第13話 ザイクロフト卿をやっつけるぞ!

 ヌートン大使は、新婚旅行中なのに仕事モードになったショウ王太子と書斎で長時間話し合う。




「サラム王国の大使館はユングフラウにもありますが、大使館とは名ばかりで、領事館ほどの機能もありませんし、ゴードン大使は二流どころだと考えていました」




 サラム王国はイルバニア王国から小麦などを輸入しているので、ユングフラウに大使館を設けていたが、陰謀を巡らす能力があるとは思えないと首を捻る。




「ゴードン大使がこの陰謀に関わっているかどうかは不明だが、ザイクロフト卿は東南諸島の敵として行動している。


 スーラ王国のジェナス王子やマルタ公国のヘルナンデス公子にも影響力を持っているし、要注意人物だ!」




 厳しい顔をしているショウ王太子が、アスラン王にそっくりだとヌートン大使は身震いがする。




「ザイクロフト卿がヘルツ国王の庇護を受けているとはいえ、ラバーン男爵夫人に経済的な援助が易々とできるとは思えない。


 なにか後ろ暗い収入源があるのだろう、突き止めて、その金の流れを切ってしまわないと……」




 ヌートン大使はショウ王太子に、ザイクロフト卿とはバルバロッサの遺児ですか? と尋ねるのを止めて、この件はきちんと調査して手を打ちますと告げる。




「いや、調査はしなくてはいけないが、手を打つのはイルバニア王国に任せておけば良い。


 シュミット国務大臣なら、きっとラバーン男爵家の収入源を調査して、罰するだろう。


 それより、ヌートン大使にはザイクロフト卿の足取りをつかんで欲しい。彼奴をこのまま野放しにはしておけない!」




 やはり、バルバロッサの血筋の者なのだ! と、ヌートン大使はショウ王太子の厳しい言葉で理解した。




「それにしても、父上とバッカス外務大臣! 新婚旅行だとわかっているんだろうか!」




 王族として立派になられたと感慨に耽っていたヌートン大使は、ぷんぷん怒り出したショウ王太子に、やれやれと溜め息をつく。




「これから、ルカが卵を産むまではエスメラルダと一緒にイルバニア王国との外交や社交で手一杯です。


 しかし、ルカが卵を産んだら、エスメラルダは竜舎に籠ってしまいますね……」




 ヌートン大使は何を言いたいのか不審な顔をする。




「これ以上、ザイクロフト卿の暗躍を許す気はありません。


 さっさと、やっつけてやります!」




 ヌートン大使は、ショウ王太子に手を汚さなくても、こちらで手を打ちますと言いかけたが、厳しい目に射すくめられて黙る。




「ヌートン大使、これは父上からの、王太子としてへの通過儀礼なのでしょうか?


 父上やバッカス外務大臣が、ザイクロフト卿の存在に気づいてないだなんて、あり得ません!


 今回の航海に出る前、私はサラム王国とマルタ公国の海賊が活発化したのは、ジェナス王子が何か関わっているのではと思ってました」




 ヌートン大使は、ジェナス王子にはそんな能力があるとは思えないと首を横に振る。




「ええ、ジェナス王子には無理です。


 次に、野心家のアンガス王がジェナス王子を操っているのかと、疑ったのですが、これは全く水と油であり得ません。


 父上やバッカス外務大臣は、アンガス王やジェナス王子に会ってこいと言われましたが、初めからザイクロフト卿の存在を知っていて……」




 ショウは父上の手のひらで転がされているような気持ちになったが、グッと拳を握りしめて話を続ける。




「ジェナス王子にはサラム王国とマルタ公国の海賊を操るのは無理ですが、彼の側近のヘリオス神官ならザイクロフト卿と手を繋いで陰謀を巡らせるでしょう」




 ヌートン大使は、スーラ王国のヘリオス神官から資金を得て、ザイクロフト卿があれこれ各国で暗躍しているのだと推察する。




「マルタ公国のジャリース公にはヘルナンデス公子しかいませんでしたか?」




 冷たい視線にゾクッとしたヌートン大使だが、陰謀は大好物だ。




「いえ、ジャリース公には何人もの公子がいたと思います。


 しかし、新任のダイナム大使では……」




 未だ大使として経験の浅いダイナム大使に代わって、ジャリース公、ヘルナンデス公子の暗殺をしたいとヌートン大使は提案する。




 ふうッ~と、ショウは自国の大使達の陰謀好きに溜め息をつく。




「先ずは、ダイナム大使と話し合ってみなければ……ヘルナンデス公子よりまともな公子を味方につけるところから始めます」




 楽しそうな陰謀に関われないのかと、ヌートン大使は地団駄踏みそうになる。




「ヌートン大使、ラバーン男爵家の収入源の調査ですが、スーラ王国のヘリオス神官が絡んでいると明白な証拠があれば、一気に始末できるのですが……」




 ヌートン大使は、スーラ王国のレーベン大使が羨ましくて仕方ない。




「王子の暗殺や、腐敗神官の悪事を暴くだなんて……それも、東南諸島が糸を引いたとわからないようにするのですよねぇ!」




 自分ならどのような策略を巡らすかと、ヌートン大使はうっとりとする。




「ルカが卵を産んだら、私はマルタ公国に行ってきます。


 サラム王国にも行って調査をしたいですが、エスメラルダをメッシーナ村まで送り届けないといけませんし……兎に角、ザイクロフト卿に勝手な真似をこれ以上させないぞ!」




 ヌートン大使は、ショウ王太子が自ら手を下すのを、アスラン王が望んでおられるとは思えなかったので、キャベツ畑の件と共に報告をしようと考える。

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