バレンタインとチョコと綿あめお姫 2

恋人たちに祝福を与える儀式といっても、今まで行われていなかった儀式である。

具体的に何をやるのかをお姫に確認したが、


「どーんとやって後は流れで」


という適当すぎる回答しか返ってこなかった。回答がふわふわすぎである。


「ねえ、それで伝わると思ってるの?」

「ちょ、ちょっと受付ちゃん笑顔がこわ、ぴにゃあああああ!!!」

「あなたはそれでいいかもしれないけど、私はそれで理解できると思ってるの? エスパーじゃないのよ」

「にゅあああああああ!!!!」

「年夫婦でも、お母さんでもないの、だから伝わらないからね? わかる? スカスカの脳みそで理解して?」

「にゅっ、にゅっ、にゅっ!!」

「伝わってるじゃないかって? あははは、ご冗談を」

「にゅいいいいいいん!!!」


面白いようにつぶれて変形するお姫の頬っぺた。不細工な悲鳴をあげ続けさせながら、私はしばらくしつけをするのであった。


ひとまず下賜物、教会から渡すお土産は既に決まっている。白銀堂の新作スイーツである、ホワイトトリュフショコラである。真っ白でまん丸な形のチョコレートである。白いチョコレートもあるんだなぁと感心した。まるで頬っぺたいじられ過ぎてそこでへたっている綿あめのようなお菓子である、丸っこいし。

このお菓子のレシピもこの綿あめが考えたらしい。いろいろ知っているな綿あめ。でもそういう知識の前にもうちょっと人の付き合い方とか学ぶべきだと思う。


「受付ちゃんに傷モノにされた。もうお嫁にいけない」

「何ふざけたこと言ってるのよ。

「受付ちゃんがかまってくれない」

「もう一回躾けやりましょうか?」

「ひええええええ、すいませんゆるしてください」


綿あめは土下座を始めたが、無視して話を進める。まったく、表だと凛々しい感じで立ち振る舞えるくせに、私の前だとグダグダである。


「で、段取りは?」

「アドリブ!!」

「つまり、何も考えてないわけね」

「いひゃいいいいいいい!!!」


綿あめがつぶれて板になるぐらい頬っぺたを引っ張りながら考える。

どうせ形式も何もルールはないのだし、それっぽくすればいいだろうと思う。


「チョコは、あなたたちに祝福を、といいながら最後に渡せばいいかな。子供たちが売ってるチョコクッキーもそういいながら売るように後で口裏合わせしないとね」

「にゅいいいいいいい!!!」

「祝詞は、結婚や婚約のじゃ重いよねぇ…… そこまでのは求めてないだろうし、受ける人のほとんどは新作スイーツ目当てでしょうしねぇ」

「みにょおおおおお!!!」

「見え見えのお世辞言ったってなにも出ないわよ。ふつうにあんたのほうが普通にモテるでしょ綿あめ」

「ふえええええ!!!!」

「いいからちゃんと段取り考えなさい。板チョコにするわよ。普通に幸運の祝福の祝詞でいいのかなぁ、味気ないけど」

「みょおおおん!!!」

「そんな新作の恋人の祝福の祝詞なんて知らないし、今から覚えられないからパス」


どうやら綿あめはバレン=タイン祭のために作られた恋人向けの祝詞を知っているようだが、今から教えられたって私が覚えきれない。竜神教の祝詞は基本すべて神代竜神語なのだ。発音も独特だし、詠み上げにはかなり練習がいる。最低でも私は小さいころから神父さんに習ったやつしか基本詠めない。


「まあ普通のでいいでしょ。幸運の祝福で行くから」

「うう、やっと離してくれた…… まあ、いいんじゃないかな。恋人の祝福は来年まで練習だね」

「いや、来年はちゃんとコンテストやって選んだ人にやってもらって」

「えー まあ受付ちゃんがコンテストで優勝すればいいだけだね」

「いや、出ないし」

「えー」

「ほら、いいからさっさと行くよ。何人か待ってるみたいだからね」

「はーい」


綿あめを連れて、控室から教会の礼拝堂に行く。礼拝台の前では、すでに一組目のカップルが待っていた。見物客もいっぱいである。

知り合いの二人組だ。同年代で、オシドリ夫婦と有名なカップルだった。私は男性のほうは気障で鼻についてあまり好きではなかったが、嫌いというほどでもない。そんな関係である。女性の方は、やさしいがちょっとおせっかいなので私は苦手だった。


「それにしてもエリス、あなたも相手がいるなんて知らなかったわ。教えてくれてもよかったじゃない」

「何のことですかアデレード。相手なんていませんよ」

「何言ってるのよ、竜神様のことよ。同性でも、私はいいと思うわ」

「何言ってるんですか!?」

「何って、有名じゃない、あなたたちカップル。鉄の乙女エリスのお相手は帝国のお姫様だったとはねぇ」


思わず綿あめを振り返るとニヤニヤとしていた。こいつ、どういう広告をしたのだ。にらみつけるが全く堪えた気配がない。ひとまず問い詰めたいが、お仕事が先である。さっさと祝福を終わらせて、今度こそ綿あめをぺたんこにする作業をしないといけない。


「ひとまず始めさせていただきます」

「よろしくお願いします」


口から祝詞がこぼれる。神代竜神語は竜の言語である。鳴き声のような、そんな音が口から洩れては響き消えていく。綿あめも私の祝詞にあわせて声をあげる。綿あめとはいえさすが竜人。響きが全然違うな、とちょっと感心した。

二人の声が合わさり、徐々に共鳴していく。この共鳴作用を出すのが正式だが、なかなか難しく、神父さんとやった時にはうまくいったことがない。綿あめ、こういうところは有能だなぁともう少し感心し、ちょっとだけ好評価を付けることにした。ただ、現状綿あめへの好感度は10点満点でー100点ぐらいだが。

声が響くと同時に、礼拝堂自体も不思議な光に包まれていく。優しい七色の光りだ。なかなかきれいである。共鳴作用により、いろいろ神秘的な現象が生じるとは聞いていたが、こんなことも起きるんだなぁ、きれいだなぁ、と思いながら、短い祝詞は終わった。


「あなたたちに、竜神の祝福を」

「え、あ、ありがとうございます」

「次の人、どうぞ」


新作白チョコを渡す。よし、一人目クリアである。ジャンジャンこなさないと20人は終わらない。流れ作業的で若干申し訳ないが、主役は新作白チョコである。そもそも聖職者でもない私と、一応聖職者だけど中身ダメダメの綿あめの祝福などに期待している人などいないだろう。

私はどんどんと祝福を授け、20人を30分足らずで消化したのであった。

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