第18話「旅団狩」

 北方でのギスギスした対人戦と違い、南方でのひと時は、何と言うかゆったりと時間が流れていく気がする。それが気の合う仲間と一緒なら尚更。開催されるイベントも楽しみだったし、ウキウキ気分だった。この時までは。


 メギドの村から野を越え山を越え、西部地域のエリコの村とゲネブ沙漠の間にあるここ硫海ダンジョンにようやく辿り着いた。

「お祝いをするには随分と暗い感じの場所じゃない?」

設定にやたら詳しい彼に聞いたところ、ここは大昔に神の怒りによって、天からの火と硫黄により滅ぼされた都市の跡地。そのせいか、見渡す限り毒の沼地、廃墟、そしてアンデッドばかりだ。

「ここは人気が無いから、大人数で繰り出すには丁度良い場所なんよ」

まぁお祝いと言っても、旅団狩だからみんなで戦えれば場所は関係無いか。


 そう、今日私達が遥々北方からここまで来たのは、旅団<聖霊騎士団>にとって祝うべき事が立て続けに起こったため、その記念にとメンバー全員での旅団狩をするためだ。


 お祝いすべき事まず1つ目が、新メンバーの加入だ。以前、酔った彼が暴走し、赤の国の砦を占領した時に同じPTだった、「めじろ」さん、「ノワール」さん、そして「Fety」さんが新たに加入してくれることになったのだ。これでメンバーは全員で10人、戦力バランスが良くなるし、何よりもメンバーが増えると言うのは旅団も賑やかになり、良い事ばかりだ。


 2つ目は、何と私達駆け出しの旅団としては信じられない事に、北方で砦を1つ所有する事が決まったのだ。以前彼が暴走した時に、砦の赤C4F2を旅団無所属のFetyさんが占領したため、砦は軍団長Staleさん預かりになっていた。それが今回、占領者の意思に委ねるという事になったのだが、Fetyさんは多くの旅団からの勧誘を断り、<聖霊騎士団>に加入したため、晴れて私達は砦所有旅団となれたのだ。


 3つ目は……これは本当に祝える事なのかどうかは正直分からない、と言うか今でも信じられない。

「ゴッティが師団長に任命されるなんて……黒の国終わりの始まりかな」

あのお気楽な彼が、まさか指揮官モードを使える師団長になるなんて。

「何おう。まぁ正直言って、おいもなんで任命されたのか分かんないけど!」

分かんないのかよ。

「赤C4F2を占領できたのもゴッドフリーさんの指揮のお陰ですから、師団長任命も当然だと思います」

あーダメダメFetyさん。安易に彼を褒めちゃ。

「ぶひひ!では師団長指示として、マグりんにはこのスイムスーツを着て貰おうかな!」

ほら調子に乗った。てかなんで女性キャラ専用装備を持ち歩いてるんだ。この変態。


 そんな事を話していると、みずぽんさんから始まりのお言葉が。

「みんないいかな。それでは、新メンバーの加入、砦所有、そしてゴッドフリーの師団長任命を記念して旅団狩を始めるんよ。目標は、このダンジョン最深部にいるボスの討伐。それじゃあみんな張り切って行くんよ」

「「「おー!!」」」

旅団長の号令の下、私達は前進を開始した。パーティーの始まりだ。


 ここ硫海ダンジョンが人気の無い理由の1つが、毒の沼地だ。この都市を滅ぼした硫黄が未だに残っているという設定なのか、一歩でも入ると、状態異常・毒となってしまう面倒臭い沼地があちこちにあるため、注意して歩かないといけない。腐った卵の臭いが画面越しにもしてきそうだ。


 毒の沼地に注意しつつ、かつての住民の成れの果てだと言うカースドナイトなどのカースド系やヘルハウンドを倒していると、彼の情け無い発言が流れてきた。

「ひ〜MPがすぐ無くなるよん」

あの本体戦の後、彼はスキル構成を大幅に変更中のため、今は各スキルがどれも中途半端な状態。なのでいつもの半分も力が出せないようだ。大丈夫か師団長。

「マインドアジェスターを掛けるから、こっちに来るんよ」

その後も、みずぽんさんに付きっ切りでMP回復効率を上げる術を掛けてもらった彼は、感謝しっぱなしだった。私も魔法職なら、彼に借りが作れたのに。

「スキル構成変えるの面倒臭そうだな。もっと楽な方法無いのかよ」

スキル上げにヒィヒィ言う彼を見て、ファリスさんがそんな事を言っていた。


 硫海ダンジョンも最深部手前まで来たため、私達はたき火を囲んで一時休憩することにした。そこで、気になってた事をFetyさんに聞いてみることにした。

「あちこちの旅団から勧誘があったのに、Fetyさんはなんでウチみたいな、駆け出しの小規模旅団にしたの?特に<1stSSF>からは、熱心に勧誘されてたようだけど」

メンバーが多い旅団の方が、砦の防衛も安定しそうなのに。

「他の旅団はみんな、砦の所有権を持ってからの勧誘だったけど、マグさんはその前から勧誘してくれたからですね。一緒にPTを組んだ時もとっても楽しそうでしたし。それに<1stSSF>は以前所属してたんですけど、ちょっとね……」

一緒にPT組んだ時と言えば、彼が酔っ払って暴走した時か。まぁ賑やかと言えなくも無かったか……

「前所属してたの?それで熱烈勧誘してたのかな」

ただどっかで聞いたんだよなこの旅団名。どこだっけなぁ。

「でもあそこに戻る気はしないです。<1stSSF>は、正式名称に因んで悪魔の旅団とか言われてオジンは喜んでるけど、内部はイン率と対人戦の強さ、それに旅団への貢献度で決まる完全階級制で、オジンと上級幹部達が好き放題してるカオスなのが実情だし」

完全階級制なんて旅団があるのか。なんだか恐ろしいな。

「なんか、聞くからにギスギスしてる旅団だね。私だったらちょっと耐えられ無いかも」

北方でも思い付きでPT組んだりと、好き勝手やってるウチとは大違いだ。

「一番耐えられなかったのは、上級幹部のフォーミダブルだったんだけどね……」

うう……頭がっ。ようやくどこでこの旅団名を聞いたのか思い出した。思い出すんじゃなかった。

「Fetyさん!」

「はい?」

「ここは安心だから!お互い頑張りましょう」

「えっ、はい……」

Fetyさんもきっと、さぞかし辛い思いをしてきたんだな。

「そういえばフェチさんって、どんなスキル構成なの?」

なんだその渾名は。やはりまずはこの豚を始末しなくてはいけないか。

「フェチじゃないです!斧盾資材加工伐採包帯ですよ」

と思ったら、Fetyさんもノリノリなのは気のせいだろうか。


 休憩も終わり、私達はいよいよ最深部へと足を進めた。ここからはカースドロードなどの強敵が湧くので油断出来ない。慎重に距離を取って……

「うげっ毒の沼地だ」

前ばかり見てたせいで、つい沼地に突っ込んでしまった。容赦なくHPを減らしていく毒。

「誰か水魔法持ってる人、アンチドートお願い!」

早めに治さないと、これは不味いぞ。

「はーい^ ^」

おぉめじろさん。やっぱり魔法職は生命線ね。

「ちょいと待った。折角おいも水魔法を取ったんだ、おいに治させてよん」

ゴッティの水魔法か。スキル上げ始めたばかりだけど大丈夫だろうか。

「早めにお願いね」

「任せといてん!」

と自信満々に言った彼だが、術は失敗続き。

「おかしいなぁ10回に1回は成功するはずなのにん」

スキル値足りてないのかよ!

「早くしないと死んじゃうでしょ!」

これじゃ助けられる方も大変だ。


 そしてついに、この硫海ダンジョンのボス、カースドドラゴンを発見した。都市の守護竜として崇められていた偽りの神は、天からの火と硫黄で焼かれて呪われ、かつての面影も無いという。見た目は赤々と燃えるドラゴンゾンビだ。このダンジョンが人気が無いもう1つの理由が、この状態異常を撒き散らす厄介極まりないボスにある。

「ブレスに気をつけて。当たると複数の状態異常だよ」

マキシが言うブレスの効果は、火傷、盲目、毒……状態異常のオンパレードね。

「目がぁ目がぁぁぁあ」


 早速ブレスを食らう彼。火傷と盲目は専用の包帯で治せるから、いっちょ巻いてあげますか。

「私がいないと本当にダメね」

北方では助けてもらってばかりだけど、たまには私だってね。

「盾切ったの忘れててミスったわ。マグりんありがとん。お礼に後でスイムスーツを……」

「それは絶対にいらない」


 その後も状態異常攻撃を食らう、それを治すの繰り返しで休む暇もなかったが、こちらは2PTいる事もあって、無事討伐完了した。

「お疲れ様ー。みんな無事で何よりなんよ」

その後、エリコの村まで移動しみんなで精算をしたが、ボスも倒したので中々の稼ぎになったし、何よりもみんなでSSを撮ったりしてとても楽しい一日となった。

「そうそう、今度バランタインデーに合わせてゲーム内でもイベントをするらしいよ。なんでも北方と南方両方のプレイヤーが参加できるイベントなんだって」

まるの言う、北方と南方両方のプレイヤーが参加できるってのは少し気になるけど、バレンタインデーイベントか。今から楽しみだ。

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