chapter.93 アルクゼロ

 言うなれば宇宙の台風だ。


 宇宙を分断する次元の裂け目より放たれた衝撃派が地球を崩壊へと導いた。


 地軸がねじ曲がってしまい各地で起こる異常気象。

 地殻変動により大陸は分断され、海面上昇により都市は海の中へ水没。


 そして僅かに生き残った人類を宇宙より来訪する《擬神》が襲い掛かる。


 西暦2101年。


 二十二世紀は始まったばかりであった。



 ◆◇◆◇◆



「……と、まァ地球が大変な事になっているがね、我々にはもう関係のないことさァ」

 ヤマダ・アラシは次元の裂け目を悲しそうに見つめて呟いた。

 地球圏内は今、重力嵐が吹き荒んでいる。

 岩石や機械の残骸が宇宙空間に舞い上がり、その場に止まっているのも難しい状態だった。


「もう、この階層を救うことは出来ないだろう……」

 宇宙空間に生身で《ゼノン》の頭部に座るヤマダは平然としている。


 そんな最中で地球、月、スフィア。

 三つ巴の戦争は重力嵐の直撃を受け、闇の彼方へ消し飛んでいく。

 そんな中で生き残るものはごく僅かだった。


「見つけた……礼奈を返せ、ヤマダ・アラシッ!!」

「やっちゃえ、歩駆ー!」

 彼方より一直線に放たれる光の波動が《ゼノン》のベールから発生される防御障壁を激しく震わせる。


「来たか、少年ンンッ!!」

 退避する《ゼノン》だったが重力嵐が吹き荒ぶ宇宙空間の中、その僅か一秒後に《ゴーアルター》が眼前に迫っていた。

 冥王星の力を得て体長約50mほど巨大化した《ゴーアルター》の巨大な拳が《ゼノン》に向かって打ち込まれた。


「やァ、少年。見事、復活したようだなァ!! 流石は主人公だよ、おめでとうッ!!」

 吹き飛びながら余裕のヤマダ。

 防御障壁によって《ゼノン》は最小限のダメージしか負わなかった。


「祝ってくれるなら、出すもの出してさっさと俺の前から消えろ!」

「彼女のことかなァ? 残念ながらそれは出来ないんだなァ、ハァーッハッハァ!」

 嘲り笑うヤマダ。そこへ彼方から燃え盛る豪速球が《ゼノン》を狙い、飛び込んできた。

 すかさずベールを棒状に成形すると野球のバッターのように豪速球を打ち返す。


「あんたたち、私たちの事を忘れちゃいないでしょうね!?」

 歩駆の《ゴーアルター》の元へ駆け付けたのはサナナギ・マコトの《ゴッドグレイツ》だ。

 その背中には半壊状態なガイの《ブラックX》を無理矢理、熔接して繋ぎ止めている。

 コクピットの中のガイは戦意を失い、戦いを黙って見届けていた。


「所詮は模造品のアバターかァ……がっかりだよ、やはり信じられるのか自分ってことかなァ?」

 並び立つ二つの機神にヤマダは少し面倒くさそうな表情でため息を吐いた。


「って、デカ!? 真道君、ゴーアルター大きすぎない?!」

 約二倍ほど《ゴッドグレイツ》よりも巨大になっている《ゴーアルター》を見上げてマコトは驚いた。


「これがゴーアルターの真の姿って訳だ」

「ふ、ふーん……それで、誰なのその子?」

 モニターに映る歩駆の隣のボーイッシュな少女を見るマコト。


「ボクかい? ボクはマモルだよ。ヨロシクね」

 ブイサインをするマモル。

 マコトはこのマモルがシンドウ・マモリの正体なのだとわかった。


「…………真道さん、アイゼンさんはどうなさったのですか?」

 トウコが質問する。


「今は礼奈をヤツから助けることが先決だ」

 と、違う答えで即答する歩駆。

 一緒に冥王星へ行ったはずのマナミ・アイゼンの姿が無いと言うことは何かの原因で命を落としたのだろう、と何となく察したが歩駆は答えなかった。


「手を貸してくれないか、ゴッドグレイツ?」

「ま、それは後で全部聞かせてもらうとしてさ……」

 マコトは《ゼノン》の頭で、歩駆たちの会話の会話の間、退屈そうにしていたヤマダの姿を見る。


「生身で宇宙に、アイツがヤマダ・アラシなのね?」

「確かにガイさんやヤマダ・シアラに雰囲気がそっくりな気がしますが……」

 こちらを不敵に見詰めるヤマダの視線にトウコは背筋がゾワリとする。

 不快感が形になったようなものを感じた。


「正義のヒーローかァ? 良いなァ……でも君達、この天才を倒してどうするつもりなんだァ? 見ての通り地球はもう助からない。このヤマダ・アラシを倒したところでどうなるわけでもあるまいになァ」

 割れた大陸が一つ、海に沈んだのを眺めなからヤマダは言う。

 今、宇宙から見える地球の姿に歩駆たちは顔を背けたくなった。

 濁る海が大陸に侵食してしまい大地の半分以上が姿を消し、あの美しかった青い惑星とはかけ離れていた。


「何をとぼけてやがる!? あのSV……ソウルダウトが、世界を元に戻せるんだろ?!」

 歩駆が《ソウルダウト》を最初に見たのは南極だった。

 剣に変形する銀色のマシン。

 それを操る謎の青年イザ・エヒト。


 イザは冥王星で言った。


 ──渚礼奈のため。そして、この混沌とした世界を変えたいなら、再生の鍵(けん)ソウルダウトを手に入れるのです。


「それで少年はソウルダウトを手に入れて、本当に世界を“元に”戻したいのかなァ~?」

「…………それは……」

 ヤマダはいらやしい質問すると歩駆の表情が強張る。

 口ごもる歩駆を後ろでマモルは心配そうに見詰めていた。


「少年にとっての“元の世界”とは何だろうなァ?! 元の時代、元の生活、元の高校生に戻って……そして?」

「真道君、アイツの言葉に惑わされないで!」

 と、マコトは叱咤し《ゴッドグレイツ》は掌から熱線砲を連続発射して《ゼノン》を攻撃するが、巧みに回避されてしまいヤマダは言葉に続ける。


「この世界から戦いを、ゴーアルターやSVの存在を無くした世界を作る……だろうなァ? 主人公らしい、とても素晴らしいことだァ! でも、それだとゴッドグレイツの君にとっちゃァ不都合なんじゃないかなァ?」

「くっ……だから、なんだってのよ!」

「倒すべき相手は、このヤマダ・アラシじゃないってことさァ」

 ヤマダに確信を突かれて《ゴッドグレイツ》の攻撃は正確さを欠く。

 心の動揺で射線はフラフラと揺れ動き、動いてもいない《ゼノン》に熱線砲は全く当たらない。


「でもね、この天才には少年の気持ちがわかるのさァ」

 ようやく当たろうとした熱線砲だったが《ゼノン》が突然の瞬間移動。

 いつの間に《ゴッドグレイツ》の背後に回られる。

 背中にいるガイを庇おうと振り向く《ゴッドグレイツ》に《ゼノン》は胸部から閃光を放つ。

 激しい衝撃と共に《ゴッドグレイツ》が爆ぜて、スフィア・ミナヅキの残骸に吹き飛ばされる。


「わかるんだァ……君は世界からSVを、戦いを無くしたりしない。何故なら君は“主人公”なのだからなァ!」

 次の瞬間には《ゴーアルター》に急接近していた。

 機体を通して歩駆の瞳を覗き込むヤマダ。


「何を……言ってる?」

「シンドウ・アルク! なぜ君がゴーアルターに乗ることができ、今日まで戦い抜くことが出来たのかァ! それは君がこのヤマダ・アラシと同じ“主人公という役割(ロール)”を与えられた別次元の人間だからだァ!!」

 最後に、ヤマダは歩駆に真実を打ち明ける。


「そして、この俺こそが君のオリジナル“真道歩駆ゼロ”だ」

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