待って、すぐ用意するからさー」

タクロー「いいよ。急がないし。」

タクロー「テレビでもみてるわ〜」

マナミ「わかったー」


3分後


マナミ「おまたせ〜」

タクロー「はやっ。」

マナミ「私は何事もスピーディーなのよ」

マナミ「じゃ、行こっか。」

タクロー「おー、行くかー。」

マナミ「なんかごめんね。せっかくバイト休みなのに付き合わせて。」

タクロー「いいよ。とくにやる事ないし。」

マナミ「ありがとう。じゃ〜行きますか」


時計塔まではほぼ一本道。

あまり都会じゃないこの辺りは、空き地や古い建物も珍しくない。

少し歩いてある空き地の前でマナミが立ち止まる。


マナミ「多分この辺り。」

タクロー「えっ?なにが?」

マナミ「おばあちゃん住んでたとこ。GPSだとこの辺りなのよ。」

タクロー「この辺りは俺が引っ越して来た時から空き地だから、その前知らないんだ。」

マナミ「ごめん。行こっか。」

タクロー「お、そーだな。」


「もしかして、おばあちゃん亡くなったとかで思い出巡りなのかな?」

タクローはそんな事考えていた。

そう思うと自分に出来ることあれば、なんて勝手な想像もしてたりする。

よく見る景色も今日はなんか違う。

故郷を懐かしむ。そんな感じでタクローの目に映っているのだ。

おばあちゃんがこの辺りに住んでたというマナミの言葉がタクローをそう思わせてたのだろう。


マナミ「柱時計!」

タクロー「時計塔!!」

マナミ「あっ、そーだった。時計塔!」

タクロー「言ってた橋は駅の裏だからこっちだな」


駅の中を通りぬける。

裏から出た景色は表よりもなにもなく、小さい橋だがすぐわかった。


マナミ「あっ。あれだー!」

タクロー「うん。あれだ。」


急に小走りのマナミ。

小柄だけど肩にかかるくらいの黒髪と大人っぽい顔つきで、たまに歳上にさえ見えるくらいのマナミが子供みたいに見えた。


マナミ「ここだー!」

タクロー「ここだな。言ってた橋は。っていうかこの辺りで小さい橋はここしかないからなー」

マナミ「タクロー、手伝って。」

タクロー「えっ?なにを⁇」

マナミ「そっち持って」

タクロー「おい、いーのか?」

マナミ「いいの。」

マナミ「せーのっ。」

タクロー「なぜ?」

マナミ「あともう少し。せーのっ。」

タクロー「っあー。ってか、なんで着くなりベンチ動かすんだ?」

マナミ「あっ、えーと。ベンチがあそこだと写真映り悪いからよ。この方がいい。」

タクロー「いいのか?勝手に動かして。」

マナミ「小さい事言わないっ。これでいいのよ。この方が好き。」

タクロー「わかんねー。けど、これもやりたかった事の1つなんだろ。それならよしとするか。」

マナミ「そー。これが1つ。」

タクロー「ちなみにあと何個あるの?」

マナミ「あと6つ」

タクロー「えっ?そんなにあるの?」

マナミ「あと6つ終わるまでお世話になります。」

タクロー「はいはい。」

マナミ「ホントはうれしいんじゃない?いつも話し相手いるし、退屈しないし。」

タクロー「あのねー。俺にだって友達くらいいるの。」

マナミ「1人でしょっ??」

タクロー「…何故それを!?」

マナミ「えっ、当たってた?」

タクロー「もしや、今のは?」

マナミ「勝手な想像。」

タクロー「おいおい」

マナミ「えへっ」

タクロー「あのな〜」

タクロー「まっ、これで1つできたし帰るとするか」

マナミ「せっかくだしなんか食べて帰ろうよ。」

マナミ「今日のお礼にごちそうするから」

タクロー「じゃっ、牛丼。」

マナミ「じゃあ行こう。」

タクロー「牛丼でいいの?」

マナミ「いいよー。実はさ私牛丼って食べた事あまりなくて。」

タクロー「ピザの時もそんな事言ってたな。ホント何もないんだな。マナミの住んでるとこって」

マナミ「この辺りもあまりないけどね」

タクロー「そーいや、そーだな。」

マナミ「行こっ。牛丼!」

タクロー「おー、行くかっ。」


人のために何かする。

そんな事と無縁だったタクローだが、今すごく清々しい気持ちでいる事に少しの喜びを感じていた。

今まで知らなかった新しい自分をおバカなりに少し気づいたのかもしれない。






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