第257話  誤解






バーデンスブルグの海軍軍令部の本部長はいつまで経ってもその後の報告がないのでイライラして副官を呼びつけた。



「いったいその後どうなっている!なんでなにも言ってこないのか?!」と怒鳴り付けた。




その剣幕に副官はおしっこチビりそうだったが「も、申し訳ありません!ピターゼンの隣ゼーフェンという小さな町で発見し接触したそうですが逃げられたと報告が入ってます!」と震えながら言った。




「なんだと!逃げられただと?!なんで逃げる必要があるんだ?!」と本部長は語気荒げた。



本部長の言っている意味が理解できない副官は「はあ?いや、もう少しの所で討ち果たせたそうですが抵抗され衛兵数名が負傷したそうです。」と言った。




「な、なんだと?!討ち果たすとはどういう事だ?!」と本部長は目を丸くして聞いた。



「はあ?軍に仇なす者を捕らえ討ち果たすよう厳命されていますが?」と挙動不審になってきた副官は答えた。




「何?!貴様!いったい誰の何の話をしているんだ?!」と本部長は怒鳴った。



「は、はあ?先刻のアウグスト・ブルックなるものですが?」と副官は答えた。




本部長は顔を真っ赤にして「馬鹿者ッ!その者は大事な生き証人だぞーッ!何があっても死なせたらダメなんだーッ!!この愚か者ーッ!!」と怒鳴った。




副官は「ふぇ?!」と情けない声をあげて半泣きだった。




「すぐに命令を取り消してただちに保護しろ!いいか!死なせたら貴様を死罪にしてやる!!」と拳を振り上げた。




副官は「ヒッ!」と悲鳴をあげて敬礼も忘れて新しい命令を作りにすっ飛んで行った。




本部長は振り上げた手でそのまま自分の頭をかきむしりわずかな髪の毛ははかなく消えてしまった。



しばらく悪態をついていたがお粗末な部下達の行動に溜め息しか出なかった。





命令はやはり簡素で分かりやすいものでなくてはならないと改めて反省する本部長だったが現場ではさらに混乱することになった。



バーデンスブルグ周辺はともかくとくに離れた地域ではほとんど同時に命令が届いてしまい、まったく正反対の命令でどちらが正しいのか分からなくなってしまった。




本部長もその事を危惧しこのままではほんとに取り返しがつかなくなると判断して再び船医のジョナサンを呼び出した。








「君にやってもらいたいことがある。君にしか分からない事なんだが・・・・・」と本部長はやつれた顔で話し始めた。




本部長は「実は先刻のアウグスト・ブルックの事なんだが。」と言うとジョナサンは「ええ、その後彼はどうなりました?」とすかさず聞いた。




本部長はばつ悪そうに「い、いや、実は何かの手違いでその者の討伐命令が出されていたのだ。」と言った。




「ええッ?!なんですって?!なんでそんなことに?!そ、それで彼はどうなりました?!」とジョナサンはビックリして聞いた。





「幸い無事逃げ出したそうだ。もちろんその命令は取り消したのだが相反する命令で現場では混乱することになるだろう。」


「それに本人も警戒して軍を見れば逃げ出してしまう。」


「そこで本人を見知っているそなたに直接説得し保護してもらいたいのだ。」


と本部長は説明した。




ジョナサンは「わかりました、すぐに捜索します。」と言った。




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