She is mine
She is mine - 01
「まったく、お前はだらしないな。いくら物臭を自称するとは言え、草摩の人間がこの様な体たらく認められると思うなよ。今すぐ掃除の支度をしろ。さもなくば私に燃やされるか、選べ」
姉さん――草摩
僕は姉さんと離れて暮らしているから。
顔を合わせるのはせいぜい行事がある日ぐらいなものだった。
夫とのお見合いや結婚式はもちろんのこと。
株主総会といった会社行事でも姉さんは大活躍する。
「見ろ、お前が掃除したと言った箇所から埃がすくいとれる。やはり燃やそう」
凛然と火炎放射器を構える姉さんを僕は無視した。
ヒステリーにはおいそれと関わらない方がいい、これは僕の師匠の言葉だ。
「聞いてるのか……私を無視しようものならこの家から放り出すぞ」
聞いてると思うよ。
「思うよって何だよ、お前あいつに似てきたな」
あいつ?
姉さんの思わせぶりな発言に僕はまんまと釣られてしまった。
「お前の妹の四季にだよ、姉妹そろって長女の私をぞんざいに扱うとはいい度胸だ」
うん、そうだね。
でも待って、僕には姉さんの他にも姉妹がいるの?
「ああ、初耳だったか?」
僕は生まれてこの方家族の存在を知らずに生きて来たんだ。
それは二十年間続き、僕はすっかり世間離れになった。
「責任転嫁も甚だしいな、お前が世間離れなのは自業自得だ」
どうでもいいことだね。
姉さんのヒステリーに対し、僕は反抗するよう話題を逸らすのに努めた。
どうやら今回はそれが裏目に出てしまったらしく。
「いー度胸だな春秋、慣れたからとは言え、ずいぶんと舐めてくれるじゃないかー」
姉さんは僕の悪態におかんむりになり。
――ボゥ。
火炎放射器を振り回し、僕を苛めた。
あの時は酷い目に遭った。という印象しか今はなくて。
人間の脳はよほど災難な目に遭うと思い出を湾曲するよう出来てるみたいだ。
僕と妹の出逢いは、姉さんが引き起こした騒動が発端だった。
あれは、姉さんがヒステリーを起こした翌週のことだったと思う。
物臭な僕は昼過ぎに起きて、録画していた今朝のニュース番組を観賞していると。
『春秋様、入り口の受付に妹様がいらっしゃってます』
受付嬢さんから以上のような内線が入った。
僕は端的に帰って貰って、って伝える。
けど受付嬢さんは『しかし』と返答し、僕の言うことを素直に諾しなかった。
『妹様は酷く震えていらっしゃいます、生まれたての小鹿のようで、どうにかなりませんか春秋様』
僕と妹の縁を繋いだのは当時の受付嬢であり、彼女の同情から来る進言であった。
誰かと口論するのは物臭な僕にとっては考えられない。
仕方ないから僕は受付まで赴き、噂の妹と初めて対面する。
受付嬢の言う通り、彼女は酷く震えながら身を縮こまらせていた。
単刀直入にどうして震えてるのか訊いてみたんだ。
「は、ははじめ、まして、わ、私の名前は草摩四季」
知ってる。
「じ、じ、じ、じ、実は――」
妹は唇を震わせて、必死に事の成り行きを伝えようとしている。
要約すると、彼女と姉さんの住む家が全焼してしまったらしく。
警察は出火原因を姉さんだと特定し、姉さんは事情聴取されている。
独り残された妹は姉さんから渡されたメモを頼りにここまでやって来た。
しょうがないから、僕は妹を引き取ることにしたんだけど。
なんて言ったらいいのかな、妹は僕以上の難物で。
妹は病的なまでに外出を拒む、世間で言う所のヒキニートだった。
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