亡き愛の

黙って歩くのもなんですから、

話を聞いてくださいますか

ああ、優しいお方だ

あのですね、私は思うのです

雛鳥が親鳥の後をついていくように

私も歩いてしまうのだろうか、と

ええ、もうとっくに捨てたはずなんです

捨てるというのは言い過ぎでしょうか

ただもう諦めたというのは

事実ですよ

私が見たって、誰が見たって

彼女は振り向かないのですから

ですがどうしたって難しいですね

諦めはついたもののやはり

彼女と話している時が一番嬉しかったりするのです

心の中がふわりと軽くなって飛んでいくような

虹色の雨が降って心が晴れやかに染まるような

懐かしくて、心地よくて、少し寂しい

そんな感情が生まれるのです

踏み出す気持ちも固めて、まあ次に

良い人が現れたら受け入れようだなんて

思ってはいますけれど

はい、話していて

最も気持ちが高揚するのは彼女なんです

無論、彼女は真に私を見てはいませんから

─もちろん私を見て欲しいと思っていますが─

なんとなく佗しげになりはします

そうですね、私は愛してしまったのかもしれません

恋ではなく、愛なのではないかと

残酷だと、思います

ただ彼女と話していて幸福なのは本当です

だからそこまで辛くはないかもしれません

さあ、ここからは黙りましょうか

定刻まで時間がないですからね








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る