第50話2-13-2. インターハイ全国大会②

―――出場チームは20ほどの数のグループに分けられる。

国立闘技場にいくつも施設があるがそのうちの一つ、さらにその一角に我々はいる。


“Z班”は第13グループに振り分けられて4つのチームでリーグ戦をすることになった。1位のみが明日の本戦へ進めるというわけだ。対戦する3チームともTMPAは平均するとレギュラーの選手は25000以上がずらりだ。

これはいい、負けても言い訳できるし僕は怪我しそうな相手もいない。早く早く全員で棄権するか病欠して・・・東京観光するんや。


そっとアフロ隊長に耳打ちしておこう。

「アフロ、これは余裕だね」

「無論である。もけ」さすがアフロは分かってるな。

うんうん、周りのメンバーもほとんど緊張も無くどこを観光するのか考えているのだろう。


頼もしい・・・。


そしてZ班の第一試合開始だ。

さっさとみんなで棄権しよう。どこ行きたいかな・・・霊眼で周囲を探っておくか・・・浅草はいきたい、イリホビルで食事は・・・ああ高すぎるな。


―――先鋒戦開始。

ダークアリス対ゴッツイ鎧の選手だ。アリスは右のハイキックしかない。TMPAは相手が格上、上手に負けるだろう・。それよりどこに行きたいかな。夜間気配を消して飛び回ったことはあるが観光は初めてだ。どこが面白いのだろう・・・どこも行ったことないけどやっぱり最初は渋谷かな・・・。


―――ん?

――――――ん?ん?歓声が聞こえるな・・・。


・・・戦闘が長いな。


あれ?ダークアリス、結構ダメージ負ってる・・・いや相手にもかなりキック入れてるな。っていうか戦っている?なんで?

アフロ隊長は・・・特に結界内に指示は出していないようだ。


チームZ班、黒川有栖選手・・・勝利です。


お。僅差で勝った・・・勝ってどうする?


え?



―――次鋒戦開始。

次鋒戦は大丈夫だろう、なんといってもダイブツくんだ。間違いない負けるだろう。

・・・さて僕は・・・霊眼で・・・なるほど原宿ってところもお勧めなのか、渋谷とどっちが近いんだ?


―――ん?

――――――んん?


「グモハッチョーーーー!」

逃げる相手選手をダイブツくんが距離を詰めている・・・?

お?地を這うような飛び蹴りが相手にヒットしている。

なんだなんだ?ダイブツくん・・・まさか・・・嫌なことでもあったのかな。


相手は遠距離特化型の女子選手だ魔法攻撃はすべてダイブツくんの周囲でかき消えていく。

スピードはダイブツくんの方が上か・・・。

「グモッチョウ!」

おお?ダイブツくんが払い腰と大外刈りの中間のような技で・・・・。


次鋒戦・・・Z班、滝ノ下ガナリ選手・・・勝利!


勝っちゃったよ・・・?

なんでみんな喜んでいるんだ?あれ?



―――中堅戦開始。


あれ?

村上君がバーサクモードで赤ノ巨人に獣人化していく・・・。

青木君もすごい顔と両手を開くジェスチャーのまま鋼鉄に変化した・・・。

相手選手は赤くてデカいものを見上げている。


これって・・・?


ズッッッゴォゥ――――――ン!!!


赤ノ巨人は鉄塊と化した青木君を爆風を伴い振り回した。

一撃で相手の2人の選手は衝撃波と共にボロ雑巾のようになった。

はあ?


中堅戦・・・Z班。青木・村上ペア・・・勝利。

「みんなーがんばってー!」星崎さん本気じゃないよね?


オオオ‼パチパチパチ!

みんな何してるの?

へ?


3勝してもう勝っちゃったじゃない・・か。

アフロ隊長はは姿勢よく腕を組んだまま動いていない・・・いいの?これで?指示通りなの?


―――副将戦開始。

オールバッカ―は大丈夫だろう・・。


おお!


やっぱり!

上手に自分の攻撃ミスを誘発して・・・相手に全然ダメージを与えていない。

接戦しているように見せかけて上手に負けるつもりだな・・・。オールバッカー・・・できる!できるな!


副将戦・・・チーム“怒涛”・・・宮地大門選手・・・勝利!よし!


「くっそ!かみ合わなかった!くっそ!おれっち・・・くっそ!ああ!」

オールバッカ―そうだよ、そうやって自然に負けないと・・・さすがだ。

「さすがオールバッカ―、なかなか上手い。いい試合だったよ」

「もけちゃん。いや慰めはいらねえぜ。今回は気合入ってるんでよ、おれっちバリバリよ」

すごい・・・コメントまでそれっぽい。


―――大将戦開始。


ああ僕か・・・。もう3勝してチームは勝っちゃってるし。

勝率下がって大学推薦に傷が付くなんてないだろうけど・・・。


相手選手は一応竜族か・・・火竜で・・・TMPA24000か・・・上手に負けてあげてもいいけど。


・・・そうか・・・時間の無駄だ。勝っても負けてもいいのなら・・・早く試合を終わらせよう。


“火焔群現”

と言っている相手選手・・・名前は何だっけ・・・まあいいや。


ダッシュで近づいて心窩部へ掌底を軽く入れる・・・相手はさっきまで僕がいたところを見ている・・・全く対戦選手が見えていないのだ。

よく知らない相手選手は結界際まで転がっていって試合終了だ。


勝者・・・チームZ班・・・神明半月全選手!


係り員が闘技場を清掃し始めている・・・次の試合のためだ。

“Z班”は次の試合のチームと入れ替わるため一旦闘技場を離れる・・・というか次の試合は午後か。


そうかそういうことか。アフロめ。1戦くらい全国大会で勝とうとそういうことか。

なるほどあと2戦負ければ関係ないもんな。つか全員病欠でよくない?


―――降魔六学園はどのチームも強えーな~―――

後で当たるチームの誰かが囁いているが・・・いやいや。

(うちのチームは激弱げきよわですよ・・・ほんの3ヵ月前までは)


予選はそこまで観客が多くないためチーム毎に控室の割り当てはなく開いている観客席を好きに使っている。試合中は普通お弁当は食べないんだけど・・・相変わらずみんなしっかり食べている・・・。まあ負けるしいいか。


食後、ダークアリスとタイガーセンセはキックの練習をしている・・・体術かな・。

村上君はまたトイレにいなくなった。

ハゲの青木君は弁当を3つ食べ、悟りを開いたように座禅を組んでいる・・・煩悩の塊のくせに。


すごいアホな子のオールバッカ―は何か考え込んでいるようだ。

僕らの2戦目までまだまだ時間あるけどアフロはどこ行った?近くにいないぞ。

霊眼で探すか?


「あのぉ」


「あのぉ、もしもしぃ?」


「あのぉ、神明半月全・・・さんですよね」

誰だ?僕に話しかけていたのか?アフロは向こうで誰か女性らしき影と話しているが・・。この・・・目の前の派手な水着の女性は誰だっけ?

「えっと、神明は僕ですけど。なにか?」

「聞いて驚いてくださいであります!わたしはドラゴンディセンダントの女神枠であらせられる江上明日萌という者であります。アスモちゃんと呼んでくださいであります。わかりにくく言うと女神なのであります」ああ・・ややこしいの来ちゃったな。あれかな僕を毒殺の類の人ではないだろう。殺気はない・・けど・・・?

「はい?名前は知っていますよ」

この女子は江上明日萌・・・えっと第3高校1-E組だったっけ。髪は青い・・・水着のような露出の多いバトルスーツを着ていて腰と手に羽衣のようなものが付いている。変わった格好だけどまあ僕もでっかい手足ワカメのようなジャージを着ていたし・・・この子は貧乏な子かもしれない。かわいそうに。

「そんなに見ないでくださいであります。お会いしたことありますはずであります」

「じゃあ見ない。初対面でしょう」特に興味ないし・・見なければいいのか。あんまり気配の無い子だな。さて今後のことを考えないと・・。観光の順番を考えないと渋谷・・・。

「いいえ、あのよく見てくださいであります。あれれ?初対面なのでありますか?」

はあ?・・・ややこしい・・・。それにしても僕より青い髪でさぞ目立つだろうな苦労してるのかな。

「えっとあのですね、なんというのでありましょうか。如月葵さまのお兄様。つまり神明家の男子であられるわけでして、えっとつ、つまり世が世なら王子さまであられるわけで。でも女神ほど偉くないでしょうけれども。わたしを見て何か思うところありますでありますか?」

意味わかんねえ。帰ってくれないかな「そうですね女神枠をお大事にして下さい」

「・・・いえあのですねお兄様、お兄様とよんでいいのでありましょうか?」「ご自由に・・・」

「いえあの、お強いですもんね。お兄様あの・・・えっとあのどうしよう?人も多いし大丈夫大丈夫。自然に自然に」「強くないですよ」自分を元気づけているのか?目がずっと泳いでいるが・・・こういう子だっけ?記憶をたどると違うような気がする。

そういえば更科麗良と空中戦してたよな・・・かなりの強者のはずだが。

「いえいえでも気にいらない輩はすぐ殺してしまいますものね?いえ!あ!そういう意味ではなくってですね?・・・お加減はいかがでしょうか?」「いい加減です」いよいよわからんわ。なんやねんコイツ。

「ああ違いますね。あ!ご気分はどうでしょうでしたか?あ!最近のお話しであります?」「聞かれても?」

とうとう女神であらせられる江上明日萌は自分の顔をぴったんぴったん叩き出した。

「そ、そうじゃなくってですね。なにかを壊しちゃいたいとか思うことありますでしょう?比較的誰でもですけれど?私とかも?この世とかも?」「ありませんね」急に手足をバタバタと何を伝える気だ?

「そ?えええ?であります」何驚いているんだ?


見なくても分かる、でっかいブロッコリーが近づいてきた。

「なにをやっとるんじゃい、もけ、その子は?」もちろんアフロだ、帰ってきたのか。

「さあ?」実際よくわからない。


「いえいえ今お話しさせて頂きました通りドラゴンディセンダントの女神枠、江上明日萌であります。アスモちゃんと人は呼ぶであります」これはいい、対象が僕からアフロに移れば・・・きっと何とかしてくれるだろう。

「ほほうドラディセの姫君、如月葵殿の御学友ですかな。まあお互い試合前なのであいさつは短めにすませましょうな」オオ!使えるじゃないかアフロ隊長・・・さっさと追い払ってください。

「はい、で、あります、はっ!そうです!そうです!いいことを!思いついて!・・・お、お近づきのしるしにあ、あ、あ、あく、握手などよろしければであり、ありま、ありましょうか」

「おお、いいとも。Z班の部長です。以後よろしく」そういってアフロは江上さんの手を取りブンブン握手した。

「えええ!いえ違う!・・・あ、はい」慌てふためきっぱなしの女神は・・・なんのこっちゃ意味わからん、アフロと握手したかったのか。


「かっはあ!おに、おに、お兄様もできましたら可能でしたら是非でありましょう。握手をおねがいいたしたくあります」

「お断りします、握手を装う暗殺術もありますから」青い髪の女神に青い髪の僕がキッパリ断った・・・周囲がドヨドヨと暗くなる・・・女神は絶望したようだ。


・・・何の攻撃だ、この黒い雰囲気は・・・。

「えええええええ!ええええええ!であります」

「そんなこと言わんとしてやらんかい。もけ」

険悪な雰囲気に緑のブロッコリーが仲裁に入ってくる・・。

むう、仕方ない。握手くらいならいいか。


仕方ないので右手を差し出す。なんのプレッシャーだか江上さんは異様に緊張している。

「あ、そ、それでは、あく、握手を失礼おばいたしましてお兄様のお手を・・・」


ゆっくりアスモの手が伸びてくる・・・ゆっくり・・・ゆっくり。


めんどくさいわ。

さっさとこちらから江上明日萌の右手を掴んでブンブン振ってやった。


「いやぁ!!きゃあぁぁぁぁぁ!!」握手したら女神は悲鳴を上げた・・・。

なんなんだコイツ、関わりたくない・・・完全にアレだ。


「え、ええええ!、そ、そんな・・・そんなであります・・・」

彼女の胸の魔晶石が白く輝いている・・・僕は何もしていないし。


今までも様子がおかしかったがさらに江上さんは胸の魔晶石の様なものを凝視しておかしくなっている。そんなに目を白黒させて・・・いいよ、僕は嫌われ者だもの。


「そんなそんな、そんな・・白色光・・・純粋な・・・無垢な白色光なんて・・・そんな・・・そんなあなたは・・・該当者が・・・もう・・・あああ、そんな全部・・・ぜんぶ!であります・・・ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」

血相変えた江上さんは手足を滑稽にバタつかせながらダッシュで帰っていった。


取り残された僕らはさぞ妙な雰囲気になっているのだろう。

「キエ~なんだったのだ?あの女子は?」

「さあ」知るわけないやん。


「何か走りながら言っておるぞ、明日萌だったか。何て言ってるか見えんのか?」

興味あるの?・・・まあ見てもいいけどさ。


全速力で階段を転げ落ちながら・・・。なんだ?

「ああ?・・・えっと、母様に連絡しなきゃとかなんとか口走ってるけど?」

「魔晶石が光って母親に連絡か?母親が何物か分からんと意味がわからんのう」あれ?ちがうな・・・なんだろう。


「・・・胸のは魔晶石じゃないね・・・」

「じゃあなんじゃい」知らんわ。

「イミテーションかな?光るのは原理的にはペンライトといっしょだね」

「さらに意味がわからんのう?マジックアイテムではないのか?」ん?ひょっとして・・・。


霊眼の出力を上げてみる・・・いやいや何もない。


「魔力は検知されない。・・・いやに食いつくねアフロ?ああいうのが好み?」

「何を言っとるんじゃい、もけ」ん?


星崎さんが何やらうるんだ目で見に来てる?っていうか見ていた?

「いまの子って1年女子だよね。も、もしかしてもけキュンと。キャー。アフロ隊長を取り合っているとか。キャー」今でも時々不可思議だ・・・。

「何を言っとるんじゃい!」「?」

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