第363話 出港準備
イングマルは馬車でかけ続けたが誰も追ってこない事がわかるとスピードを落として常歩で移動した。
それにしてもトラブルを避けようと行動すればするほどトラブルになるのは何でか?
仕方ないので桟橋に戻ってイングマルも石材運びを手伝うことにした。
意外に早くに戻ってきたイングマルにエーギルは「早かったな。」と言った。
イングマルは少しうつ向きながら「うん。ただいま。」と言った。
エーギルはイングマルが浮かない顔をしているので「なにかあったな」と思っていたが黙っていた。
エーギルの指示でイングマルも石材運びを行い、大きく重い物から船底に順序よく積み込んでゆく。
多くはマストクレーンで積み込み、大きな石の隙間を埋めるように一抱え位の石を人力で運んでいく。
石積み込み作業は荷崩れしないよう一つ一つ石の形と重さを見てどこに配置するか瞬間的に判断して段取りよく作業しないといけない。
戦闘では無敵のイングマルでも貨物船の船員としてはまだまだ未熟者である。
ベテランの船員たちのやり方をよく見て、船員たちに混じって作業を続けた。
はじめは反発していた船員たちも重労働を一緒にしていくうちに段々と打ち解けていくようになっていった。
夜になって作業が終わり皆で晩飯食っている時にイングマルはふと「皆さんがやる気になるのはどんな時?」と聞いた。
皆「はあ?やる気になる時?」と聞き返した。
イングマルは「うん・・・やる気のない人をやる気にさせるのはどういう方法があるのかと思って。」と言った。
アントニオ船長らは「俺の場合はジョンたちと自分の船を持てたときだな。
あんときゃもう嬉しくてたまらんかったな。」と言った。
他の船員たちは「俺は金だな。」とか「俺は女。」とか「博打で勝ちが続いたときだな、そんなときははもうやめれない。」と口々に言っていた。
イングマルはそれらの話を聞きながら「要するに欲しいと思うものが手に入ったときや手に入りそうなとき、したいと思っていることが出来そうなとき、これがやる気の源になるようだ。」と解釈した。
その解釈を元に具体的にはどんな事をすればいいだろう?と考えるイングマルであった。
それから数日かかって石材を積み込みエミリア夫人の荷も積み込み、出港出来るようになった。
出港前にライオネル卿の屋敷に行ってジェームスに挨拶し「荷が一杯になったのでこれで出港します。」と言った。
ジェームスは「そうか、桟橋初の出荷だな。」と言った。
イングマルは「桟橋は出来たばかりなのでまだほとんどが石材だけで本格的にはなってないですが次来るときは倉庫なんかも建てて行こうと思っています。
それから領内に他所から来た博打の胴元というのが入って来てます。」と言った。
ジェームスは「な、なんだそれは?」と驚いて聞いた。
イングマルは「たぶんジム卿の息のかかった手の者だと思いますが十分気をつけて下さい。
彼らは真面目な農民たちをそそのかして賭博の道に引きずりこんで返しきれない借金を背負わせます。
真面目な農民たちを追い出した後でジム卿の息のかかったチンピラを送り込んで来ます。」と言った。
ジェームスは息を呑みながら「そ、それで?!チンピラを送り込んでどうしようと言うのだ?!」と焦って聞いた。
イングマルは「そりゃもう、後はやりたい放題。真面目な農民たちに嫌がらせ、町の破壊活動、放火に誘拐、殺人・・・。」と言ったところでジェームスは腰抜かす程驚いて「ちょ、ちょ、ちょっと待て!そんなこと?!とんでもないッ!?」と叫んだ。
ジェームスは「おぬしいつ戻って来るのだ?おぬしだけ残ることは出来んのか?」と言って見ていて気の毒になるほど狼狽していたがイングマルは「そうならないように警戒をしてくださいと言う事ですよ。
僕は船の護衛をしなくてはなりませんからね。
騎士さんや村役人、村長たちに協力をお願いしてパトロールを強化してもらって下さい。
警戒している事がわかれば相手もそうたやすく手は出せないはずですから。」と言った。
ジェームスはそれを聞いて少し安心して「そ、そうか、すぐにそうしよう。」
と言ってあわただしく屋敷に戻っていった。
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