chapter.10 2100年ロボットアニメが大ヒットしている理由
前回までの【神装合身ゴーアルター!】は……。
恋人リイネが出演するピアノの演奏会へ行く約束を、寝坊で遅刻してしまった主人公アーク。
そんな中、地球を侵略しようとする月帝国の新型模倣獣ウーハードが出現し、リイネのいる演奏会の会場に危機が迫る。
果たしてアークは新型模範獣を倒し、演奏会に間に合うことが出来るのか?
【第472話 響け! 真昼の騒音作戦】
ドクターゼン『やれ、ウーハードよ! お前の超振動波で街を破壊し尽くすのだ』
UFOのような円盤型マシンに乗る白衣の老人は、眼下の街に空の彼方から機械の怪物を投下する。
スピーカーに鳥の羽が生えたようなその怪物は、ボディから放つ音波攻撃でビルを吹き飛ばす。
瓦礫の舞う中で悲鳴を上げながら必死に逃げ惑う人々。
駆けつけた日本連合軍のロボットチームがウーハードを取り囲んで攻撃を開始するが、回転しながら放射する強力な衝撃の波動は連邦軍ロボたちを一蹴する。
ドクターゼン『ぬはははーいいぞぉ! 雑魚どもなど、いくら束になろうが意味ないのだ!』
???『そこまでだ、ドクターゼンッ!!』
一際高いビルの最上、太陽を背に浮かびあがるシルエットは皆を救う正義のヒーローだった。
ドクターゼン『その声……貴様は?!』
アーク『レェーッツ! GOALTER!!!』
その者、ヒーローの叫びと共にビルから跳び降りると、太陽光の中から巨大な白きロボットが出現して宙を滑空するヒーローを吸収する。
人機一体。
ヒトとマシンが一つになるとき、それは人々を嘆きから救うため召喚される。
その名は……。
アーク『白い光は正義のために! 巨悪を倒せと拳が唸る!! 神装合身ゴーアルター、ご期待に添えて即見参ッ!』
天空より舞い降りた白き閃光の機械巨神ゴーアルターは大地に雄々しく立った。
ドクターゼン『ふん、今日こそ貴様の墓場を作ってやるのだ。ウーハードよ! 憎きゴーアルターを完全に破壊し尽くせ!』
老人ゼンの命令でウーハードは一直線に突撃すると至近距離で音波攻撃を放った。
ゴーアルターは何故か避けることをせず正面から向かいあってウーハードをガッチリ掴んで衝撃を受け止める。
ドクターゼン『バカめが!? 自ら死ぬ気か』貴様は
アーク『へへっ……俺が避けたら後ろで逃げる人たちに当たっちまうだろが……』
ゴーアルターの装甲がギシギシと音を鳴らしてヒビが入る。鼓膜が破れそうになるぐらい頭に轟音が響いているが、アークは苦しい表情ひとつ浮かべずニヤリと笑った。
アーク『俺の狙いは別にあるんだよ……今だッ!!』
アークの掛け声で隠れていた連邦軍ロボットチームが姿を現し、ウーハードの背中を一斉に射撃する。
ドクターゼン『な、ナニィ!?』
弾丸の雨はウーハードの全弾命中。大きなダメージにより超音波を出すスピーカーボディは停止する
アーク『やはり背後からの攻撃は弱点だったようだなぁ!?』
攻撃手段を失ったウーハードをゴーアルターは思いきり振り回して高く投げ飛ばす。
アーク『イレイザァァァーノヴァッ!!!』
ゴーアルターが作り出す輝く巨大エネルギー球・イレイザーノヴァが空中のウーハードを目掛けて飛んでいき、爆発四散する。
ドクターゼン『ぐぐぐ、おのれまたしても……覚えておれ!!』
悪役お決まり捨て台詞を吐いて、ゼンのUFOは空間に出来た切れ目に入り込み姿を消した。
パイロットリーダー『感謝するヒーロー。貴方のおかげで街の平和が守られた』
アーク『いやいや、君たち連邦軍の協力が無ければ倒せなかった相手だ。感謝するのはこっちの方さ。それじゃあな!』
握手を交わしたアークはゴーアルターにのりこ愛する恋人リイネの待つ会場に向かっては飛び去る。
アーク『待ってろよ、リイネ! 最大全速でかっ飛ばぜ、ゴーアルター!』
こうしてヒーローと軍の活躍によって街の平和は守られた。
ありがとうゴーアルター。ありがとう日本連合軍。
戦いは続く。
◆◇◆◇◆
「…………」
部屋の照明に明かりが点る。
数時間に渡る長い視聴を終えて歩駆は呆然としながら壁の時計を見た。
十話ぐらい連続で見続けて、時刻はもう日付が変わった十二時過ぎ、となっていた。
「………………なんだこれ?」
はっきり感想を言うなら、よくあるヒーローロボット作品のテンプレをなぞっているだけの無味無臭なパロディ作品でしかない、つまらないアニメだ。
そう歩駆は思ったが、周りは興奮冷めやらぬ雰囲気で和気あいあいと感想を言い合っている。
「やっぱ主人公のアーク・ストレイロードは最高ですよ!」
「2079年に放送がスタートして瞬く間に大ヒット作品」
「やっぱ二十周年を向かえた国民的スーパーロボットアニメは面白さが違うんだなぁ」
「テレビシリーズや劇場版を含めたら何作品だっけ?」
「漫画とかは? 映像作品じゃないのを合わせたらキリないぞ」
「そういえば最近、舞台化だったか実写にもなったよな」
「それは黒歴史だろうっ!?」
彼等が何を言っているのか歩駆はついていけない。
かつての自分なら嬉々として輪の中に入っていくだろう。彼等がアニメのことに熱くなればなるほど、歩駆の心は覚めていき疎外感を感じた。早くこの場から出ていきたかった。
「どうですか?!」
「いや……どうって、聞かれても…………」
凡作、などとは口が裂けても言えない雰囲気があった。
単純に好みの違いなんだろうと思うが、何とも知れない嫌悪感が作品から感じてしまう。
「ゴーアルターのアニメを見て軍に入ったんだ。まさかアニメの元になった本人に会えるなんて」
「俺も俺も! ここのSVパイロットは大体アニメのアーク、歩駆さんを真似してって感じだよな?」
「まあ子供の頃から見てれば憧れますよぉ。SVに乗りたくて乗りたくて、それで軍に入りましたからね」
「統連軍のアニメCMも見てたな。今もだけど……実は去年のCM俺が声で出てた。軍人B役だけども」
どうやら歩駆が当時見ていたアニメより軍のプロパガンダ臭は露骨のようだ。
それが当たり前のことのように笑っているパイロットたちを歩駆は理解できなかった。
まるで自分の知らない自分が、自分の代わりに活躍しているみたいである。
それもデジャブ感があったが少し違うらしい。戦いの記録が歪められて伝えられているようだった。
昔、歩駆自身が言った言葉を思い出す。
──俺が言いたいのはだな……ロボットには乗りたい、だが軍隊に入って戦争をしたいわけじゃあないんだ。
その考えは今も変わっていない。ここにいる人間は歩駆とは全く逆の考えのようだ。そう教えられてきたのだろう。
「ごめん、ちょっと疲れた。部屋で休ませてくれ」
「では部屋まで……」
「道は覚えた、自分一人で行けるよ」
少し目眩を感じてフラフラする歩駆は食堂を後にする。歩駆が出ていった後も食堂の盛り上がりは冷めず、アニメ観賞会の続きが行われた。
部屋に行くと言った歩駆だったが、向かったのは建物の外である。誰にも見付からないように物陰に隠れながら進む。
(……いるな……)
背中から感じる気配は歩駆をしっかりマークしている。こちらが動くのに合わせて絶妙な距離感でついてきている。
数は一人、その正体はホムラだ。今のところ彼女から敵意は感じず、様子を伺ってあるだけのようだ。
「はぁ……いるんだろ? そこに居るのはわかってるんだ」
歩駆の声に看破されたとわかって一瞬、迷ったがホムラは柱の陰から姿を現した。
「やぁ、よく気づいたな。師範仕込みのステルス歩行が見破られるとは。実はな、祖母の親友が忍者なんだ」
「…………勘弁してくれよ。アニメじゃないんだぞ」
聞かれてもないことを自慢気に喋るホムラに歩駆は少し苛立つ。
「色々と前後してしまったが改めて自己紹介をする。ホムラ・ミナミノ大尉だ。SVパイロットをやっている」
「そうっすか、じゃ……」
「まぁまぁ待って。ちょっとそこで話でもしよう」
ホムラに背を押されて近くの階段に二人で座った。
「配属は宇宙軍なんだ。朝になれば戻らなければならない。だから、話してみたいんだ伝説のパイロットと」
ぼんやり夜空の星を眺める歩駆の顔をまじまじと見詰めるホムラ。
「……アニメのアークは、もっとこうキリッとしていてザ・ヒーローと言う感じだった。だが君は……普通だな」
「当たり前ですよ。俺はただの……真道歩駆ですし」
今度は顔や腕、胸の辺りをペタペタと触りだす。
「あの時、瓦礫に潰されたのに生きてるってのはどんなトリックだ? 脈もある、心臓も動いているのに、血も出ていた」
「ただ死なない老けないってだけ。けど不老不死だってお腹も空くし、眠いときは眠い。人間ですからね」
そう言う歩駆だったが自分でも矛盾している台詞だと思っていた。こんな人間離れした体を持つ人間が本当に人であるなどと自信はなかった。
「鑑賞会の間ずっと楽しそうではなかったが、君はゴーアルターが嫌いか……?」
「あのロボットアニメですか? それとも本当のゴーアルターを?」
「質問を質問で返さないでくれ……そうだな」
ホムラは少し考える。
「私が宇宙であの、本物のゴーアルターを見たとき思ったのは、恐怖だったな。物理的にも精神的にも存在が大きすぎて、死を感じたよ」
戦いを思い出すだけでホムラの体は震える。それと同時にイザに撮られた自分の怯えた姿の映像がフラッシュバックして顔が赤くなった。
イザの所持していた記録端末類は没収し自ら破壊したので一安心である。
「Dアルターは伝説のexSVゴーアルターを元にして作られたんだ。やはり本物には勝てない。それに君が乗っていたのだろう?」
「……俺は地球に帰ることで精一杯だった。地上に降りてくるまですっぽり抜けてる、よくは覚えてない」
歩駆は立ち上がる。
「トヨトミインダストリーってSVを製造してる会社を知ってるか? 俺はそこに行く。俺の大事な人の手懸かりを探したい。そこに行けば礼奈の場所がわかるはずなんだ」
「トヨ……トミ? どこかで聞いたことあるような気もするが、今の日本にそんな会社はないはずだが」
「どう言うこと?」
ホムラが説明する。
それは三十年ほど前。SV発祥の国である日本で多発するテロや紛争をかけるため、国際SV法を制定し国内の使用や製造の一切を禁止した。
それからしばらくして、月が地球からの独立を宣言したことを発端にSVの規制が緩和され統合連合軍が一括管理することにより再び日本がまたSVを所持するに至った。
「だから民間の企業がSVを製造するなんてことはない」
「関係者ぐらい生き残ってるだろ。それでも俺は行く」
その時、ホムラの付けている腕時計型通信機からアラームが鳴いた。
「どうした」
『小型の未確認物体が上空から真っ直ぐ基地へと接近中。一機ですが気を付けてください』
「月の偵察機か?」
『それがSVにしては小さすぎて……一応、用心しておいてください』
歩駆とホムラは空を見上げる。
一際、明るい光を放つ物体は基地の対空砲を軽々と避けながら落ちてくる。
「何だか向かってきてないか?」
ホムラは制服の内側から自動拳銃を取り出して構える。
超高速の物体は確実にこちら側を狙っているように見えた。
「ホムラさん無茶だ。アンタの体がバラバラになるぞ?!」
「要人を守るのは軍人の勤め。やってやるさ」
しっかりグリップを握り照準を合わせ引き金を引いた。
一瞬。
ホムラは物体が巻き起こす衝撃波に吹き飛ばされ建物の壁に叩きつけられた。
数秒、気を失うぐらいでホムラの体は少しの打撲だけで軽傷である。
「真正面に当てたはず……歩駆さ」
ホムラが振り向くと、抉れた地面だけを残して歩駆の姿はそこに無かった。
◇◆◇◆◇
物体に抱き抱えられ歩駆は森の中を低空で飛行してた。
ここで暴れてやろうと物体もろとも墜落しようと腕を振り上げようとするが、自分を掴んでいる物体を見て驚いた。
「女……の子?」
「そう、女の子! ウサミ・ココロ、十六歳!」
機械の翼を背中に生やした自称、少女はとびきりの笑顔とウインクを見せた。
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