犠牲者 (ii) ――― τ

 担任のやや改まった様子と、前方に認めた「それ」に、3人は身を引き締めた。

 グラウンド上の向こう、いくらか離れたところに浮かびあがる青白い発光。もうすっかり見慣れた感さえある色あいのなかから、歩み出てくる4つの脚。隆々としたシルエットの獣が校庭に立ちはだかる。


「馬っ……?」


 しりがい文久ふみひさが声をあげると、馬だ、普通に馬だ、と皆も口をそろえた。

 体格は通常のものよりはひと回り大きく威圧感はあったが、それ以外は変哲のない馬だった。

 全身は鼻づらからしっぽの先まで、灰をかぶったようにグレー一色。目だけが濃い色で、こちらをじっと見ている。

 どういうモンスターなんだろう、と言いあう教え子に「アプリでチェックしてごらん」と枡田が助言した。

 馬をちらちら警戒しつつ、携帯端末の「プリムズゲーム」で相手を調べる。


  τタウ  属性: 無  状態: 不可侵

  足が速く俊敏。気性が荒い。咬みつくことがあるので注意。


 うわー、使えねー、と3人はげんなりした。「足速いのぐらい想像つくし」「それ、普通の馬の話じゃん」「気性が荒いって、さっきも見たぞ」


 唯一の見るべき項目は、やはり、状態の「不可侵」だった。

 最初のモンスター同様、この馬型のモンスター、タウも、数学の問題を解かなければ倒せないらしい。


「教室の奴ら、ちゃんと解けるんだろうな。俺らがいくらあいつをボコっても、問題ができなきゃ倒せねーんだろ?」「征従まさつぐ、勝つ気満々だな」「先生でも勝てんだから、よゆーだろ」「ハハハ」枡田は苦笑いだ。


「あ、玲爾れいじからLINE通知来てる」「なんて?」「『蚊取り線香出たwww』だって」「はあ?」


 この時期にまだ蚊は出るのだろうか。湖西こさい天祀あまつるは首をかしげながら、意味を尋ねるよう阿部あべ玲爾に告げ、枡田に顔を向けた。「先生、俺らにも武器あるんすか?」

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