恣意




『シー』


目の前の彼が口に出す

図書館の窓から射す光が

彼のブロンドの髪を明るく染めていた


ふっと振り返っても

視線を巡らせても

特にヒントは見つからなかった


だから私にはsheかseeかseaか

どれだかわからない

そもそも私の知らない『シー』かもしれない


困ったように微笑めば

彼は聞き取れていないのが予測済みかのように

密やかに微笑んだ


その形のいい唇に視線が吸い寄せられる


意思の疎通に困ることはしょっちゅう

一緒にいても迷惑かな、なんて


でも私は彼が作る音が

音を作る唇が

その動きが

好きなんだ


けれどsheでないことくらい

確かめられる

耳が欲しいな





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