第197話 町のギャング
イングマルは走って逃げたが、追いかけてくる気配はなかった。
近所の人々や屋台の人たちも恐々としていた。
屋台の人たちに話を聞いてみるとこっそりと事情を教えてくれた。
この辺りを縄張りにしている連中の女をどこかの馬鹿がちょっかい出して袋叩きにしていたら返り討ちにあったそうで何人か大怪我したらしい。
「今そいつらを探してこの辺りでは大騒ぎだよ、まったく迷惑な話だよ。」
と屋台のおじさんはため息をついた。
イングマルはとぼけていたが大怪我とは思ってもいなかった。
「僕は最近この町に来たんだけれど、この辺りを縄張りにしている連中って何?」と聞いた。
身寄りのない子供らを束ねる者達で子供を集めてタダ同然に働かせているごろつきだと言う。
リーダーは町の有力者と懇意にしていてアコギなことも黙認されているようだ。
昔はこうではなかったそうだ。
元々は孤児院から始まり身寄りのない子らを保護しやっていけるようにした組織だったが、代が変わると子供を使って金儲けをするようになってしまったと言う。
今ではリーダーも幹部達もこの組織の出身者で成り立っている。
この街には同じような組織があと2つあるのだと言う。
倉庫街で働いている子供はそのうちの一つのグループのものだった。
昼は倉庫街で働き夜は町で売り子などをしているようだ。
全員にノルマを課せられているという。
ノルマを達成できないものは殴られたり酷い目に合わされたりする。
イングマルは「いつでもどこの世界にも同じような輩はいるものだ」と少々呆れた。
最近じゃあ有力者に取り入っていろんな販路や権益を独り占めにしようと躍起になっていて、そのための賄賂がいるので小さな子等をこき使ってでも金を集めてる。
他の組織も同じような事をしているので街全体が殺気だって縄張り争いが耐えない。
三つ巴という緊張感が絶妙なバランスの上に町の経済や仕組みは成り立っていた。
町長や領主らには賄賂や上納金という形で三者から定期的に金が入ってくる。
そのためギャング達の好きにさせている。
だが三者の抗争が最近激しくなり、一般の人や店まで荒らされたり金品を巻き上げたり「みか締め料を払え!」と脅迫したり暴行したりするようになってきた。
街の人々は恐怖や反発警戒心から外出しようともせず、流通も経済も滞り物資が入手しにくくなっている。
人々も怖がってこの町にあまり寄り付かなくなってきていた。
造船所の親方も材料の入手や職人の確保がしにくくなり、そのためあちこち回って材料集め人集めに奔走している。
イングマルは屋台のおじさんから話を聞いた後、町を回って明日の食材を買いつつ町の様子を観察しながら帰っていった。
町の様子からしてこのままで無事何事もなく済むはずがない。
遠からず大きな抗争になるのは明らかだ。
そう判断すると翌日から仕事の後は夜の街を巡り、この街に巣食う三者のギャングを調べて行った。
アジトやボス、手下、働かされている子供たち一人一人の名簿を作っていった。
以前ジャン・ポールに作ってもらった名簿を見習ったものだ。
名前はイングマルが勝手に考えたものを適当につけていった。
三つのギャングにはそれぞれに獅子、狼、ドラゴンと名付けた。
戦闘員として働いている者には犬、泥棒やスリかっぱらいには猫、スパイのようなことをしている者にはネズミといった具合。
「獅子・犬ー1、赤毛凶暴単純バカ」といった具合に分かる範囲で記入して行った。
ただ働かされている子供らには単に数字をつけていった。
台の上でコーキング作業の終わった船は斜面に丸太を並べてから固定具を外され、満ち潮の時に櫂船で引っ張りつつ、海に打ち込んだ杭にロープと滑車をかけて大勢で陸から引っ張った。
ズルズルと滑り進水した船。
水面に浮かんだバラストを積んでいない船は斜めに傾いたままである。
再び干潮が来ると船は横倒しになり船底を上にさらす。
その間に船底を再びコーキングしていく。
次の満潮までに片面を仕上げておかないといけないので親方も皆も大急ぎでコーキングを続けた。
再び次の満潮が来ると船を今度は反対側に横倒しにし、干潮がきてまた片面の船底をコーキングして行った。
マストも舵もまだついていないがコーキング作業が終了するととりあえず沖に繋いでおいた。
進水後、水圧と水分が加わるとまた少し全体が動いて形が変わるそうで、しばらく置いてからまた水漏れをチェックする。
どんなに丁寧にコーキングしても必ず水漏れは出るそうで、後で水漏れ箇所を再び干潮時に横倒しにしてコーキングし直す。
木造船作りはとても手間隙の掛かるものだった。
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