チュートリアル (xlvii)
「やったか!?」拳を固める男子生徒の予想に反して、プルスに変化は見られなかった。今までと同様に威勢よく枡田を襲撃しはじめる。「答えが間違ってた……?」
軽やかに身を交わして、枡田は「いや、正解だよ。プルスの『不可侵』状態はこれで解除された」と言った。
アプリに目をやると、「状態」の項目が空欄に変わっていた。「これで終わりだ」
内ポケットに携帯端末を差し入れた枡田は、初めて剣を両手で握った。
なにか異様な気配を察知した生徒はにわかに静まる。
グラウンドから離れた最上階の教室からでも、教師の顔つきの変化が見える気がした。
ぐぐっと全身に力を込めたプルスが一気に跳ねた。体のバネをきかせた高いジャンプだ。プルスもまた今までにない挙動をとった。
投擲された槍のごときスピードで角先が枡田の眼前に迫る。ある者は声をあげ、ある者は絶句し、ある者は顔をそむけた。
決着は刹那のうちについた。
剣を振り下ろし前傾姿勢で固まる枡田。左右に割れた肉の巨塊がその背後で落下。
アプリ上のHPを表すゲージが急速に縮まっていく。
一瞬の静寂のあと、わっと教室じゅうが沸きかえった。
「先生、マジかっけえ」「俺、鳥肌たった」「ヤバい。ヤバいヤバい」「マスティー、アリかナシでいったらナシじゃなくない?」「いや、それはさすがに……」「ええ~」
男子も女子も大騒ぎだ。HPゲージの消失するところを見届けた者はほとんどいなかった。代わりに圧倒的多数が見たのはその本体、プルスの消えゆくさまだ。
胴体で一刀両断された上体と下体が、光の粒子となってたちのぼり昇華していく。それは現れたときと同じように、ほの白い青だった。
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