第145話 訓練2
ペッ!ペッ!と唾を吐きながらローズがやってきて「何しやがんだ!このくそガキーッ!!」と怒鳴った。
イングマルは焦って「いやいや、偶然だよ。土をかけたつもりがたまたま馬フンだったわけで・・・・。」と言い訳をはじめた。
「わざとでしょ!!」と収まらないローズ。
「なんでか?!そんなわけないじゃん!!」とあわてて否定するも、イングマルはヤバいと思った。
「フランシスの前で恥をかかせて、私をおちょくるつもりだったんでしょ!!」
「いやぁ~、そんなつもりわ~。」ローズには考えていた事を読まれてしまった。
「もう勘弁ならん!!」
ローズはそう叫んで、木剣を振り回してイングマルを追い掛け回した。
結局いつものパターンで稽古は終わり、イングマルは頭にコブを作って大きなタルにオケで泉の水を汲んでいれていた。
くさいローズのために、服を洗濯し風呂を沸かす羽目になってしまった。
タルに水を入れると焚き火で焼いておいた大きな石を放り込んだ。
4〜5個入れると丁度いい加減になり、荷台を衝立にしローズはタルのお風呂に入った。
気持ちいいのか、鼻歌まじりで上機嫌でいる。
それを見て他のものが「私も、私も!」と風呂に入りたがり、さらに3つのタルを用意して風呂を作った。
皆交代で風呂に入り、時々焼けた石を入れ替えた。
イングマルは疲れて伸びてしまった。
夕食が済んだ後みんなは思い思いの時間を過ごしていたが、イングマルは新しく焼いた石をタルに入れ直して、3人の男たちで風呂に入った。
月明かりの中、泉のほとりでタルの風呂に入る3人の男たち。
しばらく3人は黙って風呂に入っていたが、しばらくしてフランシスは身の上話をしだした。
フランシスは三男坊で、実家の男爵家は長男が継ぎ次男は早くに養子に出され、自分は実家の敷地の隅の粗末な離れで暮らしていた。
しかし、厄介な仕事や雑用みたいな事は全てフランシスが行い、手柄は家のものになり彼自身のものとはならなかった。
そのための身分的には何にもなく、男爵家の三男というだけで彼自身の爵位や肩書きみたいなものは何もなかった。
騎士の格好をしているが身分はそうではない。
公式に剣士の杖をもらっているイングマルの方が身分的には上ということになる。
当人らは全く気にしていないが。
親兄弟仲は別に悪い事は無く、フランシスが粗末に扱われるのはこの時代跡継ぎ争いは日常みたいなもので、そーゆー争いが起こらないようにするため住まいも着るものも粗末にすることで争う気が起こらないようにするためだと言う。
粗末な暮らしをしていれば、自然とへりくだるような人格になるそうだ。
フランシスは10歳位までは兄弟たちとは仲良く遊んでいたが、それ以降は寝食を共にすることはなく、親兄弟にあうのにも取次の許可を得ないといけなくなった。
フランシス自身はそーゆーしきたりなのでこーゆーものだろう、となんとも感じていなかった。
「おかしな話だなぁ。」と思わず正直にイングマルは言ってしまったが、フランシスも笑いながら「まったくだなぁ。」といった。
「もう騎士なんてやめて、商人として生きたらどうです。」とイングマルは言った。
「カゴ作りも上手なようだし、自分の甲斐性次第でいかようにも生きれますよ。まぁ、だめだと野垂れ死にですけど。」と冗談半分で言った。
それを聞いてフランシスは「ふ〜む。そなたたちを見ていると、それもいいかもしれないと思えてきた。」とぶっきらぼうに答えた。
「農民も捨てたものじゃないよ。」とレオンも口を挟んだ。
「でも、これもまあ、良い領主に当たればの話だけどね。」とレオンは言う。
それを聞いてイングマルはひらめいたように「そうだ!今度みんなで創る村の領主になればいいんだよ。
ローズあたりと結婚して、新しい家名を起こすんだ。
レオンが農業して農産物を作って、僕があっちこっち運んで売る。
みんな強力な戦士だから、強固な砦を作っておけばまず攻め落とされる事は無い。
辛い思いをしている人たちを受け入れるようにすれば、すぐ人が集まってきて賑やかになるよ。」と、そんな夢をイングマルは語っていた。
レオンも「素晴らしい。」と目を輝かせて夜空を見上げた。
フランシスは村を作ることを聞いて「そんなことができたら、どんなにいいだろう。」と遠くを見るようにしていった。
ふと気がついて後ろを振り返ったら、女性たちが目をギラギラさせて男たちを覗いていた。
イングマルは「何のぞいてんだー!!」と言うと、皆蜘蛛の子を散らすようにして離れ、ローズが慌てて「違うわよ!話し声が聞こえたから、なに話してんだろうと思っただけよ!」と慌てて向こうへ行ってしまった。
ローズは向こうへ行きながら、イングマルの言った結婚話にあれこれ妄想して赤い薔薇よりもさらに赤い顔をしていた。
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