第20話 未来を照らす明かり

 スーラ王国のゼリア王女に婿入りしたショウだが、そうそうレイテを留守にはできない。カザリア王国への新婚旅行を済ませると、白花を連れて帰国した。




「白花! 私を覚えているかい? 雛の時に世話をしていたんだよ」




 鷹匠は、白花を熱烈に歓迎したが、アスランはまたエドアルドが煩いぞと肩を竦める。




「ターシュが去ったのか……クレセントは残っているのだな。白花の代わりに、良い雌鷹を贈ってやろう」




 鷹匠は「あんな寒い国に雌鷹を贈るのですか!」とアスラン王に言い返したが、白花を貰っただろうと叱られて、口をつぐむ。




「まぁ、クレセントに相応しい雌鷹なんて、カザリア王国ではそうそう見つからないでしょう。寒さにも強い雌鷹を探しておきます」




 クレセントがつがいになって、卵が産まれたら、少しはエドアルド国王の悲しみも和らぐだろうとショウもホッとする。




「さて、お前が帰ったなら、出かけても良いな」




 スーラ王国の婿入りしている間、留守番で大変だったと父上がメリルと飛び立つのを、ショウは呆れて止める気にもならなかった。




「ショウ王太子! アスラン王は何処ですか?」




 愛しいアスラン王が飛び立ったのを察知したバッカス外務大臣に掴まってしまう。




「何故、止めなかったのか?」と怒り心頭のバッカス外務大臣に、スーラ王国の状況や、カザリア王国への訪問の報告をみっちりさせられた。




「ショウ王太子、スチューワート皇太子がヘンリー王子との縁談を持ち出されないわけがないでしょう? 私を誤魔化そうだなんて、百年早いですわよ」




 きゅうきゅう締め上げられたショウは、サバナ王国の情勢を逆に質問する。




「サバナ王国? まさかスーラ王国は侵攻でも考えているのですか? 今なら、スーラ王国との国境付近の農耕民族はユング王子に反発を感じていますから、好機ではありますが……もしかして、ヘビ神様が何か言われたのですか?」




 レーベン大使には誤魔化したのだが、レイテには何か変だと報告をあげていたのだ。バッカス外務大臣は、ショウ王太子の顔を読むのに長けている。




「ヘビ神様は、夢の中にルードが現れたと気にされていたんだ。まぁ、ルードの子豹に子ヘビを殺されたから、すぐに追い出したとは言っていたけどね。何かサバナ王国では良くないことが起こりそうだ」




 ヘビが苦手なショウ王太子が、ヘビ神様とそんなに親密な話をするだなんて怪しいとバッカス外務大臣は首を捻る。




「サバナ王国の情勢については、メルビィル大使に詳しく報告させます。スーラ王国を脅かすほど勢力を拡大するのも困りますが、貿易相手国として政治が安定している方が望ましいですからね」




 メルビィル大使にも詳しく様子を報告させますと言いながら、ヘビ神様についても調査させなくてはと、バッカス外務大臣は忙しく頭の中で考える。




「ショウ王太子!」アスラン王が逃げ出したのを察知した大臣達が、側近のバルディシュとピップスの制止を突破して雪崩れ込む。




「やれやれ、レイテに帰って来たのを実感するよ」




「申し訳ありません」と謝る側近二人を制して、緊急性の高いのはどちらだ? とバッカス外務大臣に目で尋ねる。




「そう言えば、サリーム王子からレイテ大学で何か新発明があったと報告がありましたよ」




 二人の大臣は「そんなことより此方が緊急です!」と怒ったが、ショウはサンズを呼び出すとレイテ大学に向かった。




「空を飛ぶ王や王太子はタチが悪い!」




 二人の大臣は、ぷんぷん空を見上げて悪態をつくと、自分の用件だけ済ませたバッカス外務大臣に盛大に文句をつけたが、しらっとした態度に余計腹が立っただけだった。








「おお~い! ショウ王太子、こっちだぞ~」




 サンズが大学校内に下りたのを目敏く見つけて、ヒゲ面の熊が吼える。レイテ大学のサリーム学長は、王太子に対して無礼だろうと、自分の教授達の監督不行き届きを恥ずかしく思う。




「リヒテンシュタイン教授、その服装はどうにかなりませんか?」




 研究所に泊まり込んでいたらしく、側に行くのを躊躇う程の汚れ具合だ。




「そんな細けい事を言ってると禿げるぞ! それより、早く見てくれよ」




 サリームは少し髪の毛が薄くなったのを気にしているので、思わず怒鳴りそうになったが、弟の前だと自重する。




……父上はあのお年でもフサフサなのに、何故なのだろう?……




 研究室の机の上の小さな明かりを見つめているショウの頭もフサフサだと、サリームは溜め息をつく。




「わぁ、電球と電池ですね! 凄いなぁ! でも、これでは小さな明かりしか灯せません。早速で悪いですが、風力発電にとりかかってください」




「お前のいい加減な説明で、どんだけ苦労させられたか! 今度は風力発電だって? どの口で言ってやがる」




 王太子に向かって吼えている教授を見て、コイツらが自分の髪の毛が抜けるストレスの原因だと、サリーム学長は大きな溜め息をついた。




 レイテ大学には、ショウがパロマ大学、ユングフラウ大学、ケイロン大学からスカウトしてきた変人、いや進歩的な教授が豊かな財源で毎日生き生きと研究している。




 医学と呪いの合同研究や、海洋生物の研究、そしてリヒテンシュタイン教授のサリームには理解できない電気の研究など、東南諸島の学生だけでなく、パロマ大学があるカザリア王国などからも学生が集まっている。




「それにしても、ショウは何処からアイデアを捻り出すのだろう?」




 机の上の小さな明かりは、何の役に立つのかわからないほど頼りない。蝋燭やランプの方が明るいぐらいだが、風力発電とやらが完成したら、レイテの夜も昼間のように明るくなると説明を受けた。




 喧々囂々とリヒテンシュタイン教授とやりあっている弟の頭の中を覗いてみたいとサリームは肩を竦めた。








「ショウ王太子、ご機嫌がよろしいですね」




 るんるんと足取りも軽く王宮に帰ったショウは、大学を卒業し、文官試験に見事な成績で合格したマルシュに出迎えられた。側近の先輩であるバルディシュとピップスに鍛えられている最中だ。




「マルシュ、ショウ王太子が帰られたと、ドーソン軍務大臣にお知らせしなさい」




 バルディシュに指示されて、マルシュは早足で立ち去った。




「どう? マルシュは役に立ちそう? できたら、外交関係を鍛えたいんだ」




 弟だからと特別扱いはしたくはないが、やはりマルシュのことは気になる。




「外交をさせたいのなら、バッカス外務大臣に鍛えて貰った方が良いのでは?」




 外国にショウ王太子の書簡を届ける事が多いピップスも同意して頷く。




「ううん、普通の外交官ではなく、私の個人的な書簡を届けて貰ったり……そう、私の娘がいずれ王子に嫁ぐことになったら、叔父のマルシュに見守って欲しいと思ったんだ」




 自分が無意識のうちに娘達を政略結婚の手駒のように考えていると肩を落とすショウだった。バルディシュとピップスは政略結婚については何も自分達にはできないと思ったが、マルシュを鍛えようと顔を見合わせた。

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