それぞれの理由
我の言葉にただ呆然と「は?」と口にする無礼者。
ふむ…いきなりすぎたか?
だが他に代替に足る言葉が浮かばない。
少し考え、『理由が分からないのか』と思い至り補足する。
<お前に死なれてはせっかくできた喧嘩相手が居なくなる>
それに強者側にある我等二つが共に歩めば、負けの可能性は限りなく小さくなる。
何より負けたことのない我は、どうせなら『負けそうな側』に居た方が面白いだろう。
単独で国とやらの集団を滅ぼす魔王と対決するのも一興だ。
ヒトのためであり、そして我のためでもあるこの話はかなり優秀だ。
提示された問題全てに答えを示せるのだから。
しかし帰ってきたのは
「いや、それはありがたいが…お前って
という余りにも的外れな言葉。
いや、そうでもないか。
よく考えてみれば…
<あぁ、そういえば試したことがないな。
だがここに縛られている訳でもないから問題ないはずだ>
「え、そうなのか?
五百年以上もここから動かないから何かあるんだと思ってたが…」
<特に移動する理由がなかったからな>
「筋金入りの引き篭もりだな…」
…さてはその評価は余り良いものではないな?
だがそんなことを言われたところで我には響かん。
これまでの時間のほとんどは我だけで過ごしていたし、たまの来訪者は襲い掛かってくる。
比較対象はすべて傍迷惑なヤツラばかりなのだから、我の評価がそやつらより低いわけがないからな。
あぁ、そうか…こやつもその『傍迷惑なヤツラ』の一人なんだったな。
<我は一般的な竜を知らん>
「いや、種族の問題じゃなくてな…?
…ということはツガイも居ないのか」
<ツガイ?>
「仲の良い他の竜だよ。
そういや、お前『ぼっち』だって今さっき言ったな…」
<何となく馬鹿にされているのは分かった。
別に我はここで過ごしても何ら問題は無いんだが>
「すみませんでした! 是非ついて来て下さい!」
視線を外してそっぽを向いた我に対し、即座に頭を下げたのは『我に服従する』という意味だろうか。
ヒトの中でも特別なこいつが、我の強さを嫌というほど身に染みて一番知っている。
この『力を貸す』という我の言葉がどれだけ魅力的かを知るのも同じく。
さて、この申し出に乗るだろうか?
「って、来てくれるとしてもその体格じゃ無理なんだが…。
いくら小柄でも竜を連れ歩くなんて勇者の俺でも厳しいどころか規制される可能性が…」
体格?
小柄な竜?
つまり『竜の姿』が問題だと?
何と些末なことを気にする種族なのか…いや、それよりも。
<ゆうしゃ?>
「あー…人の世界の取り決めだな。
肩書きで分かれば良いが…んー…あぁ、そうだ。
種族内での序列とか役割分担みたいなもんだ。
ちょーっと発言権が大きくて、しょっちゅう戦闘に駆り出されるって感じの損な役目さ」
確かに戦闘者の技量は過去に類を見ない。
ともあれ、ヒトの中でも上位者だと考えれば良いのか…?
まぁ、我が気にすることでもないか。
<
「え、そんなことできるの?」
<うむ、習得済みだ。
幻術系と変化系、時限式と永続式のどちらが良い?>
「…お前ってホントに多才だな?」
<それだけ挑んできたモノが多いだけだ。
それで、どちらの方が眼前の問題を解決できるのだ>
促せば、変化系の永続式と答えた。
幻術系だと体格差を誤魔化せないし、時限式では不意に術式が解けては大事になる。
どちらも勇者の言。
そんなものか、と納得した我は《千篇変化》を行った。
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