第14話 工房会議

回覧で、工房会議をする知らせが届き面倒だと思いながら見れば、同行者は必ずテイムしている蜘蛛に詳しい者を同行させることと、妙な一文が記載されていた。


1番蜘蛛や蟲に詳しいとすると、この工房ならレアだが先程、配達で出かけてしまっている。


「となると、ララーザか」


工房の親方としてルシアスが、纏め役として雇っている。

亡き母の幼馴染で、自分が実家から出る為の、協力をして貰っている関係だ。

貴族社会は、こんな町でも付き合いが面倒くさいのだ。


「ララーザ、工房会議だ付き合え」


回覧を見せる。


「珍しいですな。蜘蛛は、工房毎の統計でもとるのですか?」


「分からん。行けば理由も知れるだろう」


定期的に行われる工房会議は、工房毎進行状態の確認から、その時に問題となっている事の話し合いと多岐に渡る。


「使うか分かりませんが、うちの蜘蛛リストも持って行くことにします」


「蜘蛛リスト。あったなそう言えば」


「忘れないで下さい。レアが作ったんですよ。貴方からの仕事だけだと時間が空いてしまうことが多く、かと言って縫い子の仕事をさせるには技術がないあの子を、当初何故連れて来たと思いましたが、ネイリーア様のあの絵から読み取る画力は認めます」


レアがわざわざ描き直ししていたのは、ネイリーアと呼ばれる。母違いのルシアスの義妹の絵だった。

ルシアスも、レアが描き直してくれた絵を元にネイリーアがドレスが作らせるとは、当初全く思いもしてなかった。


レアにさせる仕事を考えていた時に、誰も自分の絵を理解してくれないと、嘆いていたネイリーアの絵を、レアに書き直させてみることにした自分は、英断だったと思う。


「確かにレアは、良く描いてくれた」


子供の落書きから、完璧な絵を書き上げた。


「更に空いた時間で、温室利用して生き餌をしだすとは、考えもしなかった。確かに蜘蛛に寄っては、餌に選り好みがあります」


生き餌の問題は、まだ燻っていると考えているララーザだが、副次効果として蜘蛛レベルが上がっていることに、レアの記録を見せて貰い確認していた。


「最近は、鑑定スキルを使いまくってるしな。まさか鑑定スキルが、レアに発現すると思わなかった」


馬車乗り場近くで、スケッチしていた当時のレアを見つけた時は、面白いと思ったのだ。

製紙スキルと言う、使えないスキルとされていたスキルで作り出した紙を利用して似顔絵描きから、町並みのスケッチした絵を売ることをしていた。


子供の落書き程度かと思っていたが、どこで学んだのか分からないが、かなりの画力だった。


「今なら、良く見つけましたと、褒めて差し上げますが、レアをどうしたいのか考えた方が良いです」


孤児だから、孤児院を出てこの工房で雇う形にはしているが、レアはこの国の出身ではない。

辞めて何処かへ行きたければ、レアは自由に移動出来る。


「レアのやりたいようにさせるとしても、ネイリーアも会いたがっていたからな。ただ鑑定持ちは、貴族やギルドと繋がりがある方が安全ではあるが」


貴族だからを理由に、好き勝手する者も確かに居るのだが、珍しいスキル持ちが狙われる事もあるのだ。

鑑定スキルを発現し、まだ無名な内は良いが、知られるようになると、どうなるか分からない。


「早めに話をすることにする」


「そうして下さい。指導も出来ず、かと言って放置して好き勝手していると、うちの工房連中は分かってますが、他は分かりませんからね」


レアが居て、助かることも確かにあるのだ。

数が多い服飾パーツを絵に描き、探しやすい様にリストを作ったり、鑑定を使い偽物を見分けたり、餌を食べなくなった蜘蛛を鑑定したりと雑用的な事ばかりだが助かるのは事実だ。


「カウルじいさんが、言ってたギルド出張させるか」


どうするかと、ララーザを連れて会議予定の商業ギルド別館に向かうルシアスだった。



会議室に入ると、そこにはライオネスがすでに来て居た。


「よう。今日の議題はなんだ?」


「蜘蛛のことみたいだな」


ルシアスは気づいてないようだが、ララーザとライオネスは集まった工房が、レアが生き餌を売っている工房だけだと気付いていた。


「集まってくれて感謝するが、ルシアスなんで連れて来ない」


レアが魔蟲の配達をし、ダンディな人だと思っていたカルロその人が、今回の工房会議の主催だった。


「レアなら、今日は配達の当番だからだ。急に決められても、対応できるか」


「仕方ない。見ての通り、集まってもらった皆はルシアスの工房の、見習い職人のレアの嬢ちゃんから生き餌を購入している工房だけだ」


何故会議にしたかは、生き餌を与え続けた蜘蛛のレベルが上がりやすいと気付いたからだ。


「レア嬢ちゃんと話したが、職人がテイムした蜘蛛が10年かけないと、念話も出来ないのかと言ったことが発端だな」


カルロの蜘蛛も、まだ念話も出来ない。


「確かに、レアが生き餌をやる前は採取して死んだ蟲を与えていただけだな」


ルシアスは、それが当たり前だった。

職人である自分達は、仕事をこなして蜘蛛を使っている。

わざわざ森まで行って、生き餌を捕まえて連れて来る暇などない。


「冒険者が、魔物倒すと従魔のレベルが上がる。一緒に魔物を倒した恩恵だな。俺たちの蜘蛛も同じなら、レベルを上げスキルを発現させれば、念話もすぐ覚える可能性があるかもしれないと思ったんだが、皆の意見を知りたいと思ってな」


カルロは、自分の蜘蛛が最近リボン織りを覚えたと告げる。

レアに聞けば、従魔もちゃんとレベルがある。

テイムして、町中で生活をするだけではいつまでたっても従魔のレベルが上がりにくい。


何を言いたいかと言うと、レアに蜘蛛のレベルを各自教えてもらい、蜘蛛のレベル毎の所持しているスキルの確認をし、森まで行けないのなら、生き餌をなるべく与えるようにすれば、今までより早くレベルが上がるのではないかと言う事だった。


「なら、これを見せても?」


ララーザは、ルシアスに蜘蛛リストを見せても良いかの許可を得てから机に置く。


「これは、レアが工房の蜘蛛を鑑定で調べた記録帳で、日々更新している記録。鑑定で得た蜘蛛の個別管理など書かれています」


今までの職人のテイムした蜘蛛は、ここまで細かく管理する者など居なかった。


「簡単に言うなら、レアが管理するようになって、工房の若手の持つ蜘蛛レベルは、平均3〜5レベルほど上がったと確認している」


生き餌が効いていると、分かる記録だった。


「そうそう自分達で、生き餌の蟲を捕まえて、勝手にやりだそうとしない方が良いぞ」


ルシアスが、リストの後ろの方のページに描かれた蟲の絵を見せる。


「町中に入れても、安全かの記録がこれだ。蟲の種類によって町中に生きたまま入れない方が良いと鑑定した蟲もいるようだな」


絵に描かれた蟲に、雑食で危険とか、植物の種類で危険や病気の原因になるとまでこと細かく描かれている。


「この記録だけでも、かなり価値があるのは事実。蟲から染料まで見つけ出したからな。ただ本人どれだけ自分が凄いことしてる自覚が、全くない」


レアが自分がやりたくて記録した結果だったが、ルシアスやララーザでもこれを見れば蜘蛛の管理がしやすい。


「そうそう、うちの蜘蛛が念話を覚えたのは10レベルだったぞ。レアとエミリーの蜘蛛意外は、全てマスターと念話可能だな」


曖昧に、念話可能になるまで期間は10年ではなく、蜘蛛を10レベルまで上げることだった。

なんでこんな基本的な事に誰も気付きもしなかったのは、日々普通に働いているだけで、それが当たり前だったからだ。


冒険者でもない、町の職人が進んで魔物と戦う必要もなかった。

蜘蛛と念話出来る者も居たが、長く人に合わせて生活していた影響か、蜘蛛から言い出すこともなかった。


「カルロ、何をしたくて工房会議を?」


「テイムした蜘蛛のレベル上げだ。生き餌が、あるなら無理に森まで行く必要はないから、レア嬢ちゃんに生き餌を続けて欲しくてな」


生き餌の反対をする者や、奴隷落ちした商業ギルドの元受付嬢の話も聞いた。


「テイムした蜘蛛は、どこまでレベルが上げられるか気になった。いずれ森に還す時が来るが、その時まで、テイムした俺達がどれだけ蜘蛛のレベルを、上げられか知りたくなった」


蜘蛛のテイムは、人の生活を楽にするだけでなく、蜘蛛を長く生かせと初めてテイムした時に言われた言葉だ。

三代前の領主夫人が、森の蜘蛛の大本と血の契約を交わし、その血筋が絶えない限り、森の蜘蛛はテイムした者に寄り添う。



「レアは、多分領主様と話し合いになる。レアの鑑定スキルは、考えている以上に強力だ。場合によっては保護する可能性もある」


「となると、領主様が動くまで保護しとかなくて良いのか?」


「町中なら人の目があるし、こっちが無理言って町から出て行くなんてなっても困るしな」


レアは、この国出身ではないのだ。

職人見習いとして雇う時に、レアを気にかけていた冒険者に知らせても良いかと聞かれた。


当初レアを扶養するつもりだったが、レアが孤児院に預けられた直後の精神状態を考え、定期的に孤児院とやり取りしていたらしい。

結局、レアの心情から引き取られることはなかった。


そんな冒険者の知り合いが居るなら、町を出たいと決めたら辞めて出て行くくらいするだろう。

レアは多少の騒ぎを起こすが、見ていて何をしでかすか傍観する対象として見るには面白い。


ルシアスの場合、なまじ身内のドロドロとした部分を知りすぎているせいか、気晴らしのつもりで、雇ったレアのしでかす事を内心楽しみにもしていたし、高位鑑定スキル持ちを自分の手札の1つに出来るのだ。

手離さないで済むなら、今のままにしておきたかった。


「今は無名だから、まだ大丈夫だと考えてる」


何も考えていないようで、レアは町中にかなりの知り合いが多いのだ。

工房の方にと、レアに渡してくれと物を持ってくる者も多い。


「とりあえず、いかにテイムしている蜘蛛のレベルを上げるかには、レア嬢ちゃんの助けが必要で、蜘蛛のレベルが上がるほどこっちも仕事面で助かるわけだ」


レアに当面、生き餌の販売を続けるよう説得しろと、ルシアスに告げた。

ララーザから見せて貰った蟲の絵から、気軽に出来る商売にするには、生き餌の蟲を厳選しないと危険と分かった。

これでも、まだまだ増えている記録らしい。


「これで複製作って、販売してくれると助かるな」


まだまだ本を作るには、描き込んで完成させる必要があるかもしれないが、採取に行く際にあればかなり楽になりそうだ。


「私達がいくら話し合っても、レアに確認しないと何も進まないな」


ライオネスは、要望を書き出しておき、レアに確認してもらうようにすれば良いと提案した。


ここでいくら話し合っても、レアの確認が取れないのだ。

レアにして欲しいことをお願いするか、料金決めてしてもらうか、他のやり方があるか箇条書きでも良いから決めて、ルシアスからレアに渡して貰うことになった。



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