第22話 久しぶりのパロマ大学

「ショウ様、寝ていらっしゃるのですか?」


 シーガルは夕食の時間なのでショウを誘いに来たが、ベッドの上には手紙が散乱したままの状態で布団も掛けずに眠っているのに驚いた。


「お昼は私達より遅くに食べたとパシャム大使が言っていたが、それから手紙を読んで眠ったのだろう。ずっと風の魔力を使い続けていたから、疲れが溜まっていたんだな」


 シーガルは散らばっている手紙を纏めて、サイドテーブルに置き、布団を掛けようとした。


「う~ん? あれ、シーガル?」


 ショウは冬のカザリア王国の夕暮れの早さに驚き、今が何時なのかわからなかった。


「すみません、起こしてしまいましたね。そろそろ夕食の時間ですよ」


「さっき昼を食べたばかりだよ。手紙を読んで、寝ていたんだな……」


 ショウは夢の中でララとキスをしていたのを思い出して、ポッと頬を染めた。


「もしかして……」


 階下のざわめきに眉を顰めたショウの嫌な予感通り、パシャム大使は無事に大使館へ帰ってきた宴会を用意している。


「パドマ号の艦長や、士官達や、士官候補生達、それに測量師達も招待されています。ほら、そんな嫌な顔しないで下さい」


 長い航海に付き合ってくれた皆を招待しているのなら、宴会も仕方ないとショウは諦める。


「東南諸島の男は宴会好きなのに、嫌いなのはアスラン王に似ておられるのですね」


 シーガルは宴会好きとまではいかないが、別に苦にしていなかったので、ショウが嫌いなのを内心で気の毒に思う。なぜなら、パシャム大使は東南諸島の男らしく、事ある度に宴会を開きたがるからだ。


「そうだ、ワンダーが士官になる試験を受けたのですよ。答案用紙は密封されて、レイテに送られますが、彼なら落ちる事は無いでしょう。私も祖父からゴルチェ大陸の西海岸の測量を正式に命令されました」


 自分が寝ている間に物事が進んでいるのにショウは驚いたが、シーガルにおめでとうと伝える。



 大使館の大広間には、パドマ号の半年間苦労を共にしたメンバーが揃っていて、ワンダーは士官候補生達と並んで座っていたが、ショウを見ると席を立って挨拶に来た。


「この航海のお陰で、士官の試験を受ける事ができました。合否は未だわかりませんが、感謝しています」


 ショウはワンダーなら合格するよとお祝いを言い、自分に感謝する理由は無いと笑った。総て父上の配慮なのだ。


 宴会好きのパシャム大使が満足するほど、パドマ号の全員が飲み食いしたので、ショウはホッとした。


「これでパシャム大使も満足しただろう」

 

 だが、ショウの考えは甘かった。


「ワンダー君の成人のお祝いをしなくてはいけないな。許嫁はレイテだから結婚式は行われないが、綺麗な芸妓でも呼んで……」


 ひぇ~、とショウは驚いたが、レッサ艦長はその通りだ! と、賛成しているのに呆れてしまう。


 ワンダーは王家ならともかく一般の家では十五歳で結婚しませんよと芸妓は断ったが、パシャム大使に成人のお祝いはしなくてはと押し切られる。


 連チャンの宴会にショウは内心ではウンザリしたが、ワンダーの成人のお祝いなので仕方ないなと諦める。


「ねぇ、シーガル? 普通は十五歳で結婚しないの?」


「う~ん、男は十五歳では結婚しませんね。女の子は、十五歳か十六歳で結婚しますけどね。ショウ様は王子だから、十五歳で結婚されますよね」


 ショウはララの事は好きで、今も会いたくてたまらないけど、十五歳で結婚は早いかなと考える。


「シーガルは、何歳で結婚するつもりなの?」


「私は許嫁が幼いので、彼女が十五歳になるのを待って結婚するので十八歳ぐらいになりますね。まぁ、ごく普通の年齢です。ワンダーの許嫁も未だ十五歳になって無いでしょう」


 やはり王家は特別なんだと、ショウは溜め息をついた。でも、カリン兄上のように、五人も許嫁がいなくて良かったと、胸を撫で下ろす。


「シーガルは、許嫁に会いたくない? 僕は半年前にララに会ったけど、一年近く会って無いよね。僕はサンズとレイテまで飛んで帰ろうかと思っているんだ。交代の軍艦が来るまでに、往復できそうだし……」


 シーガルはショウの許嫁のララを見た事があるので、可愛いお姫様に会いたくなったのは理解できたが、竜でレイテに帰るのは反対した。


「アスラン王がそろそろ交代の時期だろうと次の軍艦を派遣されているかもしれませんよ。それとバギンズ教授にレポートを出したままですので、一度会いに行かれた方が良いです。私も土木の教授と話したい事がありますし、レイテに帰っている暇はありません」

 

 シーガルに諭されて、ショウはレイテに竜で帰るのを諦めた。


「遠距離恋愛って、つまんないなぁ。手紙が着くのも遅いし……」


 電話やメールのない世界を恨めしく思ったショウだった。


 ワンダーの成人のお祝いの宴会も無事に済み、パドマ号は東南諸島へと帰って行った。ワンダーは自分の士官任官試験の答案用紙を乗せたパドマ号が早くレイテに着くと良いなと願った。



 ショウはパシャム大使が用意してくれた新しい長衣を着て、久しぶりにパロマ大学に来た。雪に覆われた校庭にブルブルと身震いしたが、校舎の中は薪ストーブがたかれて暖かかった。


 バギンズ教授はショウを見るなりハグして、少しだけ片付けてストーブを置いた前の椅子に座りなさいと笑った。


「レポートを出したまま、ゴルチェ大陸の西海岸に測量に出かけてしまうんですもの、心配したわ」


 ショウは夏至の日に北回帰線で太陽光が地面に対して直角にさしたというレポートを提出して、バギンズ教授に何故どこでも何時でも良いと教えて下さらなかったのですかと質問した。


「あら、ショウは直ぐに気づくだろうと思ったから、教えなかったのよ。それに提出されたレポートでは、気づいていたでしょ」


 まぁ、気づいたのは確かだけどと、ショウはバギンズ教授は教育者として少し変わっていると思った。


「あっ、ショウ君! パロマ大学に来ていると聞いてね~。ヘザー、少しショウ君を借りるよ」


「まぁ、アレックス! 私の学生を拉致するつもり? でも、こちらの用事は終わった所よ」


 しまった! バギンズ教授は変人アレックス教授の妻だったと思い出した時は、ショウは長身の教授に研究室に引きずられるように連れ込まれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る