chapter.76 エクステンション/ゴッドアルターG

 月の大地に降臨する真紅の鎧を纏いし純白の巨神。

 堂々とした佇まいは見るものを圧倒する。

 それは異次元よりの来訪者である《鳳凰擬神》も同じで《巨神》を目の当たりにし本能的に生命の危機を感じていたのであった。


「不思議な感じ……これなら行ける気がする!」

 これまで様々なSVと合体して戦闘を行ってきたマコトは《ゴーアルター〉が他のSVとは根本的に違う何かを感じ取っていた。


「そうか? 俺は変な違和感は感じる。異様に暑い……暑いのは好きじゃない」

 反対に歩駆はと言うと、機体の中に他人の意思が介在し一体化しているような感覚に戸惑う。

 心の中を覗かれているようで気持ち悪かった。


「ねぇ、名前どうする?」

「名前?」

「この機体は《ゴーアルター・ゴッドグレイツ》なのか《ゴッドグレイツ・ゴーアルター》なのか。それとも略して……」

「どうでもいい」

「よくないよ、これは大事。なんて読んだらいいかわからないもの。はっきりさせなきゃ」

 熱弁するマコト。

 これでも歩駆の中にある焦りや不安を取り除こうと心配しているのだ。


「それじゃあ《ゴッドアルターG》なんてのは、どう?」

「アニメの見過ぎだ」

「いいじゃん、カッコいいじゃん!?」

「…………勝手にしろ。今は敵を倒す、それだけだ」

 こう言う歩駆だったが満更でもないことにマコトは気付いていた。

 そして《ゴッドアルターG》と名付けられた巨神は倒すべき敵と対峙する。

 赤兜から覗かせる二色の瞳が《鳳凰擬神》を睨むと、震え声ようなやけくそ気味の雄叫びを上げた。

 両翼を大きくはためかせると羽根が矢のように飛ばされ《ゴッドアルターG》に乱れ撃つ。  


「行くよ真道君!」

「タイミングは俺に合わせろ。俺がやる」

 鋭い刃のような羽根の雨に《ゴッドアルターG》は避けるでもなく逆に向かっていった。


「消し飛べッ!!」

 叫ぶ歩駆に応え《ゴッドアルターG》は巨腕を振るうと、白く揺らめく炎がカーテンのように全面に広がる。

 炎のカーテンが飛来する羽根を全て掻き消した。


「今度はこいつを……」

 駆ける《ゴッドアルターG》は右腕を回転させると炎のカーテンが腕に巻き付いていく。


「持っていけ!」

 白い炎を纏った右腕を振りかぶると猛烈な勢いで発射する。

 渦巻く炎の鉄拳が《鳳凰擬神》の腹部を抉った。


「やった?!」

「……まだだ」

 一瞬、ぐったりと頭を垂れる《鳳凰擬神》が咆哮する。

 身体が目映く光りだし、ばら蒔かれる小さな粒子が瓦礫に触れると大爆発を起こした。

 一つの爆破が別の粒子に触れて連鎖的に爆裂していく。


「何なのあの鳥、ヤケクソじゃん?!」

 まるで花火のような鮮やかな光に思わずマコトは綺麗と思ってしまう。

 帰ってきた右腕を肩に戻して《ゴッドアルターG》はバックステップで距離を取った。


「とにかく止めるしかないわね」

「あぁ、そうだな」

 気合を入れようと歩駆は足に力を込めると爪先に何かがぶつかる。

 足元の奥を見ると古びた黒い小さな箱が転がっていた。


「これは……」

「何? どうかした?」

「なんでもない、まず街から離すぞ」

「うん、行くよ真道君」

 その場で高く飛び上がる《ゴッドアルターG》の二色の瞳が輝いた。

 カッと見開かれた眼から二条のレーザーが放たれる。

 暴れまわる《鳳凰擬神》はとっさに両翼でガードするとレーザーを跳ね返す。

 跳ね返ってしまった《ゴッドアルターG》のレーザーは被害の少なかった街を焼いた。

 

「ちょっと不味いでしょ!?」

「遠距離はダメだ。もっと近付いて攻めるぞ」

 上空の《ゴッドアルターG》は《鳳凰擬神》に向けて錐揉み回転しながら急降下。


「機体ごと突撃する!」

 複数の尻尾を伸ばして攻撃する《鳳凰擬神》だったが猛烈な勢いで回転しながら燃える《ゴッドアルターG》の前には効かなかった。

 炎の高速回転キックが《鳳凰擬神》を押し潰す。

 下半身が一瞬でぐしゃぐしゃの肉塊に変貌する《鳳凰擬神》だが、形すら無くなりながら再生をしようと蠢く。

 しかも、肉塊が《ゴッドアルターG》に絡み付きながら元に戻ろうとしていた。


「嘘!? 取り込まれてる?!」

 全身に走るねっとりとした不快感に焦るマコト。


「……いや、これでいい」

「いやいやいや、言い訳ないでしょ!?」

「上を見ろ」

「上ぇ……う、うへぇ…………」

 一瞬、だけ内蔵器官がちらりと見えて視界が真っ暗になった。


「な、何も見えない……」

「よく見ろ」

 歩駆に言われてマコトは目を細めて真上を凝視する。

 始めはただの暗闇だったが、ぼんやりとした光る何かが浮かんで見えた。


「身体が吸収されてる。あの核(コア)を叩くぞ、タイミングを合わせる」

「……わかった。真道君に任せるよ」

 装甲の表面が《鳳凰擬神》の体内で溶かされているような感覚に恐怖を覚えながらも二人は意識を集中させる。

 これ以上、月を破壊させないために《鳳凰擬神》を止めなければルナシティが、渚礼奈の命が危ない。

 

(礼奈……すぐ行くよ)


(ガイ、見守っていて)


 二人の意思に呼応して《ゴッドアルターG》は真価を発揮する。

 体内に《ゴッドアルターG》をないほうしたままルナシティに進行する《鳳凰擬神》の動きが止まる。

 瞬間、苦しみだす《鳳凰擬神》の身体が宙に浮き出し、その腹部は真っ赤に点滅するとみるみる膨れ上がっていった。


「今よ、真道君ッ!」

「こいつで……!」

 極大の閃光が天に昇る。

 内部から《ゴッドアルターG》の莫大なエネルギーが放出される。

 頭部に埋め込まれた核を破壊され《鳳凰擬神》は光に飲まれて塵一つ残らず消滅した。


「……やった。やったよ真道君?!」

 歓声を上げるマコト。

 光の雨が月の大地に降り注ぎ《鳳凰擬神》がやって来た巨大な異次元空間の裂け目も閉じようとしていた。

 その隙間から見える別の宇宙。

 無数の星の光に見える“目”に見詰められてマコトの背筋が凍る。


「……そうだ、ニジウラ・セイルは? アイツはどこにいった?!」

 思考が停止していたマコトの表情が思い出したかのように険しくなって辺りを見渡すと、手足をもがれボロボロになったピンク色のSVを発見した。


「あれは違う。偽ゴーアルターを率いてたヤツじゃない」

「いや、アイツがジェシカを殺したニジウラ・セイルだ!」

 動かそうとするマコトと制止させる歩駆。

 二人の意識に乱れが生じた《ゴッドアルターG》の合体が解かれ、再び《ジーオッド》と《ゴーアルター》の二機になった。


「……あれ…………何これ……?」

 分離した途端、マコトに重くのし掛かる疲労感。

 シートから滑り落ち、操縦桿を握る手すら上げられないほど身体は悲鳴を上げていた。


「じゃあな真薙、誰かに拾われろよ」

 コツン、と《ゴーアルター》は指で《ジーオッド》を街の方に押し出す。

 グロッキー状態なマコトとは反対に、歩駆の気分はとても晴れやかな気分さだった。

 

「長かった……俺、今まで忘れていたんだな」

 何故、歩駆は渚礼奈に会わなければいけないのか。

 異空間で戦い続け約半世紀が経ち、この時代に来てしまってから記憶の彼方に置いてきてしまった。

 先程見つけた小さな黒い箱はその答えだ。


「返事を聞かないとな。その為に俺は今日まで……」

 足元に手を伸ばし箱を拾い上げて、上着のポケットにしまう。


 長きに渡る歩駆の旅も遂に終点を迎える。

 

 期待と不安を胸に、歩駆と《ゴーアルター》は目指すは渚礼奈のいるルナシティに降り立った。

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