第250話  出航





船内に脱出に使った水樽を据付け本来の目的の水入れとして使い、他の樽も船内に運び込んだ。



作った炭もかごにつめて積めるだけつんだ。



船内に寝床と小さなキッチンも作り、吊り下げ式の七輪を備えた。


これは木桶に粘土を張り付けて作った。


温かい食事ができるだけでも大分気分が違うものだ。



石と木でいかりも作った。



予備のロープ帆布、余ったタールも樽にいれて積んだ。



何があるかわからないので材木も船外にくくりつけた。




干物を造るときに作った食塩も積み、2つの樽は干物で一杯になった。





さらに大小のクロスボウと数百の矢を作った。



鏃は釘の他、硬い石を砕いて研磨して使った。



前に作ったカヌーも船体にくくりつけた。





イングマルはなかなか出発しようとしなかったのは羅針盤が無かったからだった。




方位磁石がないと真っ直ぐ進むことが出来ず同じ所をぐるぐるまわることになってしまう。



どんなに自分は真っ直ぐ進んでいるつもりでも必ずずれてきてしまうものだ。


ましてや海の上ではなおさらである。





イングマルは釘を叩いて薄く伸ばし片側を焼き入れして丁寧に一方向にヤスリをかけ木片にタールを塗ってこの釘を張り付け、水桶に浮かべてみたが余り当てにならない代物だった。



無いよりまし程度のものであったのでいくつも作っておいた。





準備を整え水樽を沢の水で一杯にしたらいよいよ出発である。


岬の墓にもう一度行って別れを告げた。





「がんばれ」と言われた気がした。




もう一度忘れ物がないかチェックして出発した。




天気はよく風は比較的強く帆を上げるとすごいスピードが出て、たちまち島が見えなくなった。




孤独な無人島暮らしだったがなんの不安も恐怖もなく夢中で、あっという間の無人島暮らしだった。




船の名前をノイエ・カール・ド・ルシュキと名付け進路を北に向けた。





自分で作ったログでスピードを計ると15ノット以上出ている。




ログは15.4mごとに結び目のついた紐でこれを30秒間流して出た結び目の数でスピードを計るものだがイングマルの感覚で作ったもので余り正確とは言えない。



それでも15ノットで24時間だと600km以上進むことになる。




何週間かすればどこかの陸か船に遭遇できるだろう。





スピードが早かったので魚釣りは出来なかった。






何日間も何も見当たらなかったが左手前方に船が見えた。



2隻が並んでいた。




イングマルはすぐに追いかけ造船所のあるビサントの町の位置を聞こうと思った。



みるみる近づいてはっきり見える所まで来て手拭いをヒラヒラふって「オーイ、オーイ!」と呼び掛けたが誰も姿を見せず、ひたすら離れようとしている。



なお近づいて呼び掛けるがなしのつぶてであった。




それどころか矢を射掛けられた。







「話ぐらい聞けーッ!」と叫んだが無駄だった。


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