第112話 Tシャツ×ジーンズ×九尾の狐

「お師匠さま、静かにね?」


「分かってる分かってる」


結局押し切られて吾が輩の部屋。監視カメラがあるからまずはそれを確認しようということになったでござる。運よく母上と妹君はまだお昼寝中。


「カタカタッターン!っとな。ほら、この桜の木の下でござる」


「おお、100兆じゃあないか」


「庭から鳴き声がしたから行ってみたらいたでござる。で、鰹節食べて吾が輩に『調子に乗るなよ』と言って出てったと」


「どっかで飼われているってことはないねえ。そういう男じゃないさね」


尻尾が6本もある猫を普通に飼ってる人がいたらそりゃびっくりでござる。


「手がかりは外見的特徴しかないから見つけるのは難しいでござる」


「気合いだよ気合い! そら行くよバカ弟子」


「はいはい」


ガチャ


「あ」

「え」

(終わった…でござる)


なんでかなー、なんでかなー。なんかデジャヴでござるなあこの光景。最悪のタイミングでドア開けたり開けられたり。妹君ついさっきまで母上と寝てたじゃーん。


「ど、どちらさま…」


「コイツの愛人。これからホテル」


「アッハイ…」


「ちょっ?!」


キィィィ、パタン…。


いつから愛人になったでござるか。ホテルってなに? 大人のプロレスごっこでござるか。お師匠さまにそんなことしようものならこっちがぶっ殺されるでござる。


「お師匠さまでたらめ言わないで…」


「ぬはははは、嫁が7人もいるんだからあたいは愛人枠だにゃーん」


「もうやだこの酔っぱらい狐…」


ということで外。これ以上あらん誤解を増やさないためにも早いとこ信長さんにはお縄についてもらわなければ。とはいえどこを探せばいいのやら。


「バカ弟子、ちょっと」


「ダメでござる」


「まだ何も言ってないじゃないか」


「コンビニ見ながら言われたらお察し。アルコールが切れたからお酒とつまみ買うつもりでござる」


「なあ~いいだろ~?」


「ダメでござる。昼間っから酒呑んでばっかり。だいたいお師匠さま、普段の生活費もそうだけどどっからそんなお金が出てくるでござる」


「日本政府」


なに言ってんだこの狐。頭をウリウリすんのやめて。


「なぁなぁいいだろ~? あとで裸で抱きついてやるからさぁ~、おっぱいいくら揉んでもいいからからさぁ~、太もももつけるからさぁ~、なんならどこ触ってもいいからさぁ~」


「ああもうくっさいからまとわりつかないで。これだから酔っぱらいは…。ちょっとだけでござるよ?」


「いぇーいさすがバカ弟子ぃ」


この人まだ酔っぱらってるでござる。あんまりぐいぐい呑んで道端でマーライオンされても困るし今日は適当に流してまた明日でござる。


「ほら、お店に入っちゃダメだって」


「にゃ~ん」


ん?


「「「あ」」」


仕方なくコンビニに入ろうとしたところで、店員さんが抱き上げて外に連れてきた猫と目が合ったでござる。尻尾が6本の黒猫…。


「おんどりゃああああ!」


「ぐわああああああああ!」


「待てえぇぇぇぇぇぇぇぇ!待てやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


見ィィィィつけたァァァァァァァ!


コンビニに現れた尻尾を6本持つ黒猫。その正体は死んであの世に行ったと思ったら魔界に転生して好き勝手やり、魔王に登り詰めた織田信長だったでござる。


「おんどりゃああああ! 待てやコラぁぁぁっ!」


「お師匠さまキャラキャラ! キャラ変わってるから!」


魔王となった織田信長さんは仕事('A`)メンドクセと魔界からバックれ、100兆円と願い一つの賞金首になったとさ。そんな信長さんは猫に化けてコンビニに入ろうとしたところを店員さんに抱きかかえられて出てきたでござる。


「なんなんじゃお前ら!」


「100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆!」


「きっと今のお師匠さまには信長さんが100兆円の油揚げにしか見えてないでござる」


「はあ?! 貴様なぜワシの正体を知っとる!」


「国際指名手配ならぬ時空間指名手配食らってるでござる」


酒とつまみはどこへやら。街中を猛烈な勢いで大爆走する猫と妖狐とデブ一人。


「ふざけんな! なんでお前ら魔界を知っとる!」


「まー色々ありまして。龍族のお姫様ともお知り合いになりましたし」


「ああ?! あのカタブツジジイんとこの孫娘か?!」


「100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100兆100」


「ひいいいい」


「あっヤバい! お師匠さましっぽしっぽ! 尻尾出てるから!」


目の前の100兆円に我を忘れ尻尾が全部出てしまっている! お師匠さまの尻尾の方がデカいから目立っちゃうでござる!


「ママー、あれなにー」


「しっ! 見ちゃダメよ!」


ホント見ちゃダメですから! 早いとこなんとかしないと騒ぎになってしまうでござる! ジーンズ履いた伝説の狐が人間に化けて尻尾9本出したまま全力疾走とか洒落にならんでござる! 新しい九尾の狐伝説にEDW○Nでござる!


「ということで捕まっていただきたいでござる!」


「ふざけんな誰が魔界なんぞ帰るもんかばーかばーか」


「おおん?! このクソ猫! 人が下手したてに出てれば調子に乗りやがって!」


「ワシは新しい嫁と自由きままに暮らすんじゃ! 誰があんなブラック世界で魔王なんかやるもんか! 労働時間がブラック→ダーク→魔界だっちゅーの!」


「待てやぁぁぁぁ!」


「へへーん! お尻ぺんぺーんここまでおいでー!」


「クソがぁぁぁぁぁぁ!」


「曲がったでござる! ひっ捕らえぇぇぇぇい!」


「ぬお?!」


完全に吾が輩達をおちょくっているノッブさん。十字路を右に曲がると突然急ブレーキしたでござる。


「へえ、新しい嫁ですか…」


「の、濃姫…。なぜお前がここに…」


お? 誰でござるかこの黒髪ロングストレート和服美人。追っかけて曲がった先には現代に似つかわぬ和服を着込んだ妙齢の女性が立っていたでござる。濃姫って、その濃姫?


「クカカカ、既に側近のねーちゃんに通報済みなんさねえ。見つけたから応援よこしなってなぁ」


「テメーこの狐ババア!」


「万年妖怪ナメんな!」


「お話があります」


「ま、待て濃姫、話せば分かる。話せば分かるから、な?」


「なんですかこの尻尾は」


ガシッ


「フギャア! いやワシ第六天魔王って名乗ったことあるから尻尾が6本ってカッケーんじゃないかと…」


「は?」


「あああああ! 痛い痛い! 尻尾がちぎれるぅ! すまんかった! ワシがすまんかったから離してくれぇ!」


「新しい嫁ってなんですか」


「え…?」


「新しい嫁ってどういうことですか」


「えっと…」


「連れてきなさい」


「えっと、あの、それは、その…」


「連れてきなさい」


「はい…」


濃姫コワイ。

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