第17話 ニューパロマで初デート
突然現れたアスラン王に、パシャム大使は心臓が止まる気持ちがした。
「何かショウ王子のお世話に、失敗があったのだろうか?」
外交官としての失策は無いと自信のあるパシャム大使は、もしやパロマ大学を護衛無しで歩かせている件ではとか、ゴルチェ大陸へ行くと言ってる件かと頭がグラグラした。
アスランは鬱陶しいほどの接待をパシャム大使から受けつつ、ショウがララに恋するのを眺めていた。
アスランにとってララは可愛い姪だが、王家の女でもあるので心配もしている。アスランは、本当は兄の娘など許嫁に選びたくなかった。ミヤの孫だからララを選んだのだが、こうなったら他の兄達も黙っていないだろう。ショウも苦労するぞと笑う。
ニューパロマらしいバラが咲いている庭を、ショウはララを案内していた。
「此処まで、長旅でお疲れでしょう。ビックリしました」
ララも少し会わなかったショウが背が伸びて凛々しい少年になっているのにときめいたが、この場合はビックリではなくて、嬉しかったと言って貰いたかった。ララは、自分の魅力が足りないからだと落ち込んだ。
「ショウ様は、ビックリなさっただけなのですね」
迷惑だったのかしらと、伏せ目がちにしょんぼりするララに、ショウは慌てる。
「そんなことない。すごく会えて嬉しいよ。それに覚えていたララより、もっと現実のララは可愛いから……照れたんだ」
ショウは女の子が自分に会うために不自由な長旅に耐えた事に感激して、ララを抱き寄せた。
「この髪飾り、使ってくれているんだね」
ショウがプレゼントした髪飾りは、艶やかなララの髪を引き立てていた。
「勿論ですわ。だってショウ様が初めてプレゼントして下さった、大事な髪飾りですもの」
「ララって可愛い! 僕が選んだ髪飾りを大事にしてくれるなんて……」
「ショウ様、ずっとお会いしたかったの」
二人は再開に盛り上がり、侍女の目を盗みながら、大使館の薔薇のアーチに隠れてキスをする。
パロマ大学にも可愛い女学生はいたが、若い子で十五歳十六歳なので、十歳のショウには年上過ぎた。
久しぶりに会ったララを何処に連れて行くか、ショウはわくわくしながら考える。
「ねぇ、手紙にも書いたけどニューパロマには本屋が多いんだ。行ってみない?」
「本屋さんに行けるだなんて、嬉しいわ」
本が好きなララだが、レイテの本屋にも行ったことがない。王族の姫君は、独身のうちは親の屋敷から出ないのが普通で、まれに親戚の屋敷に行く程度だ。
「いつも、本屋さんに私が好きそうな本を届けて貰うのだけど、前から自分で選びたいと思っていたの」
馬車でショウとニューパロマの街に出かけるのもララにとっては浮き浮する非日常的な体験だ。
「こんな風に街を見学できるとは考えてもいなかったわ。叔父上にニューパロマに連れて行ってやると言われたけど、きっと大使館の中で過ごすだけだと思っていたの。それでも、ショウ様に会いたいから、父上を必死で説得したの」
ショウは、大使館から出られないかも知らないと思いながらも自分に会う為に、長旅をしてくれたのかと感激する。
「カザリア王国などの旧帝国三国では、女性も東南諸島より自由に出歩いているよ」
馬車の中から、街を歩く婦人を見て、ララは驚く。
「まぁ、こちらの父親や旦那様は優しいのね」
「旧帝国三国でも身分の高い婦人や令嬢は、侍女を連れて行くみたいだけどね。あっ、そろそろ本屋街だよ」
パロマ大学を有するニューパロマには、学問の都に相応しく本屋街があった。
「学術書専門店もあるけど、ララはどんな本が好みなの?」
ララは、ずらっと道に沿って並んだ何軒もの本屋に圧倒される。
「私は小説やエッセイが好きなの。それと、旅行に出るなんて考えた事も無かったから、紀行文も好き。だって、色々な珍しい風景や食べ物、そしてそこで暮らす人々の習慣とか興味深いんですもの」
ショウは、先ずは新刊を並べている本屋にララをエスコートする。もちろん、二人の後ろからパシャム大使が命じた警護の武官が何人もぞろぞろと付いてくる。
「ゼナ、狭い本屋の中にこんなに護衛が付いて来たら、他のお客さんに迷惑だよ。一人だけにして!」
ゼナは、ショウ王子だけでなく王族の姫君を護れとパシャム大使から厳命されていたので「ううう」と唸る。
「じゃぁ、ゼナだけ付いて来て! 他の人は外で待っててね」
パロマ大学にも付いて来ているゼナを追い払うのをショウは諦めて、ララと本を選ぶことに集中する。
本好きを本屋に連れて行ったら、舞い上がってしまう。まして、ララは本屋に行くのも初体験だし、レイテにはまだ入荷していない新刊を見つける度に興奮する。
「まぁ、これの続編が出ていたのね! これは、私の好きな作家の新刊だわ!」
ショウは、ララが選んだ本を後ろに張り付いているゼナに渡して、一緒に楽しむ。
「好きなだけ買えば良いよ。東南諸島連合王国の大使館に付けて貰うから」
ショウの留学費用は、全て大使館持ちだったので、本の購入もいつも付けていた。
「ここは古本屋だけど、どうする?」
「勿論、行ってみたいわ! レイテには売っていない本があるかもしれないんですもの。でも、ショウ様は良いの?」
ショウは、いつでも本屋には行けるから大丈夫だと、ララをエスコートする。
馬車にいっぱいの本を買い込んだ二人は、大使館に帰るのが勿体ない気分になる。ショウは、あまりニューパロマを知らないのが残念だ。
「そうだ、パロマ大学の図書館には、珍しい蔵書があるんだよ」
まだ子どものショウは、大使館とパロマ大学しか知らない。
「行ってみたいけど、パロマ大学に通ってもいないのに良いのかしら?」
「パロマ大学は、一般の人々にも知識を広げたいとサマースクールを開いているぐらいだから大丈夫だよ。借り出しは駄目かもしれないけど、図書館で読めると思う」
本好きのララを書店に連れて行ったり、パロマ大学の図書館を案内したりと、色気のないデートだったが十歳の二人は一緒にいられるだけで浮き浮きとする。
ララはショウと一緒にいると自分が可愛い女の子として扱われるのが、少しこそばゆく感じていたが、嫌では無いと思う。
ショウはララが屋敷以外にあまり外出した事が無いので、ニューパロマの街を案内するのが楽しかった。
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