第34話  雪の日







イングマルは戦争のことなど知らなかったので来る日も来る日も食料集めと警戒、見回りを続けて息つく間もないほど忙しかった。




やがて雪が降り始めた。





穴ぐらの中は想像よりも暖かく、1日中小さな囲炉裏に火がついている。




秋から炉に溜まった灰がいい具合に熱を貯め、長時間とろ火が保てるようになっている。






本格的な吹雪の日などは何週間も吹雪いて外に出られない。








イングマルの話し相手は馬だけで良く晴れた日は外に出て1日中、馬と日向ぼっこをしたりした。






ほとんど動かない日が続いたので、そんなにお腹が減るという感じがしなかった。




外に出れない日は武器や弓矢を新しく作った。






木の彫刻や柳の木の枝などでバスケットや籠などをつくり、秋に収穫したハーブや薬草を干したりして過ごしていた。





退屈とか寂しいとかっていう気持ちはまったくなかった。





山の冬は長かったがイングマルにとっては別に苦にはならなかった。



雪の日のほうが襲撃の心配をしなくていいのでゆっくりできる。






山のように籠が出来てくるとすぐ年が明け、暖かい日が続くようになり雪が溶け始めた。





保存していた食料の在庫を確認し、まだまだ余裕がある。






イングマルは「麓では雪が溶け出しているのだろうなぁ。」と考え、少し遠出をしてみることにした。





草木が芽吹く前の方が移動しやすい。






森の奥へ何日もかけて進んで行く。




ねぐらに良さそうな場所を新たに何カ所も見つけて、将来に備えようと思った。






2週間ほど進み続けると森が終わり、また山があり山を越えると人里が見えた。





その先はずっと畑が続いており、そこはもう他国である事はイングマルにはわからなかった。





南に向かってきたのでエストニアとは反対方向だということがわかるが、どこなのかは分からなかった。




イングマルはまた何週間もかけて元のねぐらに戻り、戻った頃にはすっかり雪が溶け始めていた。




ねぐらの掃除、堆肥づくりなどをしながらこの先どうするか考えた。






イングマルはいくつかの道具、ハンマーや鉈、ノコギリ、鎌などが欲しかった。




こればっかりは今のイングマルには作れない。




情報も欲しかった。




イングマルは金はもっていた。





叔父がくれた金は手つかずで追手が落としていった小銭も回収していたので今の時点でイングマルは小金持ちである。





街へ行けばすぐに買えるものばかりだが人に会うのはなるべく避けたいし、いきなり馬に乗っていけば目立ってしまうので昔叔父に引き取られる前にやっていた炭焼きをし、それを街に売りに行くのを目的にすれば行商人として格好が付くと思い、炭焼きの窯を里に近い森の中に作った。






材料を集めて縦てて並べていきその上に粘土で直接盛り土して煙突を作り、焚き口から火をつける。






火が回ってから焚き口を小さく粘土で塞ぎ、ゆっくり蒸し焼きにしてゆく。




頃合いを見てすべての穴を塞ぎ、自然に冷めるのを待つ。






取り出すと乾いた金属音がして良い炭に出来上り「よくできた。」とつぶやいた。





すべて樫や楢なので硬く火力も強く、火持ちがいい。






馬にそれらを山のようにのせ、自分でも背負子を作って同じように山のように炭を積む。




さらに雪の間に作った籠やバスケット薬草も積んだ。






馬の鞍の内側に剣を隠せるようにしてあり、自分もボロ布で作ったポンチョを頭の上から被り、腰の後ろに2本の短剣を差している。






天気のいい日に街道に向けて出発した。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る