第8話 最弱勇者とアルバレア

「うふぅはあぁぁぁ…マナー遅い…」




今現在、マナーが変態に襲われていることなど露知らず、カグラは長々と気持ち悪いため息を吐いた。


あれからもう2時間以上経っている。


流石にイライラしてくる頃だ。




「うぉうふ…退屈だ…」




気持ちの悪いため息を再度吐き、カグラは周りを見渡した。




「おあー、そういや俺の目、今何とかレンズ入ってるんだったなー」




カグラは自分の目に解析レンズが入っていることを思い出して、少し笑みを浮かべる。




「よし、マナーを探しに行くついでに少しこいつの性能を試してみよう」




カグラはガタッと雑貨屋にあった椅子から立ち上がり、店から出て行った。






ーーーーーーーーーーーーーーー






「よし、最初は冒険者登録所に行ってみよう」




マナーも賑やかな場所にいそうだしぁ……誰かに連れ去られたりしてそうだな。




と、雑貨屋からほんの少し歩くと、すぐ人が沢山いるうるさい場所を見つけた。




ここは冒険者登録所。


色んなところからやってきた壮大な野望を持つ冒険者が新たな出会い求めてやって来る出会いの場だ。




基本ここではその名のとおり新参者の冒険者を正式な冒険者として、国に登録することができる場所となっているが、実は他にもいろんなことをすることができる場所でもある。


例えばギルドを作ったり、職業を決めたりすることもでき、さらにはただ酒を飲む場所にすることもできるのだ。




柄の悪い冒険者達は自分のパーティやギルドの成功を祝って朝から騒ぎまくっている。




どんな日でも年がら年中うるさいので住民からはとても不評で、登録所の周りには何一つとして住宅がたっていない。


あるのは武器屋や、防具屋など冒険者の客目当てで店を構えているところだけだ。




ふむふむ、と、少し冒険者達を凝視して見る。


すると見る見るうちに冒険者達の頭上に何かゲージのような物が出てきた。




「うーん、流石は五大都市アルティカーナ、冒険者のレベルもたけぇな」




ざっと見ただけでも平均50レベルは上回ってそうだ。


特定の国で冒険者登録をしている冒険者は、戦争などで傭兵として軍に雇われることが多く、強い国の冒険者は強いと言う方程式が成り立っている。




ここで冒険者達を見ながら気づいたことがあるが、ゲームの世界に入ってしまったと言うのに、知っているプレイヤーが一人もいなかった。


現世の人間はこのもう何人も《自由な世界》をプレイしているはずなのになぁ……




「まぁ良いか」




何がどうであれ俺はこの世界から出るだけだ。


それさえ考えとけば良い。


俺はそう結論づけてマナーの捜索を始めた。
















それからというもの、マナーを探して登録所内を歩き回っていたのだが、人ごみに押されるだけで体力が5ずつ減って行ったので恐怖に駆られ早急に出て行った。





ーーーーーーーーーーーーーーー







「こらぁ〜マナ〜…どこ行った……」




あれからいろんなところに行って見たが、どこにもマナーはおらず絶賛グロッキー状態だ。 


よく考えてれば食べ物を食べに行ったのに食べ物が無い場所にマナーがいるはずも無く、それに気づいた俺は屋台の方に行ったのだが、人に押されるわ潰されるわで冗談抜きで死にかけた。




体力がみるみる内に減って行くもんだからプレッシャーで発狂した。


しかけたんじゃない、したんだ。




まぁそんなこんなでおでんのような物を出してる屋台でグロッているわけだが、マナーのことが頭から離れなかった。




「誰かに連れて行かれたりしてないかなぁ……本当、食べ物とかに絶対釣られるもんなぁ……」




事実マナーは、俺がパンをやっただけで俺について来るようになっている。


食物に釣られる可能性は十分にあるのだ。




「あぁ…マナー……心配だぁ…」




いつもは、「カグラッ!」とかいっ……あん?




「カグラ〜!」




「マナァァァァ!バカ!お前どこほっつき歩いてたんだ!心配したんだぞ!」




「うわぁぁん!ごめんカグラ〜!」




「よしよし許す許す!だからもうこんなに心配させないでくれよ!」




「わかったぁ〜!」




わんわん泣いているマナーの頭を優しく撫でる。


至福の時。


こんなに感動したのは初めてだ。


これが子供を持つ親の気持ちか……いかん、涙出てきた。




「うわぁぁん!マナー!」




「カグラー!」




「良かったですね」




「あぁ!やっと本当の家族になれた気がする!出会ってまだ二日もたってないけど!」




「うん!」




「そうなんですか」




「おお!」




話のわかる子だな!可愛いし!










ん?








「え?君だれ?え?」




「私ですか?私の名前はシェイミー・アルバレア。マナーちゃんを変態から助けました」




「この人ね、変態って言う人殺しちゃったの…びぃえぇぇぇ」




「峰打ちです!」




「うーん、そうかそうか…ありがとな、マナーを助けてくれて。アルバレアさん………アルバレア?」




「え」




アルバレア…アルバレアってあの……




「ス、スルト・アルバレアって知ってる?」




「あ、はい。私の父です」




「へ〜」




やっべ、やべやべ、驚きすぎて言葉も出ない。


あのレベル300の軍神の子供、か……敬語で喋ろう。




「えっと、どうかしましたか?」




「え、いや、今日の宿どこにしよっかなーって」




思わず嘘をついた。


何も悪いことしてないのに。




「冒険者の方なんですか?」




「はい」




まだ登録してないけど、まぁいずれするつもりだったし嘘じゃないだろ。




「そうなんですか……泊まる宿は決まってるんですか?」




「いや、まだ…」




あ、やばいフラグが。




「じゃあ私の泊まってる宿に来ますか?」




「い、いや、いいですよ迷惑になりますし」




「い、いえ!是非泊まって行ってください!」




「いやいやいや!恐れ多いです!」




アルバレアさんは、いや、アルバレア様は少し顔を赤く染め、




「マ、マナーちゃんとも仲良くなりたいですし……」




「…ど、どうする?マナー?」




「この人怖い……」




「あ、あの!宿のケーキ美味しかったですよ!」




あ、ダメそれは




「行く!」




「やっぱりか……」




こいつは避けられなさそうだ。

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