チュートリアル (ii) ――― +
グラウンドの中央。乾いた土と砂だけのなにもない場に、忽然と光が生じた。
すっかり日がのぼった朝の時間帯にもかかわらず、はっきりと見てとれる青白い輝き。点だったそれはふくれあがり、直径2、3メートルほどの光球にうつろう。窓側の生徒が声をあげ、あるいは絶句し、食い入るようにように校庭を見た。
「え、なにあれ」「なんかすっごい光ってる」「あそこ……、なにもないよね……?」「どうなってんの?」
窓の横はすぐに押しあいへしあいとなり、まもなくクラスじゅうのほとんどが張りついた。
難波瀬織と担任の枡田をのぞいた全員が見守るなか、
1匹の獣だった。薄い灰色の短毛をまとった4脚の生物。なんか出てきた、と騒ぎはより大きくなる。
ウサギだ、と誰かが言った。長い耳をたずさえ、体を丸めたたずむシルエットはたしかにウサギだ。ただし、見知ったそれとはかけ離れていた。
ひとつは額の角。螺旋状の溝の巻きつく、三角錐形の一角。長の半分はあろうかという長くてりっぱなそれは、現実に並ぶ生き物はイッカクぐらいだ。それは海棲の生物で、このようなウサギは知られていない。
そして、もうひとつの違いはそのサイズ。校舎の5階、グラウンドのまんなかという遠目でも、角とウサギの姿が視認できるほどに大きい。うずくまっていても、頭頂からしっぽまで人の背丈ほどありそうだ。人間よりは横幅があり、体格は何倍もよさそうに見えた。
「あれ、なんなの?」「ウサギ?」「でかくない? 角生えてるし」
りつ、あまね、まどかの3人組が口々に言った。ほかの生徒間でも「ゲームであんなのいるよな、アルミニウムみたいな名前のやつ」「なんかキモい」「これ手品?」「どうなってるの? どういうこと?」との疑問と驚きとともに銘々のシャッター音が飛び交う。軽快な電子音が、場の異常さをかえってきわだたせた。
「見て、今動いた!」
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