第195話  夜の町





3人はイングマルを眺めると「よろしくな」と言った。




若い2人はもう一人の初老の男の直弟子で、親戚だと言っていた。




一番若い男が「わからんことは俺に聞けよ、何でも教えてやるからよ。」と親分風を吹かせた。



たぶん今までいつも下っ端でこき使われていたのだろう、年下の新米ができて喜んでいるようだった。




渡り職人はいつもその日ぐらしのようなものなので人間関係はそんなに濃密ではない。




数日間だけ一緒に仕事をして別れて行く場合もあるので、それほど深い仲にはならないようだ。



3人も年若いイングマルのことをあれこれ詮索しようとはしなかった。



みんなあっさりしていた。


イングマルにとってもその方がありがたかった。









次の日からイングマルは暗いうちに起きて馬と犬の世話をし、誰も見えない所で素振りをし朝食を済ませ作業場の掃除と道具の手入れを済ませた。




馬車を持っていたイングマルは親方から再び資材運びを頼まれ馬車で材料運びを行った。




資材運びを済ませた後から船体のコーキング作業にかかった。




先輩達は朝からコーキング作業をしていた。



イングマル独り職人が増えただけだったが馬車を持っているので何かと作業がはかどり、ぐんと造船のスピードが上がった。





イングマル自身もかご作り炭作りは得意だったので物づくりは好きである。




そのため同じ作業を延々と繰り返すこのコーキング作業も別に苦にならなかった。


と言うより船の構造の隅々までよくわかるので楽しかった。






しかし若い先輩の二人はすぐ飽きてしまって、2時間もするとサボリたがってことある事に抜け出してはさぼっていた。




1時間ほどあちこちぶらついてまた作業をしに戻り、またサボっての繰り返し。



親方も初老の男もぼやいていた。




船は中型の商船でこの時代の一般的な形であった。



夕方に作業が終わり、その日はイングマルの歓迎会も兼ねて皆で飯を食べに行った。



夜から町は雰囲気が変わり盛り場のように賑わっていた。



陰気だった職人たちも笑顔で騒いでいる。




初老のベルナールはいつもの店で少し酒を飲んでいつもの食事をし、直弟子の2人アンリとクレインはイングマルを連れてあちこち案内して回った。



彼らは食事内容よりどの店にどんな可愛い娘がいるか?そのことばかりであった。



イングマルにとってはニーナにしろローズにしろ、美しい女性ばかりを見てきているので全く興味が無かった。



やっぱり安くてうまい食べ物、そちらに目がいってしまう。




案内している二人はそんなイングマルを見て「やっぱりまだまだ子供だな、色気より食い気か?」そう言うと少し呆れるようにしてイングマルをほっといてどこかに行ってしまった。




食べ物の他に金属加工品やかごなどの商品を見て回ったが、金銀細工などの金属加工品はブロック村にいたヨアキムの方がよっぽどいいものを作っていたし、かごにしても自分の作るものの方が質が良いと一目でわかった。




そんな風に夜の街を見て回っていると昼間倉庫街で見かけた、麻の繊維をほぐしていた少女の一人を見かけた。



通りで何かを売っていた。



よく見ると他にも見覚えのある子供達があっちこっちで何かを売っていた。




麻の繊維をほぐしてもう使い物にならないような埃のようなものを集めて火打石と一緒に売っていたりしている。


着火用の火口と呼ばれるものだった。




その他に小さな布切れやキルトのようなものなども売っていた。



皆一様に陰気で不健康な様子であった。



イングマルは「夜まで働いているのか?」と思った。




その日はそのまま何事もなく帰ったが、その後も何度か夜の街で彼等を見かけた。




少女達の方も昼間倉庫街で馬車で荷を取りに来るイングマルを見て知っていて時々目があった。



しかし特に挨拶や声を交わすわけではない、互いに意識しつつもそのままであった。




アンリとクレインは相変わらず可愛い娘を探して街を徘徊しつつ帰ってくると女の子ランキングを発表して騒いでいた。









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