ホームルーム (iii)

 それが生徒の全体レベルの引き上げになればまだいいのだが、実際は逆効果。県内の進学校と同等かそれ以上の難度とハイペースについてこられる生徒は皆無に等しく、かえって数学嫌いを助長し、成績の低下を招いていた。


 生徒間はもとより、別の数学教師や主任、教頭、保護者からも苦言を呈されてはいたが、枡田は、日本の数学教育は世界的にみて非常に遅れていると力説し、方針を曲げなかった。


「数学があまり好きじゃないみんなに朗報だ」


 担任の言葉に、あまりじゃなくてまったくです、と誰かが言った。枡田は苦笑いで続ける。


「今日はみんなで数学を使った『ゲーム』をやってみよう」


 呼びかけに「ゲーム?」と何人かの生徒が口をそろえたが、半数以上はさして興味のない様子を崩さなかった。枡田の授業内容がおもしろかったことは一度としてない。たまに多少、趣向を凝らすことはあるが、難しい、わかりにくい、という原理原則は、1+2=3や三角形の内角の和が180°と同じく不変だった。

 ゲームという言葉に生徒たちが関心をもつと予想していた枡田には肩すかしだ。が、確信のある彼は、かまわず続ける。


「普段の授業の延長線上じゃあないぞ。本物のゲームだ」

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