とある公爵令嬢の婚約の行方

流花@ルカ

第1話

公爵令嬢であるケニーエは、生まれた頃よりこの国の王太子であるニヴァル王子の婚約者である。


 王国では王妃は公務や外交に一切携わることはなく、それほど高い教養を求められる事はないのだが、基本的な王妃としての心構えや、成人とともに行われる結婚式の前準備として幼少の頃より様々な『王妃を心身ともに健康に保つための儀式』を受けるため毎月何度か登城していた。

その為、ケニーエは王城へと馬車を走らせていると王城の中にある一際高い塔が見えてきた。


 この王国の民は、魔力といわれる力を持つものが多く、その魔力を用いて行使される魔法と呼ばれる力の研究が盛んに行われており、近隣に敵対国家がない現在では主に、身を守るための結界や病やケガを治す治癒等の研究が盛んであった。

 それを国で推奨し、王城の中に専門の研究機関を設けたのが、今ケニーエの目の前に見えてる通称『研究塔』である。


「ふふ……今日もニヴァル様は実験をがんばっていらっしゃるのかしら…」

ついケニーエは声を漏らしてしまう。

この国の王太子であるニヴァルは、国民が持つものとは異質の代々王族だけが持っている特殊な魔力を活用し、研究塔で新しい魔法開発の責任者として研究に明け暮れていた。


 その為頻繁に王城へ足を運んでいるケニーエではあったが、ニヴァルに会う回数はここ数年でめっきり減ってしまった。

幼いころから頻繁に王城へ通い、国王夫妻やニヴァル王子と交流を重ねてきたケニーエはニヴァル王子に対して、恋愛感情を抱くことはできてはいなかったがそれを補って余りあるほどの家族愛のようなものは持っている。

恐らくニヴァル王子も、自分に対して同じような気持ちを少しくらいは持っていてくれるのではないかと思っていた。


 だが最近、ニヴァル王子は同じ研究塔で働くある女性と随分親しくしているという噂が流れ始めていた、その女性と塔で働いている職員として以上に距離が近いのだと、現に塔で働いている職員が何人も、人目をはばかることなく二人だけで楽しそうに塔の近くの中庭で二人並んでベンチに腰かけていたり、抱き合っていたのを目撃している。

その話を思い出し、ケニーエは悲しそうにうなだれる。

「ニヴァル様はどうなさるおつもりなのかしら……」

ケニーエ本人としては、ニヴァルが望むなら婚約を白紙に戻すことは構わないと思っている、だがニヴァル本人が何も言ってこない現状ではただ待つことしか出来ることはなかった。

「王妃様にご相談してみようかしら……」

そう考えたケニーエはどう話を切り出したらよいものか城に到着するまで頭を悩ませるのだった。


 ……城についたケニーエは早速王妃様にお会いするために部屋へと案内してもらう。

いつもの王妃専用のプライベートルームへ案内され1人部屋へ通されたが、まだ王妃様は来ていないようだ。

勝手知ったる部屋なので、いつものようにソファに座り待っているとノックもなしに突然部屋のドアが開く。

部屋へ入ってきた人物を見てすぐに

「これは陛下、ご機嫌うるわしゅう…」

と立ち上がり王に対し深々と礼をとる。


「よい。私と其方は家族ではないか、誰もいないときにかしこまる必要はない」

と手を振って向いのソファにドッカリと腰を据える。

その言葉を聞き、遠慮なくソファに座りなおしたケニーエは苦笑する

「陛下、まだ家族ではございませんわ」


ニコニコとケニーエに笑みを向けながら

「何を言っておるのやら、其方を赤子のころから見ておるのだぞ? 例えニヴァルと結婚しなかったとしても其方は私の娘と同じだ」

と断言した。

「陛下……」

ずっと、一人思い悩んでいたケニーエは、温かな気持ちに胸が一杯になり自然と涙がこぼれてくる。

「も、申し訳ありません涙を見せるなど…」

と、精一杯隠そうとしながら謝罪する。

「よいのだ…すまないな、本来なら今日私が話をして王妃にそなたをなぐさめる役をまかせたかったのだが今朝、ちょっと王妃のしまってな」

と、ちょっとばつが悪そうに肩をすくめる。


「あら! あ、朝からですの…?」

と顔を赤らめる。

「ああ…今朝ベッドから降りようとした王妃のあの美しい脚の曲線にガマンできなくなってつい…な」

恍惚とした顔で惚気のろけ始めるではないか。

「さ、左様でございますか…相変わらず夫婦仲が宜しくてなによりで御座います」

とますます真っ赤になった顔でうつむく…。 何とも言えない部屋の空気を払うように王は話だす。

「だから王妃は今部屋で休んでおるゆえ、今日は其方に面会できん。悪いのは私だから責めないでやってくれ」

王は頭をさげる。

「と、とんでもございません! どうぞお体を大事にされてくださいませ」

とケニーエは首を振る。


「それでな、今日は其方に大事な話があるのだ」

はっ、と真顔でケニーエは王の顔を見つめる

「ニヴァル様のことでしょうか…?」

「ああ。 あれのことで其方ときちんと話をしなくてはいかんと思ってな」

重々しく頷いた王は続ける


「其方も聞いたようだがどうやらあれに好いた相手ができたようなのだ」

「はい…噂は存じております。 婚約者という立場にありながらニヴァル様の御心を繋ぎとめておくこともできず申し訳ございません」

とケニーエはソファから降り床に膝をついて王に許しを請う

「何を言うのだ! 其方に落ち度などあるわけがないではないか…謝罪するべきなのは其方ではない!いいから頭を上げなさい」

王はケニーエの腕をとりソファへと座らせる


「よいか? 謝罪すべきなのは其方ではない、ニヴァルだ。婚約者のいる身でありながら不誠実な真似をしている愚かな息子にすべての責任がある。これはゆるぎない事実だ」

「陛下…」

俯きながらケニーエはこらえきれずにボロボロと泣き出した。

「ケニーエ、そなたには幼少より婚約者としてつらい思いばかりさせてきたが、この先どうなろうとこの国の王、ハーンの名に懸けて決して悪いようにはせぬ。 息子一人まともに育てられなかった私たちをどうかゆるしておくれ…」

国王は申し訳なさに唇をかみしめる。

「ともかく、このような事態を静観しておるわけにはいかん。醜聞が広まる前に決着をつけるぞ」

と、立ち上がり

「別の部屋にニヴァルとくだんの女性を待たせてある。 このようなおじさんで申し訳ありませんが、部屋までエスコートさせていただけますかなレディ?」

と、茶化すようにニヤリと笑いながら手を差し伸べる。

「光栄ですわ」

と泣き笑いを見せながらケニーエは王の手を取った

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