第322話 洋上にて
イングマルは「さあ始めましょうか?」と言ってクロスボウを取り出して装填するとすぐに撃った。
樽に吸い込まれるように矢が飛んでいき命中すると衝撃でしぶきが樽を中心にして上がり、一瞬遅れで「パコーン」という音が響いた。
イングマルは「さあどうぞ。」というとその場をどいて後ろに下がった。
騎士ハインツは「あ、ああ。」といって最後尾に陣取るとロングボウをつがえた。
船は波のうねりに合わせて前後左右に大きく揺れている。
それに対して樽は船に引っ張られ波の上で跳ねるような動きをしている。
樽に狙いを合わせて矢を放つが外れた。
その後も十数本射ったがすべて外れた。
横で見ていた騎士のリュック・ペイネはたまらずに「えーい、代われ!俺がやる!」と言って自分もロングボウをつがえて放つがこれもすべて外れた。
その後も順番に5人の騎士はロングボウを撃つがすべて外れてしまった。
騎士リュックは憤慨して「クロスボウだから出来るんだ!ちょっと貸してみろ!」と言って強引にイングマルの持っていたクロスボウを引ったくるようにしてつかむと装填して射ったが当然外れた。
イングマルは「おしいですね~。」と言った。[もったいない!いい鋼の矢先なのに!(心の声)]
イングマルは騎士ハインツに「ちょっと貸して下さい。」と言ってロングボウを受け取ると構えた。
イングマルには大きすぎて縦に構えると弓の端が地面に当たってしまうので斜めに構えた。
騎士たちは「そんなんで当たるものか。」と呟いたが放った矢はゆるい放物線を描いて樽に命中した。
その後もイングマルは黙って矢を放つがすべて命中した。
道具ではなく腕前であることをイングマルは黙って証明した。
イングマルは距離を縮めるため樽を手繰り寄せ50m位の距離にした。
何もない海上では遠近感が分かりづらく樽はすぐ目の前に見える。
しかし大きさは親指位にしか見えない。
皆も気を取り直して「これくらいならば」と矢を放つがなかなか当たらない。
かなりいいとこまでいくのだがおしい所で当たらない。
そのうち皆嫌になってきてリュックは「騎士たるものが飛び道具に頼るなど恥ずべきものである!こんなものは興行師のやることだ!」と言い出した。
イングマルは「イヤーあと少しなのにおしいですね~。」と言った。
[こんなお粗末なことでよく騎士と言えるものだ、恥ずかしくないのか?(心の声)]
別に騎士たちが今後どのように生きようとイングマルはどうでもいいのだがこの航海の間、ずっとふてくされて居られても嫌なので何かやる気の出るものはないかと考えた。
イングマルは金貨と銀貨を1枚ずつ取り出して「50mで当てれば銀貨を100mなら金貨を早いもん勝ちで差し上げます。」と言った。
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