第71話  悪人伝



 






 すぐ、司会役の者が簡単に挨拶し、両者対峙し二人だけになった。




二人とも黙って剣を構えた。














フェルディナンドは激しく剣を打ってくる。






イングマルはすべてかわし、たまに打ち込んでいく。



相手も受ける。





会場の声援はやむことがなかった。







しばらく同じような打ち合いが続いたが街道の石にイングマルがつまずいてバランスを崩し、フェルディナンドの剣がイングマルの左手をかすり、血が流れた。




会場から「あー」と声が出る。







その後からイングマルの様子がおかしい。




オドオド、オタオタ、剣も切れも冴えもなくなり、素人目にもへっぴり腰になって来ている。



会場もそれを見てざわついてきた。



フェルディナンドのラッシュが続き、横に払った剣がイングマルの顔に当たり頬を深く切った。





さっきより血がたくさん出てイングマルは悲鳴を上げた。






それからほぼ一方的にイングマルは打たれ続け、逃げごしになってとうとう逃げ回るようになった。





「ああ、ああ!」とイングマルはわめき「やめて!もうやめて!」といいながら逃げ回る。





会場は静まり、やがて 「なにやってんだー! しっかりしろー!」とヤジが飛ぶようになった。




フェルディナンドはチャンスとばかり、激しく剣を打ち込みイングマルを追い回す。




イングマルは全て避けるか受けるのだが「やめて、やめて、いやー!」と泣きわめく。





やがて客席の中に飛び込んで小さな男の子を抱き抱え「来るなー、こいつを刺すぞ!近寄るなー!」とわめいた。




周りの人々はヤジから怒号にかわり、男の子をひったくるとイングマルを殴る蹴るして会場中央に放り出した。





イングマルはなおも逃げ回り、同じように客席の女子供を人質に取ろうとしたがそのたびに殴る蹴るされて中央に放り出される。





イングマルは少女を捕まえて剣を少女にあてがい、フェルディナンドに向かって、来るなー!こいつを刺すぞ!刺すぞー!」とわめく。





フェルディナンドは剣を向けているが、前に出れず足踏みしている。









「どうしたのイングマル?あたしよ。二ーナよ。しっかりして。」





イングマルは全然聞こえていないようだ。


「来るなー!こいつがどうなってもいいのかー!」








「やめて、イングマル。どうしちゃったの? やめてー!」





イングマルは「ごちゃごちゃうるさい!言うことを聞け!」と二ーナのほっぺたをおもいっきりひっぱたいた。




二ーナはその場に倒れた。










二ーナの周りにいたファンの男たちが二ーナを奪い取り、イングマルは棒で殴る蹴るされてまた会場の中央に投げ出された。




そこへフェルディナンドの剣が振り下ろされた。



数センチで避けたが地面に当たった。








イングマルは失禁し、脱糞した。





それを見ていた観客は、イングマルそのものが汚物に見えた。








期待とは真逆のイングマルの行為に、反動が大きかった。




声援から罵倒、怒りに一変した。







イングマルは「イヤだー!!死にたくないー!イヤだー!」と、はって垂れ流しながら逃げ続けた。






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