第339話 帰還
騎士たちは楽しみながら射的の練習をしていたが一向に上達することもなく、晩飯のときイングマルに「おぬしはいつもこのような訓練をしているのか?」と聞いてきた。
イングマルは「いやー、最近はサボっていて洋上ではほとんどしてないですねー、手入れはしてますけど。」と言った。
騎士たちは「なんだ?ではどこで訓練しているのだ?」と聞いてきた。
イングマルは「前はよく馬上でしてましたねー。」と言った。
騎士は驚いて「おぬしは騎射もできるのか?」と聞いた。
イングマルは「ええ。というより元々そっちが専門でしたね。」
騎士たちは「どういう事だ?初めから船乗りではなかったのか?」と聞いた。
イングマルは「いえ。船は最近乗り始めた所で元々馬車で行商してたんですよ。」と言った。
横で聞いていたエーギルもはじめて聞くことだった。
イングマルは「騎射で矢先に布を丸めたのを付けて実際に撃ち合うんですよ。
毎日練習すれば乗馬も騎射もすぐに上達しますよ。」と言った。
騎士たちは「おお、そうか!だがな~騎士が馬上から弓を射るのはな~・・・・。」とつぶやいた。
騎士は剣か槍と相場が決まっており、弓は身分の低いものがやるものと思われている。
戦いの勝敗を大きく左右する弓兵なのに何故か身分は低いままだった。
貴族は戦争をどこかスポーツのように考えているらしく、戦死するまでやり合わないし捕虜になっても身代金を支払って開放されるのが当たり前と思っている。
最下層の歩兵にとってはそれどころではないし、盗賊団や海賊相手には貴族の常識は通用しないし彼らは捕まれば死刑と相場が決まっているので容赦なく死にもの狂いでやって来る。
その差がいつも騎士たちの甘さとなって現れている。
騎士たちからは必死さやがむしゃらといったものが伝わって来なかった。
結局、あまり上達することもなく単なる退屈しのぎのように時間は過ぎ去り、エストブルグに無事到着することができた。
まあ、トラブルもなく退屈することもなく船酔いもほとんど無かったので騎士たちには満足な船旅であったようだ。
船の荷おろしは皆に任せてイングマルは馬車を下ろし騎士たちを乗せてライオネル卿の屋敷に向かった。
町は相変わらずの喧騒で活気があった。
罪人は無事に護送できたのでもうなにも無いだろうと思っているが罪人の親であるジム・ゲオルク・ジンペルトのお膝元なので報復されかねない。
皆警戒し完全武装ではないが目立たないように鎖カタビラを上着の下に着込み、町の中を移動するときはいつでも戦えるように剣を持って素早く移動した。
イングマルも武装し馬車の椅子の下にはクロスボウを隠してある。
町を通り抜けて更に北に向かって田園地帯を通り抜けるとやがて屋敷が見えてきた。
屋敷に到着するとジェームスが出てきて騎士たちは無事に罪人の護送の任務を完了したことを伝えた。
ジェームスは「おお、それは上々。よくやってくれた!ご主人様もきっとお喜びになるだろう!」と満面の笑みで騎士たちに握手して回った。
ジェームスは騎士が5人しかいないので「他の者はどうしたのだ?・・・・まさか!?討たれたのではあるまいな!?」と焦って聞いてきた。
騎士ハインツは「いえいえ、ご心配なく。全員無事です。
まだ到着してなかったのですね。
実は船に弱い5人は陸路で帰ったのです。
途中で我らはトラブルがあったので遅れると思ったのですが海路の方が早かったとは。」と言った。
ジェームスはほっとして「そうか、全員無事か?よかった。
すぐに祝いの席を設けようと思ったが陸路の者たちも皆帰ってからにするか・・・・・。」とつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます