第29話 In the Forest -6 Carcasses-
私は人気のない森の中に
一件の小さな小屋を持っている
妻には内緒で貯めたへそくりで
こっそり買った秘密の家だが
小屋についた汚れは やがて落ちづらくなっていた
掃除しても 掃除しても 血の汚れが消えなくなっていった
私は汚れの部分を意図的に破壊し
血の汚れを別の汚れへと変えたのだが
小さな小屋はやがて酷いボロ小屋となり
私はその小屋を破棄せざるをえなくなった
こんなボロ小屋に誘われても
ついていく馬鹿は流石にいないだろうし
これ以上同じ手 同じ場所を使っては
マズかろうという判断もあった
とは言うものの 人を殺めるのはやめられない
麻薬のように 性質の悪い酒のように
赤くて黒い罪の味への飢えが
赤い狂気が私を駆り立てる
赤い狂気が私を突き動かす
そんなある日 私はまたある女ホームレスを酒に誘った
良く月の見える綺麗な湖があると森の中へ誘い
呑気なことに彼女はひょいひょいとついてきた
月明かりを湛えた湖と 白く光る月を観ながら
彼女と二人 盃を傾ける
ホームレスに身を落としても女は女
シンデレラにでもなった妄想を抱いたのか
飲みながら彼女は嬉しそうに目を細めた
いくらでも夢を見ておくが良い
いくらでも妄想を抱くが良い
今 隣りにいるのは王子でも王様でもなく
ただの人殺し 殺人鬼だ
その夢や妄想はすぐに砕け
お前は死ぬ
最後の夢や妄想が終わり
お前は肉塊へ還る
白から紅に染まる月の下
白銀の剛直に貫かれて
私はまた その彼女の死体を
森の奥深くに捨てた
それからしばらく経った後
森の奥深くに捨てた 6つの死体が発見された
どれも私が殺ったものに違いないのだが
これは連続殺人ではない 単独の6つの事件だ
テレビで偉い立場らしき人間がそう断言し
連続殺人は資本主義の弊害 我が国で起こりえない
テレビで偉い立場らしき馬鹿がそう断言した
それが真実としたら 此処にいる私は何だ?
何人も何人も人を殺した連続殺人犯
殺人鬼がここにいるではないか
政府は何て馬鹿なんだろうか
私はその時そう思ったし
政府や民警は馬鹿なその見解のまま
何の関係もない人間を何人も連行し
やってもいない犯行を次々自供させ
その内一人には自殺までさせた挙句
私の所には終ぞ誰も来ることはなかった
テレビでは馬鹿な報道が続き
馬鹿な政府が馬鹿な話をしている
それを観ながら その頃にはもう
麻薬のように 性質の悪い酒のように
赤くて黒い罪の味への飢えが
赤い狂気がまた 私を駆り立てていた
赤い狂気がまた 私を突き動かしていたが
私はその飢えに対しても
笑いを噛みしめていた
どれだけ殺ろうと 政府や民警は馬鹿ばかり
私はいくら殺ったとしても問題になりはしない
そう考え私はまた笑う
そう考え私はまた嗤い そして
白から紅に染まる月の下
白銀の剛直で貫いて
私はまた 誰かを殺す
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