花見とコンテストとお団子お姫 1

雪も解け、花も咲く季節になった。

雪かき業務が無くなり、代わりに雪解け水などの対応のために溝のどぶ攫い業務が増えた冒険者ギルドで、春を感じる季節になった。

暖炉にも火を入れ無くなって、ルーちゃんが温めていないミルクを飲むようになり、のんびりゆったりした春の日和を感じる時分に……


「花見祭りに出るよ!!!」


お姫がチラシをもって騒ぎ始めた。のんびりゆったりした気持ちは吹き飛んだ。




チラシには、大地母神教の教会で行われる花祭りについて書いてあった。豊穣を司る大地母神の教会だけあって、春になると花がきれいなのは前から有名で、お年寄りの散歩コースによく使われていたのは確かだ。だが、こんなお祭り、去年までなかったと思うけど……


「お姫、どうせあんたがなんかしたんでしょ」

「特に何もしてないよ?」

「あんたがこんなイベントごとにかかわってないわけないでしょ。チラシも持ってきたわけだしなんかあるんでしょ」

「この前のバレンタイン祭を見て、大地母神教の人がうちも何かやりたいって言ってたから、花見とかどうですかって提案したり、帝都でやってる花祭りの資料あげたり、コンテストのやり方のノウハウも教えてついでに受付ちゃんもコンテストに登録したりしたぐらいだから、特に何もしてないよ」

「いや、どこがなにもしてないって……コンテスト?」

「そうコンテスト。大地母神に花輪をささげる儀式っていう、お祭りのクライマックスのイベントがあるんだけど、そこで花輪をささげる花娘をきめるコンテストだよ」

「で、そのあとになんていったかな?」

「受付ちゃんをそのコンテストにとうろ、いたいいたいいいたい!!!」

「ねえ、なんでそういうことするのかな? ねえ、なんでかな?」

「ほっぺたのびちゃううううう!!! ルーちゃんもいっしょにひっぱらないでええええ!!!」


お姫の頬っぺたは面白いように伸びた。



さて、ひとまずお仕置したお姫を引きずって、大地母神の教会に来る。

一応私たち冒険者ギルドは竜神教の信徒なので、こちらにはほとんど来ないのだ。

教会の敷地内の花は、ところどころ咲いている程度だ。2週間後の花祭りの時には、きっと満開になっているのだろう。


「あら、エリスさんではありませんか? そちらは皇女様ですわね。当教会に何の御用ですの?」


教会の扉の前で呼び止められた。振り向くとそこには、金髪ゴージャスな美女がいた。エメラルダさんという、私と同い年の人だ。ここの教会の司祭の一人である。金髪のエルフであり、植物の魔法が得意という、まさに大地母神教の司祭にふさわしい属性を持つ彼女。上から目線で結構めんどくさい人だが、基本的に優しい人なので嫌いではない。ただめんどくさいだけだ。あと同じエルフの血なのに、肉付がすごくいい。ぼんきゅっぼんである。食べるものがきっと違うのだろう。さすが大地母神様。


「今度の花祭りのコンテストについてちょっと話したいことがあって」

「ああ、エリスさんも参加されるのですわよね? 私も参加いたしますの。負けませんからね」

「いや、そうじゃなくて」

「確かにエリスさんも若葉が萌えるような瑞々しい美しさがありますが、この大地母神様の加護を受けた私が、負けるわけにはいかないのですわ」

「だからコンテストについて……」

「そういえば最近エリスさんおしゃれになりましたわよね。何かあったのですか?」

「ボクが美容管理と服装チェックしてるんだよ」

「さすが皇女様、センスがよろしいですわね。できればその美容法について教えていただけませんでしょうか」

「だからあの……」

「もちろんいいよー。化粧品は竜神教でも商売上作ってるんだけど、やっぱり大地母神教の系列店のほうがいいのがあるんだよね。大地母神教の商用カタログは?」

「申し訳ありませんの。ここでは商用のものは取り扱っておりませんの」

「今食料品で流通経路作ってるんだけど余裕があるから大地母神教のほうも一枚噛まない? こっちも費用が浮くから助かるんだけど」

「今度主教様にもご相談いたしますわ」

「えっと!! 私、コンテストキャンセルしたいんですけど!!」


お姫とエメラルダさんのマシンガントークに押されながらも私は必死に声をあげた。このままだと流されかねない。

コンテスト、でない、そうアピールする私をエメラルダさんは困った顔で見た。


「エリスさん、すでに予備審査は終わってしまったので、キャンセルはできませんわ」


まさかのキャンセル不可能だった。かなりショックである。


「エリスさん、大丈夫ですわ!!! きっとあなたなら、最後まで残りますわ。花娘にも……いえ、花娘は譲りませんからね!!」


ビシッと指さすエメラルダさん。その恰好はすごく凛々しくきれいである。さすが街の領主の娘さんである。何をやらせても格好がつく。


「そうだよ受付ちゃん!! 大丈夫だよ!!」


横で跳ねているお姫を見る。なんかふわふわほにゃほにゃしている。前言撤回、エメラルダさんがかっこいいのは本人の努力だ、血筋や家柄ではない。お姫を見て確信した。

なんにしろ、コンテストには出ないといけない模様である。憂鬱だ。


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