第189話 荷役の仕事2
ブローは初めからイングマルを嫌っていた。
自分より年下でグズでノロマのイングマルが立派な馬と馬車を持っていることが気に入らなかった。
どんなに怒鳴ったり殴りつけたりしていじめても、ヘラヘラペコペコしている態度も気に入らない。
みんなからいじめられているイングマルの姿を見ているときは「ざまあみろ!」と思っていたが、ここ最近イングマルは仕事に慣れてきたのか失敗することが減っていった。
怒鳴られるところも殴られるところもあまり見かけなくなった。
食堂のウェイターの女の子も初めの頃は「ノロマ!」と呼び捨てにしていたのだが、だんだん「のろまさん、ノロちゃん」と愛称のようにあだ名のように呼ぶようになっていた。
元々ガキっぽいしいつもニコニコして人を怒鳴ったり殴ったりしている姿を見たこと無い。
いつも誰にでも年下の女子供にもペコペコニコニコと接している イングマルは警戒心を相手に抱かせなかった。
ブロー等はイングマルより数年年上だが、彼らはええ格好をしたいので「自分達から女子なんかと仲良く話していたら負け」みたいなわけのわからない見栄を張っていた。
そのくせイングマルが女の子と仲良くしているのが気に入らない。
2ヶ月目に入るとイングマルはほとんどミスすることもなく作業ペースも他の人と変わらないくらい上がって行った。
「中継地に行くついでに街までのせてほしい」とウェイターの女の子が言ってきたのでイングマルは乗せてあげた。
仕事仲間から一番美人と言われていた娘だが、本人もその事を自覚しているらしく、そこら中で色気と愛想をふりまいている。
男どもの視線と貢ぎ物をエネルギー源にしているかのようだった。
しかしイングマルにはそういう視線がない。
何とかエネルギーを得ようとシナを作ってみたり、上目遣いをしてみたりあの手この手を使うも全く無駄であった。
ひきつった笑顔の下では「このガキ、なんて失礼な!」という心の声。
イングマルにとっては長くとんでもない美人に大勢囲まれ一緒に過ごしていたので美女の基準の物差しが世間とずれている。
ほとんどの女子はイングマルにとっては普通でしかなかったのである。
そんな事はつゆとも知らないウェイターの女の子は「なんとしても振り向かせ貢がせて見せる!」と意気込むのであった。
イングマルの周りの評価が少しずつ向上していくのと対照的に、ブローの評価は頭打ちになっていた。
あと一月でこの短期の仕事も終わり解散する。
その後はみんな他の仕事を求めて散ってゆく。
ブローは田舎から出てきたが昔からみんなに「優秀だ、いい奴だ」と評価されながらもただそれだけであった。
もう何年も同じような暮らしをしていた。
ブローは焦っていた。
なんとかこの状況から抜け出し、偉いさんに取り入りたいと思っているのに全く誰からも「うちに来ないか?」という声はかからない。
ブローには次のあてがないのであった。
イングマルはこの仕事が終われば、海に行ってみようと思っていた。
荷揚げの仕事をしていて感じたのは小さく見える船でも積荷の積載量は馬車とは比べ物にならない程多い。
海に行けばもっと大きな船がある。
イングマルはまだ見たことのない海と大きな船をぜひ見てみたかった。
イングマルにとっては希望しかない残りの日々にたいして、ブローは焦りの日々であった。
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