二. タインドゥーム紀
原初世界と古神の支配。そして始源の力の
原初世界には、いっさいの“色”という概念がなかった。そこにあるのは暗黒と、
海と空が白くなるときには大地は黒に染まり、また海と空が黒くなるときには大地は白く光ったとされる。これらは周期的に入れ替わった。時の流れにおいて、色の入れ替わりがひとつの大きな節目となった。これが一年という単位のはじまりである。
さて、色無き世界に降り立った神々の中で、最も気高きものは自らをタインドゥーム(“至上なるもの”の意とされる)と名乗り、他の神々を束ねていった。
古神達はそれぞれ気の向くままに世界を
やがて、古神達は自ら住まう世界に飽いた。彼らは自らの力を奮い、山や木々といった自然を生み出した。しかしこの時代の自然とは、あくまで石のように無機であり、荒涼たる大地しか知らない神々の鑑賞物であった。現在の世界のような、潤いをもたらす存在とはほど遠い存在であったとされている。
一方で、古神達にとってすら脅威となる存在があった。“始源の力”である。
“始源の力”は世界の果てを取り囲むようにしてたゆたっていたが、時折、力同士がぶつかり合うのだ。その度に大地は余波を受け、大きく揺らいだ。また、力同士の争いが激しいときには、敗れて行き場を失った力が大津波のごとく大地に襲いかかった。力の襲来によって神々にも犠牲が出るようになったのだ。
神々は力の襲来を防ぐため、世界の果てに防壁を築くことにした。だが世界の果てに赴いた際に力の襲撃に遭い、死んでしまうことを恐れた神々は、
魂のもととなるべき“音”と“思念”は、霧のようになってうっすらと宙に浮かんでいた。古神達はそれらを大地に取り込むと、人のかたちを作りあげた。
これが原初の人間、のちにディトゥアと称されるようになる者達である。
人間は船を造り、海を渡って世界の果てに赴いた。数知れぬほどの人間が力の犠牲に遭い命を落としたが、感情という概念を一切持たない人間達にとって、死は臆するものではなかった。彼らはあくまで、神々の忠実な下僕に過ぎないのだ。
多くの歳月と犠牲を払い、ついに人間達は世界の果てに防壁となる山々を築き上げた。これが後に言う“果ての山々”である。
生き残った人間達は大地に帰還するが、神の下僕たる彼らに安息の日は訪れることはなかった。彼らは奴隷のように酷使される一方、神々の戯れのためだけに人間同士の血を流して戦うこともあった。
神々は明らかに増長していたのだ。
そしてここから古神達にとっての終末が始まる。
“果ての山々”という防壁によって、永きに渡り“始源の力”の襲来は阻まれてきた。しかし、神々が安穏と暮らすうちにも、“始源の力”は変貌を遂げていたのだ。“混沌”と呼ばれる力は、他の力を飲み込み膨らんで、とうとう“始源の力”のすべてとなった。この“混沌”の力というものはあまりに強大であり、ついには抑制を失って力の暴走が始まってしまったのだ。
“混沌”はいともたやすく果ての防壁を乗り越え、巨大な津波のように大地に襲いかかり、すべてを洗い流した。その後に“混沌”は
しかし、“始源の力の氾濫”によって、栄華を誇った古神達の時代は終焉を迎えようとしていた。タインドゥームは、“混沌”に飲まれて息絶えた。また、多くの神々や人間も死んでしまった。栄華を誇った“タス”は跡形もなく崩壊してしまったのだ。
そして――突如として空が割れた。
裂け目からは今まで見たこともない新たな力が流入してきたのだ。
それはアリュゼル神族と、“色”の帯。
ミルド・ルアンのまたひとつの分身であるアリュゼル神族は、永きに及ぶ諸次元の
そして、色の帯の流入。これこそが魔力を帯びた“原初の色”である。
古神達は新たなる力、すなわち“色”を
ついに、古神とアリュゼル神族は直接戦うこととなった。だが衰えた神々に抗うだけの力はもはやなく、程なく古神達は暗黒の果てへと追放されてしまうのである。約二万年に及ぶ古神達の支配はここに終わりを告げた。
世界中に“原初の色”が流入していくさなか、アリュゼル神族の大いなる方、天帝ヴァルドデューンはおっしゃった。
「この世界こそが我らと、そして我らの子らが
ここにおいて、アリューザ・ガルドの歴史が始まっていくのだ。
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