海と風の王国
梨香
プロローグ
プロローグ
「翔、ごめんね、夏休み前であまり考えずにデートにOKしちゃったけど、やっぱり付き合えないわ。これからも良いお友達でいましょうね」
夏休みの最初の日、栗色の髪を翻して、足取りも軽く自分から去っていく結花を、呆然と翔は見送った。
結花のことは、同じクラスになる前から気になっていた。
「長い栗色のストレートの髪……最高だよね! 廊下で擦れ違うと、良い香りがするんだぁ……髪に触ってみたいなぁ」
翔は重度の髪フェチだ。
「将来は、絶対にカリスマ美容師になるぞ! でも、ショートカットはしないからな……女の子は長い髪が命でしょう!」
そう日頃から公言している翔は、ある意味で目立っていた。都内でも有数の進学校で、国立大学や医者を目指す生徒は珍しくないが、カリスマ美容師を目指すと公言する翔は、変人扱いだ。
友達にも何故この中学に入学したのだと不思議がられたが、翔は家から近いのと、美容師ならロンドンで修業しなくちゃと、英語教育に力を入れているから選んだのだ。
結花と同じクラスになってからは、授業もそっちのけで髪を見ていた。一学期の終業式の日に、やっとデートに誘い、ドキドキしながら待ち合わせの場所に一時間も早く着いて待っていたのに……振られた翔は、十五年間の彼女無し歴を打ち破れると思っていたのにと、泣きたくなる思いでとぼとぼと家に帰って行く。
家の近くまで帰った時、公園からボールが弾んできたと思った次の瞬間、小さな男の子が飛び出す。
「危ない!」
翔はとっさに男の子を抱き上げた。
キキキキキー
住宅街の道を、渋滞の抜け道にするトラックに翔ははね飛ばされた。
夏空に栗色の髪が翻る残像が翔の最後の記憶だった。
……ここは、どこなんだろう……
そうだ……結花に振られたんだ……
結花の髪はきれいな栗色で、ツヤツヤのストレート、風になびくとシャンプーの良い香りがするんだよなぁ……
でも、振られたんだ……髪の毛を翻して……僕から去っていった……でも、あの翻った髪の毛……最高だったよなぁ……
ぼんやりしていたショウの目の前に、白いローブ姿のやたら綺麗な男が現れる。
「振られた女の子が、忘れられないのですね。わかります、その気持ち! 私も彼女に振られたのです。永遠の愛を誓ったのに、転生ミスをしたことぐらいで……」
ショウは、見も知らぬ煌々しい男に手を握られて同情されて困る。
「貴方も彼女に振られたのですか? でも、見たことないほどのハンサムだから、直ぐに恋人できますよ」
翔はハンサムとはいえ、男に手を握られて嬉しがる趣味は無かったので、ふりほどきながら慰める。煌々しい男は翔に慰められて、凄く嬉しそうに微笑んだ。
「貴方は良い子ですね! 死神暦一千年ですが、死んだ人から慰められたのは初めてです。それに亡くなった理由も、子供を助けようとしただなんて、気の毒すぎますね。来世は、モテモテにしてあげますよ」
「えー、僕は死んだの!」
翔は朧気に思い出して、子供は助かったのかと聞く。
「人が良すぎますね……お金に苦労しない所に、転生させてあげましょう」
ショウは、モテモテで、お金に苦労しない所に、転生なら悪くないと考え、自分が死んでしまって悲しんでいるだろう家族の事など考えもせず、差し出された書類に翔は迷わずサインした。
「あっさりしていますねぇ……誰かさんとは大違いです」
死んでしまったものは仕方ないし、子供が助かったのなら無駄死にでは無かったのだと、十五年の短い人生を諦めたのだ。死神は、前にごたついた有里を思い出して、それが恋人との別れの原因だったと、心を乱したまま翔を転生させてしまう。
「しまった! 記憶を消去し忘れた……どうか前の時みたいに、バレませんように……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます