chapter.46 人機一体
「私はアンタのことを一発ぶん殴らなくちゃ気が済まないッ!」
マコトの激昂が南極の凍てつく突風を熱風に変える。
ヒトとマシンの融合。逆巻く火のオーラを四肢に纏った《ゴッドグレイツ真》は猛烈な速度で三代目ニジウラ・セイルの《アレルイヤ》に迫った。
『親衛隊の皆、出てきて!』
後ろに控える月の戦艦から《Gアーク・ストライク》が、三代目ニジウラ・セイルの応援歌をバックに次々と出撃する。
その数は十機。
「死にたくなければ下がれ! 手加減は出来ないんだからね!」
マコトの静止も聞かず《Gアーク・ストライク》は《ゴッドグレイツ真》を取り囲んで攻撃を行う。
「何機出て来ようとっ」
四方八方からビームの雨が《ゴッドグレイツ真》を打つが、全身から燃え盛る焔の前にビームの熱量は全くの無力だった。
「効かないって見ればわかるでしょ!」
業を煮やした一機の《Gアーク・ストライク》がカッター型のブレードを構えながら迂闊にも《ゴッドグレイツ真》に近づく。
力一杯、ブレードを振りかぶって《ゴッドグレイツ真》へ一太刀浴びせた、かに思えた。
ブレードを持っていたはずの腕は肘から先が溶けてなくなっていた。
「もう一度言う、死にたくなければ退けっ!!」
叫ぶマコトの声が《ゴッドグレイツ真》を通し、熱波として《Gアーク・ストライク》の装甲を焼き、彼方へと吹き飛ばす。
まだ、ほんの軽い力しか出していないが量産機を相手するのには十分のパワーを秘めた《ゴッドグレイツ真》だが、それでも《Gアーク・ストライク》は攻撃を止めず果敢にも向かってくる。
『頑張れ、頑張れっ! 負けるな、ファイトー!!』
「ふざけるの大概して。戦いをやるなら自分で来ればいいじゃない」
『何を言ってるんですか? セイルは皆にエールを送っているんだよ? それがアイドルなんだから』
行く手を阻む月の《Gアーク・ストライク》に加えて《フライヴ》ら虫型SVも《ゴッドグレイツ真》を《アレルイヤ》に近付けさせまいと周囲を飛び回った。
「アンタは月でジェシカを、大勢の人間を殺したくせに何がアイドルだって!?」
『あれはセイルを陥れるためにTTインダスなんとかさんが仕掛けた罠でした。正当防衛って奴?』
大群の《フライヴ》が《ゴッドグレイツ真》に突撃するが、振り払う手から巻き起こる火炎旋風が《Gアーク・ストライク》と《フライヴ》を一斉に巻き取って粉微塵に砕いた。
『でも今はセイルの歌のおかげで、こうして月の人と手と手を取り合い一緒に協力してる。ジャイロスフィアの人たち地球と月の争い事で板挟みで、とても弱い立場にあります』
「それで戦争を起こしていい理由にはならないだろ!?」
『だからこそ立ち上がらなければならないんです。戦争を止めるには力が必要……でも私に出来ることは歌うことだけだから』
まるでドラマの挿入歌のようなバラード調BGMを背に、セイルは長台詞を言い終えて自分の言葉に涙していた。
『貴方とも解り合いたいの!』
「嘘を言うな! 何が歌うことだけだよ、さっきから目茶苦茶なことばかり言って!」
敵を押し退け《ゴッドグレイツ真》は掌から弾丸のように高速連射される火球を《アレルイヤ》に撃ち続ける。マコトの想定以上に《アレルイヤ》の機動力は高く、回避行動も無駄なく動く相当なテクニックだった。
「さっきツルギのおじいちゃんにしたこと、あれがお前の本性だ! 歌うだけだってんならアイドルがこんなところに来るな!」
『そう言うわけにはいかないんですよねぇ。貴方たちも狙っているのでしょう? あの剣を』
いつの間にか《ゴッドグレイツ真》の周りにキラキラとした粒子が包み込んでいる。
それは《ゴッドグレイツ真》から溢れ出る炎では掻き消せず、移動してもまとわり付くよう着いてきた。
『サンシャインマジック!』
パチン、と三代目ニジウラ・セイルは指を鳴らす。
煌めく粒子が花火のように閃光して《ゴッドグレイツ真》を包み込んだ。
『私ね、この“三代目”って呼ばれるの好きじゃないの。私は私として評価されてる』
「だから、なんなのよ!?」
『だからね、あのソウルダウトっていうのを手に入れたら私が本当のニジウラ・セイルになれるって、私を遠くから助けてくれた“あしながおじさん”が教えてくれたの』
キラキラの爆発の中から白煙を纏って《ゴッドグレイツ真》が姿を現したが、本体から吹き出る炎が少し弱まる。
「ぐっ……うぅ」
この炎は操縦者であるマコトの精神力が具現化したモノだ。
それで機体にダメージが通っている、と言うことは《アレルイヤ》の光る粒子は通常のビーム兵器の類いではないと言うことである。
痛みで叫びたくなるほど全身にビリビリとした感覚がマコトを襲った。
『これがアイドルのオーラってやつね!』
「ゴッドグレイツの炎と同じタイプなのか、あれもexSVだと?」
油断が招いた結果。
これまでの戦いでマコトは《ゴッドグレイツ》でここまでダメージを追わされた経験は数少ない。
目の前の《アレルイヤ》はマコトが見た中でも特異のSVだ。
いつものように余裕を噛ましていれば負けてしまうかもしれない。
『んー、おかしいなぁ。あなた、セイルの歌がずーっと流れてるのに、ちゃんと聞いてるの?』
三代目ニジウラ・セイルは不思議に思い質問した。
大きな羽を持つ《アレルイヤ》のウイング一つ一つがスピーカーの役割を担っている。
これに三代目ニジウラ・セイルの歌声が発せられるとき、機械ですら魅了させるヒプノシスボイスへと昇華されるのだ。
『でもね、私の歌声は天にも届いたようだよ? あちらをごらんくださぁい!』
上空から来る警告に《ゴッドグレイツ真》は体を大きく仰け反った。
突然降りだす雨のような遠距離の砲撃。
二隻の統連軍の戦艦と《Dアルター》からだ。
その攻撃はマコトたちを狙い、三代目ニジウラ・セイルや月の戦艦は対象に入ってない。
『どうなっている? 味方である統連がどうして我々に攻撃を加えるんだ!?』
戦艦イデアルに機能停止したツルギの《Dアルター豪》を運び、補給を受けてから再発進する《Dアルター・エース》のホムラは困惑した。
『応答しろ、敵はあっちだ! こちらではない!』
通信を送るが統連軍艦からの反応は返ってこない。
それどころか位置を察知されて攻撃はホムラの《Dアルター・エース》と戦艦イデアルに集中してしまう。
さらには月の軍勢や虫型SVも加わって四面楚歌の状態だ。
「私が行く! そっちは落とさせない!」
『頑張れ頑張れ地球ぅ! 頑張れ頑張れ月ぃ!』
三代目ニジウラ・セイルの応援歌が寒空に響き渡り、マコトたちは絶体絶命のピンチに陥ってしまった。
◇◆◇◆◇
戦艦イデアルの外でマコトたちが泥沼の戦いを繰り広げる中、医務室の真道歩駆がようやく目覚めた。
正しくは起こされたと言ってもいい、彼を眠りを妨げたのは戦場で消え行く戦士たちの魂が流れ込んで来たからだ。
炎に焼かれ、慟哭する魂が天に上っていく。
「俺も、彼処へ?」
裸足で廊下をヒタヒタ歩いていく。
艦が大きく揺れて歩駆は宙に転がり、床へと叩き付けられた。
「死ぬ……やっと死ねるのか」
歩駆の顔から薄く笑みが溢れる。
ようやく長きに渡る不死の肉体の苦しみから解放されるのだ。
「…………駄目だ。俺には、やらなきゃいけないことがある。なのになんで」
一瞬、大事なことを忘れそうになり歩駆は唇を噛んだ。
しかし大の字で仰向けになる身体は一ミリも動く気配はない。
死にたい、けど死にたくない、でも死ねば終われる。
「力が欲しい、もう少しだけ……俺に力をくれ!」
──大丈夫。歩駆はボクが守るよ。
その時、何処からか懐かしい声が聞こえた。
記憶の奥で消えかかっていた存在。
──さぁ、手を伸ばして。ボクが歩駆を守るから。
◇◆◇◆◇
「貯蔵庫内より高エネルギー反応、艦長!?」
「わ、私に言われても何が何だか……あれ、総監督は」
当然のことに慌てふためく戦艦イデアルのブリッジ。
船体が激しく震動し、戦艦イデアルは敵から逃げるように緊急着陸した。
◇◆◇◆◇
艦の外へ出たクロス・トウコは目の前に現れた光の巨神に目を奪わた。
かつては自分の機体であったそのSV、マコトの《ゴッドグレイツ》に力を吸収され灰と化したはずの《ゴーイデア》がそこに佇んでいた。
「違う。あれはもうゴーイデアじゃない」
虹色に光を放ちながら《ゴーイデア》はその姿を変化させる。
「あれが、真道歩駆のゴーアルター……?」
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